巻頭言
特集 地域医療構想時代の救急医療

 2025年に向けた社会保障制度改革の中で,病院経営者は病床区分に注目しがちであるが,自院が地域の救急医療体制で果たす役割をどのように考えているだろうか.

 そもそも「救急医療」とは何か.この問いに,岐阜県の救急医療体制を構築し,発展進化させている岐阜大学医学部救急災害医学分野の教授で医学部附属病院長を務めている小倉真治先生に対談でお答えいただいた.この対談では,救急医療の歴史的側面,救急医療のメディカルコントロール(MC)のあり方,救急医療で果たすICTの役割,2025年に向けた救急医療の課題についても触れた.

 迫井論文では,救急医療が5疾病5事業の一つであることを踏まえ,地域医療構想策定の中でどのような位置付けになるのか,どのような救急医療体制を目指すのか,さらに,次期医療計画策定との関係についても言及していただいた.

 具体的な救急医療提供体制について,大都市圏については益子論文,地方都市圏については大田論文で論じていただいた.それぞれの地域の抱える課題は異なるが,その解決方法として,その地域の医療と介護の提供者が同じベクトルで地域住民のための救急医療体制を構築する,すなわち地域包括ケアシステムの構築を目指すという共通の解が提示されている.さらに,へき地を含む地方の救急医療体制についてはどうすればよいか.今論文では,この問いに対する答えのみならず,ブランド戦略を用いた医療システム構築のケーススタディの教材にもなり得る貴重な寄稿をいただいた.

 行岡論文では,単に理想論として日本の救急医療のあり方を論じるのではなく,限られた医療資源を効率的に再分配することが求められる日本の状況を踏まえて,大所高所から日本の救急医療の進むべき方向について論じていただいた.Patient Journeyという伏線を理解することが求められる.

 箕輪論文では,救急総合診療の一翼を担うことを期待されて新たにできる「総合診療医」専門医制度について,その役割と課題について論じていただいた.さらに,類似の基本領域の「内科専門医」専門医制度との関係と課題についても言及していただいた.

 最後に,今年4月に発生した熊本地震を踏まえて,災害医療と救急医療の観点から,済生会熊本病院の副島院長に特別寄稿をお願いした.日頃の備えがいかに大事か,そして,災害発生時に病院管理者は何をすべきか,ぜひ精読していただきたい.

 地域医療構想時代に病院は,所在地や規模の大小にかかわらず,救急医療で何らかの役割を果たすことが求められる.

公益財団法人慈愛会理事長今村 英仁