巻頭言
特集上手に補助金を活用する

 これから到来する本格的な少子高齢社会に対応するため,医療機関は医療提供体制の再構築を求められている.診療報酬が抑制傾向にある中で,行政補助金は政策誘導の効果的な手段となっている.例えば,2009年度の補正予算による「地域医療再生基金」や2014年度より交付が開始されている「地域医療介護総合確保基金」は政策誘導のための補助金の典型である.地方自治体においても,医師不足による地域医療崩壊を契機として,必要な医療を維持するため,民間医療機関に対し補助金を交付する動きが進んでいる.

 手続きの煩雑さもあり,補助金から遠いと考えがちな民間病院であるが,補助金獲得の方法を習得すれば,新たな収入源となる可能性がある.病院関係者が考える以上に補助金交付のメニューは多い.

 本特集では,総論として,伊関が「医療における補助金の役割と課題」について論述を行い,前田由美子氏に「医療介護総合確保基金の現状と活用事例」,田城孝雄氏に「地域医療再生基金が残したもの」,幸地東氏に「病院に対する公的な補助」について議論いただいた.

 さらに,事例として,森田晃章氏に医師確保事業補助金,大田泰正氏に病院改築補助金,進藤浩美氏に民間病院に対する行政補助金一般,竹田裕昭氏・藤井将志氏に小規模病院における補助金交付について報告をいただいた.これらの具体的な交付例は,病院関係者にとって非常に参考になるものと考える.

 加えて資料として,日医総研の協力を得て,平成28年度の各都道府県の医療介護総合確保基金の交付計画の一覧(病床の機能分化・連携に関する事業のみ)を掲載している.一覧を読むと都道府県において補助の内容に大きな違いがあることが分かる.ぜひ,他県の事例を参考にし,地域の必要に応じた効果的な行政補助の実現に役立ててほしい.なお,医学書院ウェブサイトの『病院』ページから,本誌掲載のパスワードにより,在宅医療の推進,医療従事者の確保も含めた医科の事業一覧の閲覧が可能となっている.

 巻頭では,森田朗氏と人口減少社会における医療提供体制のあり方について対談をさせていただいた.これからわが国の病院に起こるであろう環境の変化は,われわれの想像を超えるものであると思われる.自院が生き残っていくために,情報を集め時代を読み,変化に対応していくことが必要である.行政補助金は,生き残りのための有力な手段となると考える.

城西大学経営学部教授伊関 友伸