巻頭言
特集 進化するDPC

 平成15(2003)年に導入されたわが国独自の診断群分類DPC(Diagnosis Procedure Combination)は,平成27(2015)年現在,DPC準備病院を含む約1,900の病院に適用され,退院患者数で約1100万件,病床数で約55万床をカバーしている.平成26(2014)年からは,データ提出加算を算定している病院にも同様のデータ提出が義務づけられ,さらにそのカバーする施設の範囲は広がっている.

 本特集は,厚生労働省のDPC研究班に参加している研究者によって,DPCプロジェクトの目指してきたことを網羅的に説明し,関係者にさらなる情報提供を行おうというものである.松田論文ではDPCの目的とその開発過程について歴史的経緯を踏まえて説明した.紆余曲折はあったものの,医療情報の標準化とその各レベルでの活用という目的に向かってこのプロジェクトが進んできていることが理解していただけると思う.伏見論文では現在の研究班を率いる立場から,重要な検討課題となっている分類の精緻化(CCPマトリックスの作成),病院群の設定,機能評価係数IIのあり方について論考されており,厚生労働省の担当者が意図するところを理解する上で参考になる.

 藤森論文では,DPCを用いた病院管理の方法論について,ベンチマークを主眼として説明されている.また,石川論文ではそれをさらに地域レベルで地理情報システムなどを用いて展開した場合の応用例が示されている.さらに池田論文ではDPCを活用した臨床指標の具体的な方法論が説明されている.これらはいずれ地域医療計画と連動しながら,各施設のマネジメントや医療政策の策定および評価に展開されていくことになるだろう.

 こうしたデータが正しく活用されるためには,情報の精度が保証されていることが不可欠である.阿南論文を読むことで診療情報管理士という新しい専門職が,いかにこの問題に精力的に取り組んできたかがわかる.診療情報管理士の育成が進んだことがDPC制度の発展を支えたと言っても過言ではない.加えて,情報発生源である医師のDPCに対する関心を高めることも,情報精度の保証のためには不可欠である.康永氏はDPCデータを活用することで,諸外国に負けない大規模臨床研究が行えることを臨床家との数多くの共同研究を通して示し,多くの学会関係者のDPCに対する関心を高めた.

 矢島企画官(当時)との対談の内容は当事者の筆者にとって感慨深いものである.開発当初の経緯を知ることでDPCの今後の方向性に対する理解が得られるはずである.

産業医科大学公衆衛生学教室松田 晋哉