巻頭言
特集 医療介護連携 
—地域包括ケアシステムを構築するために

 医療技術は進化を続け,従来では助からなかった癌や血管疾患に対しても治療の手が差し伸べられるようになってきた.平均寿命は世界的にもトップクラスを維持する一方で,一定の障害や管理すべき疾患,介護を要する高齢者が増え続けていることは避けられない現実である.有限な資源の中で,いかに最期まで自分らしい生活を全うできる仕組みを築いていくかは,今や医療福祉関係者に限らず,国民全体の課題でもある.

 医療と介護の一体改革のもと,2014年に医療介護総合確保推進法が公布され,医療介護提供体制の構築など,医療と介護を対象とした新たな制度の確立が進もうとしている.これに伴って,各都道府県,二次医療圏では地域医療構想の策定が,各自治体,地域では地域包括ケアシステムの構築が急がれている.ヒト,カネ,モノ全てに限りある地域の中で質の高いサービスを実現するために,医療と介護をまたぐ広範囲な連携が求められている.

 本特集では,さまざまな先進事例をもとに今後の方向性を探っていく.田中論文では医療介護総合確保推進法について国の立場から,これまでの経緯や今後の計画を概説している.また,米満論文では地域医療構想策定が進む中でどう地域包括ケアシステムを築いていくか,地域リハビリテーションの立場から論考されている.内田論文では地域の病院が中心となった地域包括ケアの実例,石橋論文では診療所の立場から地域の多職種連携のあり方が述べられており,いずれも実践に基づいた論文で他地域にとって格好のお手本となろう.

 また吉村論文では新しい専門医制度で新たに基本領域として認められ,地域包括ケアの要として注目されている総合診療医を取り上げ,地域での専攻医研修の重要性が示されている.山中論文では医学生教育に対して多職種が関わっている実例,また多職種を対象とする地域教育の実例が述べられている.いずれも次世代を育成する立場から地域での先進的な取り組み事例として示唆に富む内容となっている.高橋論文は今後の地域包括ケアシステム構築に向けて,地域住民にとって有用なICT活用と地域連携という視点で論考されており,各地域での活用に向けてぜひ参考にしていただきたい.

 それぞれの地域にそれぞれの歴史,背景があり,地域包括ケアシステムの構築について画一的なマニュアルがあるわけではない.限りある地域の中で限りある命をお互いがどう弁えどう尊重できるのか.地域ごとに住民,行政,医療福祉関係者が一緒になって知恵を絞ることが今求められている.

台東区立台東病院管理者山田 隆司