巻頭言
特集2035年に生き残る病院組織論

 病院組織の複雑さは増している.その要因として,一方では少子高齢化とそれに伴う社会保障制度改革などの外的要因,他方では多種多様な職種のスタッフで構成されるチーム医療が求められるようになってきたなどの内的要因が挙げられる.この両面から病院組織のあり方が大きく変化している.

 激動期を生き抜くためには,対症療法的な組織づくりではなく,将来を見据えて病院組織の構築について根治的に再考すべきではないだろうか.そこで本号では,地域医療構想が目指す2025年を超えて,少産・多死型の縮小社会が到来する2035年を視野に入れた病院組織のあり方について特集を組んだ.

 初めに,経営学者の川村尚也氏に組織論の立場から病院組織について説明いただき,将来の病院組織のあり方について,イノベーション経営の視点で論考いただいた.

 次に,実際に病院経営を行っている5名の病院経営者に「私の病院組織論」という視点で論文を寄せてもらった.『病院早わかり読本』(第5版,医学書院刊)の初版からの編者であり,医師兼病院経営者として長年にわたり医療経営人材育成を行っている飯田修平氏の論文は,「病院組織論概論」として病院経営者のみならず全ての病院従事者必読の内容となっている.続いて,公立病院改革の渦中で成功事例と謳われている地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構日本海総合病院病院長の島貫隆夫氏と,静岡県の掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センター企業長兼院長の名倉英一氏には,それぞれの病院改革・再編統合の状況を踏まえて病院組織論を展開いただいた.民間病院の立場からは,先駆的な取り組みで知られる社会医療法人愛仁会理事長の内藤嘉之氏と社会医療法人財団董仙会理事長の神野正博氏に,病院組織のみならず法人組織の立場も加味して2035年に向けて求められる組織論を論じていただいた.いずれの論者も,病院完結の組織ではもはや立ち行かないという認識は共通しており,その地域ごと・法人ごとの特色に応じた戦略が展開されているのは興味深い.また,独立行政法人福岡市立病院機構理事長/福岡市民病院院長の竹中賢治氏と対談し,病院組織立て直しの経験をうかがった.

 最後に,全編を通して浮かび上がるのは,2035年に向けた戦略・戦術がどれだけ優れていようとも,それだけでは2035年に生き残る病院組織にはなれない.改めて「組織は人なり」の意味を噛みしめて考える必要があるということである.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁