巻頭言
特集生き残る病院の事務職

 本特集のタイトル「生き残る病院の事務職」には2つの意味がある.一つは,病院が生き残っていくために,事務職に何が求められているのか.もう一つは,病院の中で必要な職として生き残るために,事務職集団は何をすべきかである.

 論文「病院事務の歴史を考察する」で論考したように,病院という組織を運営する場合,医療を提供する医療者のほか,金銭出納事務,文書管理,施設業務を行う事務職を配置する必要がある.社会が変化し,病院の提供する医療が高度化することにより,大福帳による金銭出納が,複式簿記になり,コンピュータが導入され,電子カルテと連動し,DPCによる診療報酬が導入されるなど,事務職の仕事も進化していく.

 その一方,事務職の仕事は,与えられた業務を確実に行うことが求められる性格もあり,時代の変化に対応した新しい仕事に取り組むという意識を持ちにくい傾向がある.本特集の正木義博氏との巻頭対談において,正木氏が済生会熊本病院に着任した当時,病院の事務職は医療で起きたことの“後始末”をするだけの「作業職」と呼べる状況であったと語られた.残念ながら,現在においても,相当数の病院の事務職が「作業職」レベルの仕事をこなすことに汲々としているように思われる.

 わが国において医療・介護サービス提供体制の改革が進められる中で,病院は存続をかけた競争の中にある.自院が生き残っていくためには,事務職も時代の変化に対応し,能力向上を図っていくことが必要である.単に「作業」をこなすことから,病院の業務についてデータを分析してあるべき方向性を示す,方向性の実現を図るために病院内外に働きかけていくなど,病院をマネジメントする力が求められる時代になってきている.いまや,これまで使われてきた「病院事務職」という職名から「病院マネジメント職」という名称がふさわしい時代になってきているともいえる.

 本特集では,田崎年晃氏より「これからの病院経営マネジメント職に求められるもの」,門田美和子氏より「病院における経営企画部門担当者に求められるもの」,三好彰範氏より「病院経営マネジメント部門における人材養成マネジメントのあり方」,久保田巧氏より「経営戦略と連動させる病院事務職の人材育成システム」,小前貴志氏より「病院事務職が目指すコミュニケーションとは」,藤井将志氏より「30代新任事務長の病院経営改革」の各論考をご寄稿いただいた.わが国の病院事務界をリードする諸氏の論文は,病院事務職のこれからを考える上で大変示唆に富むものとなっている.改めて論文の寄稿をいただいた方々に感謝を申し上げるとともに,より多くの読者の方々が,生き残りをかけて病院マネジメントに取り組まれることを期待したい.

城西大学経営学部伊関 友伸