巻頭言
特集地域包括ケアで輝く病院

医療界は年明け早々より新型コロナウイルス感染症対応で慌ただしい.時事刻々と変わる状況を見据え,終息後に予想される経済不況の中,限られたヒト・カネ・モノをどう活用し,それぞれの病院がどう生き延びるか,医療提供体制をどう維持するのか,予断を許さない状況だ.

ただでさえ,進みゆく超高齢化,人口減少,医師不足,地域偏在といったさまざまな困難を抱えた状況の中で,いかに持続可能な医療・介護・福祉サービスを提供していくか,いかに最期まで安心して暮らし続けることができる地域を作り守っていくかが問われている.そんな中で今回の特集では「地域包括ケア」を取り上げている.

辻氏の論文では医療が「治す医療」から「治し支える医療」への転換を目指して,在宅医療の実践,介護などとの連携を進めながら自ら学習し,医療の役割を変えていくことの重要性が説かれている.

南氏,小野氏,郷氏の論文では,もともと過疎化や超高齢化が進み,医師不足,経営難といった状況を抱えた地域の公的病院が,自らの役割を再検討し,地域内の関連施設との連携を深め,住民活動へと進めてきた共通点がうかがわれる.

武冨氏,仲井氏の論文では,地域包括ケア病棟を活用し,自らの病院を治し支える病院へと変革させ,かつ地域住民,行政を巻き込んだ地域共生社会へ向けた取り組みがそれぞれ実感を持って伝わってくる内容となっている.

巻頭対談の中で田中氏が指摘したように,医療・介護・福祉などの専門家同士の連携だけが重要でなく,住民同士のまちづくりの視点が欠かせない.今や地域包括ケアの実践には住民の主体的な関与が必須であると認識すべきだ.

限られた状況の中で最善の道を模索するには,地域の関係者がそれぞれの枠組みを超えて情報共有し,知恵を出し合い,適切に役割分担する,そんなチームプレーが望まれている.一方で,住民が地域の有限な資源を大切に共有し,それぞれが弁え,かつ自らが地域に貢献することによって,コミュニティを守り維持していくことの重要性を再認識する特集となった.コロナ禍とも言うべき現況の打開にも通じる共通した論考を提供していただいた各氏にあらためて敬意を表するとともに,現在も最前線で対応しておられる病院関係者の皆さんに一刻も早く安寧の日が来ることを願いたい.

台東区立台東病院管理者山田 隆司