巻頭言
[特集]  在宅医療を支える病院

 慢性的な疾患を複数抱え,介護を必要としている高齢者は増え続けている.医療サービスへのフリーアクセスの下,高齢者の救急利用も増え続けている影響もあって地域によっては救急の受け入れ態勢が逼迫している.命の重みに差はないものの,終末期の高齢者への対応と,小児・成人の救急対応については違いがあって当然である.

 救急車で搬送される高齢者の多くは,自宅や介護施設など,いわゆる在宅で療養している人たちだ.彼らはあらかじめ病状が把握されていることが多く,予想される急変時の対応さえ整っていれば,必ずしも救急搬送を要しない.

 安心して地域で暮らし続ける体制を構築するために,声高に地域包括ケアが叫ばれている中,まずは医療提供者側のネットワーク作りから始めるべきであろう.地域内で競合しながらサービスを提供していては,患者・利用者側の医療・介護サービスに対する不信を助長する原因にさえなりうることを自覚すべきである.競合するのではなく,協調しながら,互いの情報を共有しながら役割分担を進める努力が今必要とされている.医療者が互いに信頼し合い地域内で団結して取り組むことで,患者・利用者にとって良質なサービスが育まれることになろう.

 本特集にはそんな医療者側の知恵が集積している.厚生労働省の考え方をはじめ,各地の先進的な在宅医療の取り組みを紹介する.ネットワーク作りから情報共有,急変時や看取りへの対応,診療所からみた地域連携のあり方などから,病院がどのように在宅医療を支えるかを考える.在宅医療を支える病院作りを通して地域医療構想の議論が進み,各地で質の高い地域医療が実現することに期待したい.

台東区立台東病院管理者 山田 隆司