巻頭言
特集地域医療構想で変わるこれからの病院

本特集では,地域医療構想とそれに関連した施策の内容とその影響についてあらためて整理した.

松本論文では厚生労働省の政策担当者の立場から,あらためて地域医療構想の目的について説明がされ,データに基づいて分析を行い,地域のニーズにふさわしい医療提供体制が各施設の自主的な判断に基づいて行われるという基本が解説されている.

村松論文では福岡県での経験をもとに,データ分析およびその活用に関する地域医療構想アドバイザーの役割について説明されている.地域医療構想で提示されるデータは膨大かつ複雑であり,活用に際してのアドバイザーの役割の重要性が分かる.

野原論文では地域医療構想に関する議論を理想的な形で展開していると評価されている岩手県の事例について紹介されている.県の医療行政を担当する医系技官がデータをきちんと理解していることの重要性が分かると思う.また,同論文で主張されているように,地域医療構想で示されているデータは,絶対的な目標ではなく,あくまで各地域の医療のあり方を考えるための参考資料である.各地方の医療を取り巻く種々の条件が勘案されて構想は策定されるべきである.

末永論文では公的病院の立場から地域医療構想の評価がされている.424病院のリスト公開のネガティブな影響についてもコメントされているが,それ以上にデータを冷静に見て地域のニーズに応える機能づくりや機能別の病床規模を考えることが重要であるとし,これは公私にかかわらず全ての病院に当てはまると論じている.

太田論文においても,地域医療構想の基本理念である,データに基づいてこれからの医療提供体制の在り方を中長期的に考えることの重要性が述べられている.その上で,機能に着目するのであれば公立病院のみに多く補助金が入る公民格差の是正が必要であると主張している.フランスには「公的病院サービス」という概念がある.国が定める公的機能を果たしているのであれば,公民にかかわらず同じ財政支援を受けることができる.わが国にも参考になる考え方である.

松田論文では病院機能を考える上で最も重要な制約条件が人の確保であるという視点から,医師の働き方改革との関係を整理している.高度急性期・急性期を一定以上のがん・手術・救急症例を見る施設と定義するのであれば,働き方改革と新専門医制度のとの関係で,医療機能の集約化が避けられないこと,そしてそれを補完するために病院総合医の育成が急がれなければならないことが説明されている.

本特集が地域医療構想との関係で各病院における今後の運営のあり方を考える上で一助になれば幸いである.

産業医科大学公衆衛生学教室教授松田 晋哉