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病院 2011年9月号(70巻9号)巻頭言

特集
地域医療を支える住民の活動

伊関 友伸(城西大学経営学部マネジメント総合学科 教授)


 全国で地域医療の崩壊が続いている.その一番大きな要因が医師不足である.2004年に導入された新医師研修制度を契機に医師の勤務先が流動化し,地理的条件の悪い病院や過酷な勤務状況にある病院を中心に,医師が相次いで退職するという動きが起きた.医師の退職により,診療の制限や病院の休止に追い込まれる病院が続出し,社会問題になった.

 その中で,住民が「当事者」意識を持って,地域の医療を守ろうという動きが出てきている.かかりつけ医を持ち,自分たちの健康や医療についてよく学ぶ.過酷な勤務状況にある医師の負担を減らすために,適切な受診を行おうというものである.このような住民の動きは,着実に広がってきている.

 本特集では,「総論」として,伊関が「住民が地域医療を支える意義」について議論を行う.また,NHK報道局生活情報部長の飯野奈津子氏に「これからの医療とマスコミ報道」のあり方について執筆をいただいた.

 「先行事例」として,丹波新聞記者の足立智和氏に兵庫県丹波地域の住民の取り組みについて,慶應義塾大学総合政策学部准教授の秋山美紀氏に会員として活動されているNPO法人地域医療を育てる会の活動について報告をお願いした.全国的に有名な2つの活動が,現在,どのような状況にあり,課題の解決に取り組んでいるか,これからの地域医療のあり方を考えるうえで参考になると考える.

 「実践報告」として,宮崎県延岡市長の首藤正治氏に,市の地域医療再生の取り組みについて執筆をいただいた.延岡市は2009年9月に市町村初の「地域医療を守る条例」を制定し,市民,医療機関,市が一体となり,地域全体で地域医療を守る運動を行っている.

 さらに,富山大学附属病院総合診療部教授の山城清二氏に,富山県南砺市と富山大学附属病院総合診療部の協力で開催した「地域医療再生マイスター養成講座」を,福井大学医学部地域プライマリケア講座助教の井階友貴氏に,福井県高浜町が市町村として初めて寄附講座を開設し,地域と大学が一体となって行っている医師養成の試みについての報告をいただいた.2つの実践報告は,これからの大学と地域のあり方について参考になるものと考える.

 さらに,病院から地域に働きかける動きとして,福岡県の飯塚病院広報室長の萱嶋誠氏と愛知県の南医療生活協同組合理事長の柴田寿彦氏に報告をいただいた.飯塚病院は,病院が独自に講座を開き「地域医療サポーター」養成の活動を行っている.南医療生活協同組合は,南生協病院の新築移転の資金を地域住民(組合員)による出資増額・新規加盟により調達.「千人会議」と名付けた住民との会議を毎月開き,病院の建設に向けた議論を行ってきた.

 団塊の世代を中心に高齢者が急激に増加していくわが国において,長期間にわたって医師や看護師などの医療人材資源が不足することが予想される.住民を含めた地域が一体となって守っていかなければ,地域の医療は存続できない.本特集は,これからの地域における医療のあり方を考えるうえで,重要な意義を有すると考える.