巻頭言
特集地域の健康を支える病院

 現在,地域医療構想が進むなか,自治体ごとの地域包括ケアシステムの構築が急がれている.各病院はその中での役割を明確にし,全体として地域住民に質の高いサービスを提供できるよう求められている.高齢化が進むにつれ,完全な治癒や回復が望めない患者の割合は多くなる一方で,患者は完全な治癒・回復を期待している場合も少なくない.そのような状況下で,病院には,単に高い医療技術だけを売り物にして,定型的な治療やリハビリテーションを提供するのではなく,地域の実情を理解し,個々の患者・家族が満足できるようなサービス提供が求められている.

 これからの医療サービスは,疾病治療がゴールではなく,一定の疾病や障害を抱えた患者がいかに地域の中で平穏に暮らしていけるように調整するかが目標となろう.そのために病院は患者のみならず,患者の家族,地域のありようを理解している必要がある.病院は率先して地域に関わり,地域の健康を支える視点を持つことが必要となっている.

 本特集の馬場園論文は,そもそも医療者が健康という概念を改めて認識し直す必要性があり,病院全体がそれを理解し,地域の健康を支援する役割を正しく果たせるかどうかで事業の持続可能性が決まってくると述べており,まさしくこれからの地域包括ケアシステム時代の病院の方向性を示している.浜村論文では,病院職員が医療専門職としての社会貢献「プロボノ活動」を通して,自らが専門職として正しく成長することが紹介されており,職員の地域活動への参加の必要性が説かれている.尾形論文ではこれまでのヘルスプロモーション病院としての取り組みが紹介され,また健康の社会的決定要因を踏まえた地域住民との連携の必要性が説かれている.

 江澤論文では地域に密着した病院としての「地域貢献活動」が紹介されており,具体的な事業を通して地域住民との信頼関係を築いていった経緯は参考になる.中澤論文は「食」を中心に据えて,職員が食べることの意義を正しく理解し,自ら地域の「食育」をリードする好事例となっている.

 対談では,斉藤正身氏が理事長を務める霞ヶ関南病院が,高齢化の進む地域の中で,まさに地域住民と一体となって病院事業および付随する地域包括ケアサービスを展開することで,地域にとって不可欠な,いや地域と不可分な病院となっていることに深い感銘を受けた.

 変わり続ける地域の中にあって,常に求められる病院として変化し続けるために,地域と一体となって地域の変化を感じ取ることができるような仕組みを作っておくことの重要性を改めて認識できる特集となった.

台東区立台東病院管理者山田 隆司