巻頭言
特集病院が直面する「すでに起こった未来」

 少子高齢化の進行は傷病構造を変え,そして社会環境の変化や医療技術の進歩も相まって患者の受療行動を変化させる.日常生活で携帯端末を用いることが当たり前の状況になり,その使用方法もかつての閲覧中心のものから,SNSで見知らぬ者同士がネット上でつながる,Uberで配車予約を行うといったコーディネーション機能が中心となっている.こうした社会認識の変化により,ICTを活用した遠隔診断やチーム医療の提供が加速しつつある.本特集の小阪論文では,自治体レベルでICTの活用に積極的に取り組んできた島根県の事例「まめネット」が紹介されている.

 超高齢社会では多くの者が何らかの障害を持って生きていくことになる.失われた機能をロボット技術を活用することで補い,障害者の自立に資するものにしようという期待が高まっている.しかしながら,陳論文では,そのために克服されなければならない課題が冷静に議論される.「個々人の残存能力を適度に引き出してくれる程度のロボットが,本来リハビリには必要」という指摘は重要である.

 高齢化の進行は医療・介護・福祉全般のニーズの複合化を意味する.少子化が進行する中,限りある労働力で効率的にサービスを提供するためには,医療・介護・複合体的な枠組みの形成がどうしても必要になる.馬場園論文では,そうしたニーズに応えるものとして近年わが国でも関心が高まっているCCRC(Continuing Care Retirement Community)の可能性について説明されている.

 湯澤論文では,藤田保健衛生大学が地域の医療機関および介護事業者と組織した地域医療連携推進法人「尾三会」の目的とその概要が説明されている.一般的に「大学病院は急性期に特化すべきである」という意見が強いが,超高齢社会においては急性期以後の対応が重要になっており,医育機関が急性期以後の教育・研修を強化することは時代の要請である.そのような観点から尾三会の取り組みを捉えると,その先進性・重要性があらためて理解できる.

 現在,わが国では外国人への医療・介護サービスの提供の在り方が大きな課題となっている.未払い問題への対応など,それを「問題視」する論調が多い中,小林論文ではこの問題に正面から取り組んできた伊勢崎市民病院の実践が紹介されている.他の医療機関にも参考になる内容である.

 松田論文では,厳しい社会経済環境の中で,正しい選択をするために理念の再確認が必要であることを強調し,その上で外国人問題やICTの活用に適切に対応することの必要性を述べている.キーワードは情報の標準化と透明化である.

 本特集が読者の方々のこれからの病院経営の参考になればと思う.

産業医科大学公衆衛生学教室松田 晋哉