巻頭言
特集 地域づくりの核としての病院

 現在,わが国は世界でも例を見ない少子化・高齢化・人口減少社会に突入している.現状のままで何もしない場合,高齢化が進むとともに,人口の減少の幅が年々大きくなり2008年に1億2,808万人いた人口が,2110年には4,286万人にまで減少する.人口減,少子化,高齢化の進行により,経済規模の縮小,国民の生活水準の低下,地域の消滅など,日本という国そのものが危機に直面する可能性が高い.

 少子化・高齢化・人口減少を解決していくために,病院の担う役割は考える以上に大きい.何よりも重要なのは「地域の健康を支え,地域の崩壊を食い止める」という役割である.医療のない地域では,人は安心して住むことができず,移住せざるを得なくなる.また,「地域の雇用を支える」という面もある.医療は介護とともに地方において雇用を伸ばしている唯一の産業である.さらに言えば,地方の病院は,都市と地方の税の格差を埋める再分配機能を有している.

 「医療や介護の持つ求心力により地域づくりを行う」という役割も大きい.少子化・高齢化・人口減少社会は,医療機関や介護施設への期待が高まる時代でもある.地域を活性化するために,医療や介護の持つ求心力をまちづくりに使うことは,これからの地域にとって重要な視点となる.さらに,「都市から地方への移住を支える」という視点もある.最近,都市から地方への人口の新しい流れとして「日本版CCRC」に関心が集まっている.都市から地方への移住の実現のためには,医療や介護の充実が必要条件になる.

 巻頭の対談において,元三重県知事で早稲田大学名誉教授の北川正恭氏は,「過去はこうだった」という「事実前提」から,「こうなりたい」という「価値前提」の地域づくりの重要性を指摘された.人口減少の流れを変え,日本という国を存続させていくためには,過去の経緯にとらわれず,新しい価値を創造する地域づくりを行っていく必要がある.病院は,価値創造の地域づくりにおいて重要な施設の一つである.

 本特集では,多様な事例を交えて地域づくりの核として期待される病院のあり方について考える.

城西大学経営学部伊関 友伸