巻頭言
[特集]  ロジスティクスが病院を変える

 超高齢社会の到来に向けた改革とその対応策としての地域包括ケアシステム構築議論が盛んだ.それは,2025年を見据えて2007年度に設置された社会保障国民会議,2012年度に設置された社会保障制度改革国民会議などで提言された医療介護福祉をはじめとした社会保障のあり方の方向性を基にして進められている.さらに,今年度には保健医療の価値を高めるためのリーン・ヘルスケアの達成などの目標を掲げた厚生労働省の「保健医療2035」も今後の方向性を提言している.

 一方,プライマリーバランスの2020年度黒字化という政府の財政再建に関する国際公約は,極めて重いものであり,社会保障と経済・財政の調和,すなわち経済の活性化と社会保障給付の削減という大きな流れが方針づけられている.

 このような背景の下,病院は広く社会構造としての人口動態,経済・財政,そして人の価値観の変化に適応しつつ,医療の質の向上のために絶えまない設備・アメニティへの投資,そして人的投資を図らねばならない.その原資を確保するためには,収入増が伸び悩む中でコストの削減に傾注せねばならない.すなわち,組織的かつ理論的なモノや情報の管理の推進によって,より効率化したモノの購入,物流経費の削減を図る必要がある.

 そこで,本特集では,病院の人件費に係る人的投資以外のモノや設備,さらには外部業者による委託業務に関する事項を広く病院のロジスティクスとして,その意義,必要性,経済的効果,共同ロジスティクス(共同購入),見習うべき海外事例などを中心に紹介した.また,情報技術の進歩,IoT (Internet of Things)の時代に向けてのモノのトレーサビリティについても執筆いただいた.加えて,2011年3月11日の東日本大震災や昨今の暴風・豪雨による激甚災害の記憶は,東海・東南海・南海地震,その他災害への備えを急がせている.それぞれの病院では,災害時の役割機能が異なるかもしれない.しかし,患者や職員の安全を確保し,事業の存続を図ることは必須である.災害時における自らのBCP(Business Continuity Plan)から地域のBCP,そして支援のための物流についても執筆いただいた.常時の物流と非常時の物流への対応は,病院が地域で存続し,地域に貢献するための,大きな柱であるに違いない.さらに,巻頭対談では,経営改革の視点からのロジスティクスについて語っていただいた.

 このように,ロジスティクスからみると,まだまだ病院には変わる余地があり,かつ病院は変わらなくてはいけない.

社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理事長 神野 正博