巻頭言
特集病院建築の潮流

医療をめぐる環境が変わる中で病院建築のあり方も変化してきている.病院が,医療の高度・専門化,機能分化,地域連携など新しい課題に対応していくためには,病院建物に求められる機能も変化を迫られる.患者の療養環境に求められる水準も変化してきている.例えば,欧米と比較したわが国の病院建物の特徴として,病室の面積の狭さがある.わが国では多床室が中心であるが,世界的に見ると,米国建築ガイドラインでは病室は個室と決められ,アジアでもJCI認証を取得している病院は個室が主流である.個室は患者アメニティ確保,感染症リスク軽減,性別を問わずに入室可能など利点も多いことが理由となっている.

また,わが国において喫緊の課題となっている地域医療構想に基づく病院の統合再編の動きは,病院建物の建て替えや改修を契機とすることが多い.建物が老朽化し,耐震性や医療提供上の問題などから建て替えを迫られている病院も少なくないからだ.

しかし,建て替えを行うためのハードルは高い.本特集の秦論文では,独立行政法人福祉医療機構のデータによると,病院の平米単価は2011年度の20.8万円から2018年度には36.5万円に上昇し,定員1人当たりの病院建設費は2011年度の1130.8万円から2018年度には1971.7万円と1.74倍に達していることが示されている.実際,病院建設費の高騰の影響で,建設請負の入札を行うものの不調となる例も相次いでいる.

建設費高騰の要因としては,東日本大震災からの復興,東京オリンピックの施設整備などによる資材高騰に加え,若年層の建設従事者の不足による労務費の高騰がある.人手不足による労務費の高騰を考えると,今後も病院建設費の水準は下がることはなく,高止まりすることが予想される.ほとんどの病院は,病院の建築資金を借り入れに頼っており,病院建築費の高騰は,病院経営そのものに影響する.

このため,限られた予算でいかに質の高い医療を提供する病院建物の機能を確保するかが課題となり,発注主である病院管理者は知恵を絞らなければならない.しかし,多くの病院関係者にとって,病院の建築を体験することは30~40年に一度であり,ほとんどが初めての体験になる.とはいえ,素人だからと「人にお任せ」では良い病院建築はできない.

必要なことは,情報を集め,徹底的に分析した上で自院にとって最適の手法を導入することであろう.本特集は,わが国における専門家として病院建築に関わってきた研究者や設計者が最先端の情報を提供するものとなっている.病院建築を考えている病院関係者はもちろん,これからの病院経営を考えていく読者にとっても,大いに参考になるものである.

城西大学経営学部教授伊関 友伸