巻頭言
特集終末期と向き合う病院

 進みゆく超高齢多死社会において,病院は終末期とどう向き合い,地域ニーズにどう対応していくのか.終末期医療の問題は,単に病院関係者にとって今後の重要な課題というだけでなく,国民生活にとって差し迫った喫緊の課題となっている.個々の患者,家族の意向を尊重しつつ,生命維持に関するさまざまな倫理的な問題を乗り越え,誰もが納得できる穏やかな看取りを,地域ごとにどう実現するか.在宅,施設,病院を含めた地域全体,さらには国民全体での議論が求められている.本特集では現状での課題を見据え,今後のわが国の終末期医療の進むべき方向性について考察したい.

 伯野論文では,国民が安心して人生の最期を迎えられるよう,地域包括ケアシステム構築を進める国の方針が示されており,その実現に向けて在宅医療およびそれを支援する病院整備の必要性が説かれている.

 木村論文では,実際の病院での終末期医療の取り組みが報告されており,患者・家族の希望を反映できるよう,より具体的な事前の治療方針の確認作業の重要性が説かれている.また,治療中止に関する現場での混乱を避けるためのガイドラインも提示されている.

 尾藤論文では医療サービス全般における倫理的側面に関して,医療者側が常にそういった視点で考え,行動することの重要性が論じられている.また実際の病院での倫理サポートチームの活動も報告されている.

 西川論文では,終末期医療に関して主に欧米で進められてきたACP(advance care planning)の手法が紹介されており,医療従事者が学ぶことで,より具体的に患者・家族の意向を尊重した事前のケア計画が可能となることが示されている.

 宮森論文では緩和ケア病棟運営の切実な現状が報告されており,終末期医療の抱える課題に関して,単に医療者側だけでなく,国民的な理解や関心が深まる必要性が説かれている.

 折茂論文では介護施設での終末期の対応の現状が報告されており,今後,介護施設と病院との連携,役割分担がより重要となってくることを示唆する内容となっている.

 小澤論文は,現状の在宅での看取りに対する先進的な事例としての報告となっており,今後さらに病院側が在宅医療においても積極的役割を担う必要性が理解できよう.

 いずれの論文も,終末期の対応に日々悩むわれわれ病院関係者にとって大変参考となる内容となっている.本特集をきっかけに,終末期医療の問題が病院関係者だけでなく,広く地域全体,国民全体の議論となることを期待したい.

台東区立台東病院管理者山田 隆司