巻頭言
特集できる事務長の育て方

最近,事務長を紹介してくれないかという話をよく耳にする.なかなか良い事務長に出会うことができないのが実情であろう.

なぜ「できる事務長」が求められるのであろうか.病院を巡る環境は激変しており,従来から取り組みが求められていた医療の質の向上や病院のネットワーク化,医療従事者の確保などだけでなく,地域医療構想や働き方改革,そして直近では新型コロナウイルス感染症への対応も求められている.いろいろな病院を見てきて,このような環境の下,伸びている病院には特長があると感じている.例えば,経営状況などを数字で客観的に判断でき,病院長と事務長が危機感を共有できている病院は伸びている.ヒト・モノ・カネ・情報を最大限活用し,多岐にわたる課題に対処するためには,病院長と思いを同じくし補完し合える「できる事務長」が求められているのであろう.

今回,事務長の役割,求められるスキル,病院長との関係性などをイメージできるように特集を組んだ.

巻頭対談を行った齋藤氏は,SQM(済生会クオリティマネジメントシステム)をマネジメントツールとして活用するなど,データに基づく判断の重要性を説き,最後には,事務長としてのやりがいを語ってくれている.

佐合氏は,病院長には補佐する人材が必要であり,事務長はトップと理念を共有することが重要だと強調している.また事務長の制約とそれを乗り越えるために必要なヒントを与えてくれている.登谷氏は巻頭対談の齋藤氏が所属する病院の病院長であり,病院長の立場と事務長の立場の両面からの論考を試みた.院長の心配事,事務長に求められる能力,そして事務長に勉強してほしいことを列挙している.浜脇氏は,医師ではないがトップに立ち病院をうまく回すための取り組みを開陳している.中島氏は,コッター,ドラッカーなどの理論を紹介し,事務長は専門職種を跨いだ全体調整の仕組みであり,接着剤や潤滑油の役割を担うものとしている.

橘氏・内藤氏,朝見氏,豊岡氏には事例を執筆してもらっている.具体的な事務長の人材育成手法やキャリア形成,そしてプロパー事務長育成の重要性に論及している.

各氏,それぞれ異なる環境下で活躍されており,さまざまな取り組みをされていることが分かる.その中でも重要なことはと何かといえば,トップとの信頼関係ではなかろうか.

苦しい状況は誰しも経験する.それをポジティブに乗り越えてこそ,雲外蒼天となるのであろう.今回の特集に触発されて事務長が育ち,病院長と「できる事務長」がタッグを組んで,この難局を乗り越えることを願っている.

川原経営グループ代表川原 丈貴