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病院 2010年8月号(69巻8号)巻頭言

特集
病院のサステナビリティ
事業継承を考える

神野 正博(社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院 理事長)


 ナショナル・フラッグ・キャリアとして燦然と輝き,誰もがあこがれ,大学生による就職志望ランキング上位の常連であった日本航空.経営再建中のこの巨人は本年1月19日,東京地裁に会社更生法の適用を申請した.グループの負債総額は戦後最大となる2兆円に上るという.これに対して国は9,000億円規模の公的資金を投入し,日航は事実上,国の管理下で3年以内の再建を目指すことになった.同じく公的資金として総務省は毎年8,000億円規模の交付税を自治体病院に注入し,地域医療の確保に躍起となる.公益的な医療を提供する自治体病院事業の永続性を図るための必要な資金であるという.

 今回の大型破綻を通して,企業の持続可能性(サステナビリティ)が問われている.そして,病院でも公私を問わず,公益性の高い事業体として組織の持続可能性のために何が必要か問われているといってよいだろう.

 内需を中心とする企業,そして医療・介護・福祉業界では,少子高齢化と同時に進む人口減少の影響を大きく受ける.特に,地方は過疎化の波に揉まれる.その中で,現存するすべての企業や医療機関,介護・福祉施設の存続は可能であろうか? そこには,各々の持続可能性を賭けた戦略が必要なことであろう.すなわち,需要が縮小化する社会における「選択と集中」をキーワードとした合従連衡や役割機能分担を図っていく必要があるかもしれないのである.

 人口減は需要の縮小化と同時に,提供側の縮小化をも意味する.医療職の不足もまた,医療職の過重労働と立ち去りを招き,合従連衡や役割機能の分化を加速させることになるのである.さらに,このような外的な変化を的確に捉えて自院の医療に関するビジョンを策定し,リーダーシップをとる理事長や病院長といったトップの交代に対するリスクとその影響を回避する知恵こそが何よりも重要となろう.

 病院の持続可能性には単なる収入や収益性の確保といった経営の持続可能性ばかりではなく,社会構造という外的ストレス,継承という内的ストレスが絡み合う.今特集では,このような時代だからこそ求められる事業持続のあり方を考えてみたい.