巻頭言
特集地域の医療を残すために病院の統合・再編

 わが国の病院の病床数は,1961年の国民皆保険の達成,高度経済成長による国民の所得向上,さらには1973年の老人医療費の無料化などを契機として急激にその数を増やしてきた.1985年の医療法改正により,都道府県における地域医療計画の策定と病床の規制が実施されたものの,その後の駆け込み増床を含め,1992年には168万床に達するに至った.

 OECD Health Statistics 2018によると,わが国の人口1,000人当たりの病床数は13.1床で,米国2.8床,英国2.6床,ドイツ8.1床,フランス6.1床に比べても多い状況にある.人口1,000人当たりの臨床医師数は,日本2.43人,米国2.58人,英国2.82人,ドイツ4.19人,フランス3.15人で,世界的に見ても過大な病床数に少ない医師が分散配置され,過酷な勤務体制を生んでいる面がある.

 国は効率的な医療提供体制の確立を目指すため,2014年6月に成立した医療介護総合確保推進法(医療法改正)で,都道府県に地域医療構想を策定することを義務づけた.現在,構想区域ごとに地域医療構想調整会議が設置され,医療提供体制のあり方について議論が行われている.

 これから到来する本格的な少子高齢社会を考えれば,効率的な医療提供体制を確立することは喫緊の課題である.現在,対応を迫られている「医師の働き方改革」においても,5年後の2024年には,地域医療確保暫定特例水準の医療機関として認められても医師の労働時間は大幅に縮減しなければならない.病院の統合・再編による効率化は医師の労働時間の短縮に資するであろう.

 しかし,病院の統合・再編は簡単には進まない.病院ごとに培ってきた組織文化が違う上に,国立,自治体立,公的,民間など多様な経営主体が運営しており,場合によっては職員の身分の変更を伴うためである.立地する自治体の首長,地方議会,住民・患者の理解を得ることも解決の難しい課題となる.

 自治体病院を中心に数多くの統合・再編に関わってきた立場で言えば,上から一方的に統合・再編を進めてもなかなかうまくいかない.地域レベルで客観的なデータが公開された上で,さまざまな関係者が議論を行う必要がある.その点で地域医療構想調整会議の試みは評価できる.

 本特集では,統合・再編に関するさまざまな事例が報告されている.具体的に病院の統合・再編に取り組む関係者の参考となることを期待する.

城西大学経営学部教授伊関 友伸