巻頭言
特集病院医療に専門医制度は貢献するか

 2018年4月に日本専門医機構による新専門医制度が開始された.その登録医の状況を見ると,東京集中や診療科間の偏在が顕著になったのではという意見も多い.新制度には以下のような疑問が残されている.

2016年6月の見直し時に掲げた地域医療への配慮は果たしてかなえられたのだろうか?
地域や診療科間の偏在は解消されるのだろうか?
新たな制度を創出し,持続可能な制度としていくためには,情報を公開し,その成果を適切に監査し,またPDCAによる改善のサイクルを回し続けなければならない.その仕組みは機能しているのだろうか?
日本専門医機構が認定する19の専門領域とサブスペシャルティ領域以外に,わが国では数多くの学会や団体による専門医制度が創られてきた.これら多様な専門医制度を今後どうしていくのか?
専門医制度は,医師の需給と偏在対策,医師の働き方改革などの医療政策と大いに関連する.それぞれが別々なマイルストーンを設定して動く中,大局的な視点から全体最適化することができるのか?

 このように,新専門医制度とともに日本の病院医療,医師のあり方の根本的な問題が顕在化してきたのではないだろうか.これに対して本特集では,識者,医師会,そして病院団体の立場からの意見を頂戴した.

 武田俊彦・厚生労働省政策参与(前医政局長)からは,医師需給・偏在対策,働き方改革と専門医制度について国の考え方を概観していただいた.「社会的共通資本である医療の中での専門医制度」という位置付けは,医療法,医師法改正において専門医制度を規定した考え方を示したものであろう.

 北村論文では,地域・診療科偏在対策に専門医制度をもって対応することの難しさが示され,また松田・大谷論文は,診療科別偏在解消のカギとして期待される領域別専門医の必要数の推計について,その限界を示したといえよう.

 専門医制度の問題は,この制度だけの問題ではないことが各論文の論調からも明らかだ.それにどう向かっていくか,医師を巡る諸問題とともに横串を通した議論,そしてその場の設定が必要に違いない.

 これからの病院医療のあるべき姿に向けて,本特集がこれらの議論と合意形成に資することができれば幸いである.

社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理事長神野 正博