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病院 2011年3月号(70巻3号)巻頭言

特集
自治体病院の存在意義

伊関 友伸(城西大学経営学部マネジメント総合学科准教授)


 今年は,国民皆保険制度が確立した1961年から50年を迎える年にあたる.自治体病院の多くは,1922年に健康保険法,1938年に国民健康保険法が公布され,わが国に医療保険制度が確立していく過程で,地域に医療を提供するための施設として戦前から戦後の復興の時期に設置されている.自治体立の病院や診療所が設置されることで,国民の国民健康保険への加入が進み,国民健康保険への加入者の増加が,自治体立の医療機関の設置を促進するという循環を生んだ.

 現在,医療保険制度は,国民の高齢化による医療費支出の増大と景気の低迷による収入の伸び悩みなどにより,保険会計の赤字などの問題を抱え,将来の安定的な医療保険体制に向けた見直しが行われている.

 自治体病院も,深刻な医師・看護師の不足,他の経営主体の病院との競争の激化,お役所体質の硬直的な経営などにより,深刻な経営の危機に直面している.2008年度の「地方公営企業年鑑」によれば,地方公営企業法適用の936病院の総収益は3兆9901億円,総費用は4兆1717億円.純損失は1817億円に及ぶ.総収益のうち5668億円は,収益的収入(損益計算書レベル)として一般会計からの繰り入れが行われており,建設改良のための企業債の償還等に充当される資本的収入(貸借対照表レベル)の1656億円を合わせた地方自治体本体からの繰入金は7323億円に及ぶ.病院の中には,多額の一時借入金や一般会計からの繰入金が原因で,運営規模の縮小や診療休止に追い込まれる病院も出てきている.

 このような自治体病院の経営に対する批判の声も少なくない.自治体病院にだけ,多額の補助金が入っているのは,イコールフッティング(対等の条件)ではないという考えから,民間病院と競合しているような自治体病院は廃止すべきという意見もある.

 自治体病院の存在意義はどこにあるのか,どのようにして経営を変革していくべきなのか,考えてみたい.