巻頭言
特集病院の殻を破れるか中小病院の柔軟性を生かす経営改革

縮小社会に向かう「令和」の時代に必要なのは“病院”のパラダイムシフトかもしれない.人口減は医療ニーズの縮小を意味する.一方,超高齢社会においても急性期医療のニーズがなくなることはない.脳卒中や虚血性心疾患ばかりではなく,高齢者に特有な肺炎や大腿骨骨折の罹患率は高くなる.また,2人に1人ががんに罹患する時代において,より副作用の少ない薬物療法・免疫療法,低侵襲の手術のニーズも増大する.

問題は,これらの急性期疾患の治療が終わった後の患者,あるいは不幸にして治癒できなかった患者の生活に,病院がどこまで関与するかである.急性期疾患の治療期間が短くなる中で,どこまで「面倒見よく」対応できるかがカギとなるのではないだろうか.さらには,病院に来る前,すなわち未病の段階で,健康増進,生活習慣の見直しに病院は関わる必要はないのか.これは行政,健康保険組合,コミュニティの仕事とおっしゃる読者も多いだろう.しかし,病院がこの分野に参入しない理由もない.入退院支援で言うところのPFM(Patient Flow Management)を拡大したLife Stage Managementを考えていく必要がある.人生の中では,病院の前後の生活が大半を占め,ごく一部の時間に病院がある.あたかも,耐久自動車レース中のピットのような役割だ.短い時間にベストコンディションに調整して過酷なレースに送り出すわけだ.

激しいスピードで流れゆく時代の中で,変化への対応には,素早い意思決定力と強固なマネジメント能力が求められる.それは,病院の大きさや母体ではなく,管理者の能力に規定されるかもしれない.旧来の超急性期大病院は,機能の分担の中で“病院”であり続けるだろう.一方,中小病院は地域における役割と機能の中で,ドラスティックに変態することもあり得る.そこでは,先に挙げたマネジメント能力が必須だ.

さて,本特集で迫井審議官,奥村氏,そして神野が総論を担当した.各々の立場に若干の違いはあるものの,今後2040年へと続く人口構成の変化の中でわれわれが考えるべきソリューションには共通点がある.むしろ,それしかないと言ってもいい.また,林氏には,前職の奈良県医療政策部長として推進した奈良方式地域医療構想に加えて,新たな「面倒見のいい病院」指標を紹介いただいた.5疾病5事業ではカバーしきれない項目で中小病院の特徴を引き出すものだろう.

事例では,各々地域も得意とする分野も異なる3病院を紹介いただいた.まさに迫井論文でいう「地域で光り輝く存在として定着している中小病院」であり,参考にされたい.

病院機能分化の中で,どの病期,ライフステージまでに関わるのが“病院”なのか.新しい時代だからこそ,次の“病院”を考えてみたい.

社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長神野 正博