巻頭言
特集病院の生産性とは何か

 今回の特集では,病院における生産性を取り上げた.そもそも医療の世界で「生産性」を論ずることが可能か,もしくは適切かという疑問を抱く医療関係者も多いだろう.例えば,ある会合で,厚生行政に長年携わっている国会議員である医師が(アベノミクスの成長戦略では生産性向上が掲げられてはいるが)「医療の世界に生産性という概念を持ち込むのは慎重でなければならない」と発言しておられた.

 翻って病院現場では,7:1看護配置基準の要件の厳格化,重症度,医療・介護必要度の基準の引き上げ,回復期リハビリテーション病棟におけるアウトカム評価の導入,療養病床における医療区分の見直しといった制度改革に加え,生産年齢人口減少による医療人材不足に直面している.その結果,限られた医療資源で一人でも多くの患者にサービスを提供することが求められている.これを「生産性向上」の要請とみなすのであれば,病院の現場は,すでに生産性向上の渦中に巻き込まれているのではないだろうか.そうであるならば,今こそ病院は生産性と対峙しなくてはいけないのではないか.

 あらためて,医療の世界における生産性とは何であろうか.診療報酬点数が社会保険制度の下で一律に決められている日本の病院では,米国のように治療費(診療報酬点数)を上げて付加価値額を高める手段をとることはできない.では,どうすればよいのだろう.

 本特集では,そもそも「生産性とは何か」(泉田論文)と題して,生産性という考え方を病院へ活用するための注意点を論じていただき,続く「生産性重視と医療提供体制確保との調和」(迫井論文)では医療制度改革が病院に求める生産性向上について私見を示していただいた.また,「病院に求められる安全・良質な医療サービス提供と生産性向上」(林田論文),「病院医療スタッフの生産性を上げる働き方改革」(松田論文),「経営指標から見る病院の生産性」(荒牧論文),他産業や他国の病院の事例から学ぶ「病院の生産性改善への示唆」(木畑論文)と,それぞれの観点で論じてもらった.さまざまな観点から考えると,一口で病院の生産性を定義するのは困難かもしれないと思えてくる.

 そこで,医師であり医業コンサルタントとして活躍している裴氏との巻頭対談を読んでいただくと,さまざまな観点から論ぜられる課題と病院現場の現象がぴたりと一致して,病院の生産性をめぐるパズルが完成するはずである.

 病院の生産性は将来にわたり,いや,永遠に議論が続く課題ではないだろうか.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁