巻頭言
特集働き方改革の行方

 医師の働き方改革が佳境に入ってきた.本特集の武井論文では,厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」から,宿日直や在院時の自己研鑽の扱いや応召義務など,主要論点について最新の状況をまとめていただいた.同検討会では,健康管理という観点から一定の時間外労働規制はやむを得ないという労働側の意見と,医師の特殊性を踏まえた対応が必要であるとする医療側との意見が対立している.特に,医療現場からは,医師数が足りない中で労働時間の短縮は困難であり,働き方改革は医療の崩壊につながるといった声を多く聞く.

 しかし,今こそ「長時間勤務は当たり前,自己研鑽も診療の合間や病院内に残って勤務時間外に行う,呼び出しがかかればその都度対応する,その結果,長時間勤務がさらに続く」という悪循環を断ち切り,医療の構造改革と生産性の向上を図るチャンスである.そのためには,現場の地道な業務の効率化と経営トップの強い意思が求められる.

 巻頭の対談では,『御社の働き方改革,ここが間違ってます!』(PHP新書)の著者であるジャーナリストの白河桃子氏に,他業界の成功例と失敗例を踏まえて,医師の働き方改革について伺った.医師で弁護士の大磯氏には,勤務医の労働法制上の位置づけを最高裁の判例から再確認し,医師の労働条件整備は待ったなしであり,何から着手すべきかについて議論いただいた.さらに,小西論文では,これからの医師の働き方の一つの形として,「複数主治医制/グループ診療制」を中心に,診療科の特性に応じた診療体制の構築や医師の意識改革の必要性を論じていただいた.

 医師の働き方改革は,今後の医師の生き方とも密接に関わってくる.「人生100年時代の社会保障へ」を提案した自由民主党の「2020年以降の経済財政構想小委員会(通称「小泉委員会」)」のオブザーバーを務めた藤沢氏からは,同委員会から医師の働き方に関する項目を示していただいた.さらに,株式会社電通の働き方改革をリードする小栁氏からは,同社が導入したRobotic Process Automationによって,本来すべき業務に集中できたこと,働き方改革は,労働時間の「削減」ではなく「創出」であるということをご紹介いただいた.

 本特集が,医師の働き方改革の主要論点を整理するとともに,「人生100年時代の医師の働き方」や「医師の負担を軽くしても医療が成り立つ」ためにはどうすべきかを具体的に論ずる一助となれば幸いである.

東京大学医学系研究科国際保健政策学教授渋谷 健司