第5版 序
第4版を発行してから5年が経過した.この間,多くの方々にご支持いただき,このたび第5版を発行する運びとなった.
この5年間にも,急性期・回復期・維持期(生活期)を通して,切れ目ないリハビリテーションサービスが提供されてきた.しかし,その基盤が医療保険から介護保険および障害者総合支援法などへと変化することにより,継続するべきサービス提供が途切れてしまう危険性をはらんでいる.
現行の診療報酬制度では,急性期病棟でのADL機能向上体制に加算がされている.また,地域包括ケアシステムの構築に向けて「地域包括ケア病棟」が設置され,理学療法士が病棟に配置されている.これによって,急性期からADLへのアプローチが意識され,回復期・維持期(生活期)でも継続したアプローチが可能となっている.すなわち,在宅生活を送っていた高齢者が,感染症罹患などにより病院に入院しても,リハビリテーション医療を継続することによって,ADLの低下を最小限に抑え,再び在宅生活に戻れる体制が整いつつある.そのなかで,ADL指導は中核的な位置を占めており,より具体的で,きめ細かい生活障害のとらえ方と,その改善方法の提供が求められている.来春(2018年),診療報酬と介護報酬の同時改定がなされるが,たとえば在宅でのADL指導がどのように位置づけられるのか,注視する必要がある.
本書は刊行以来,日常生活活動学と生活環境学を合冊しており,生活障害を幅広くとらえられるように意図している.これにより,理学療法士を目指す学生や臨床の第一線で理学療法に取り組まれている方々に対して,ADLの概念,ADL評価とその指導にかかわる知識・技術,人の生活環境をとりまく諸制度などの最新情報を織り交ぜながら,最新の標準的な教科書になるよう努めてきた.
第5版では,紙面をカラーとし,より見やすく使いやすいように編集し,一部最新の情報に更新した.また,今版から「生活環境学」の各論に「災害時における避難所の環境調整」を加えた.近年,自然災害が多く発生し,また大規模地震の高い発生確率などが喧伝されているおりから,JRAT(大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会)などの活動を反映したものである.さらに,すべての章ではないが,章末に復習問題として,過去に出題された国家試験問題を掲載した.本書で学んだことが国家試験ではどのような形で出題されるのか,具体的なイメージをもっていただければ幸いである.
巻末付録には,日常生活活動学と生活環境学を実感して学べる体験型演習プランと,それぞれの授業プラン(シラバス案)を新たに掲載した.学生への指導・教育に携わる方々の一助となることを願っている.
本書が引き続き,学生をはじめ,日常生活活動学・生活環境学の指導・支援に携わる方々へ最新の内容を提供し,ADLの指導・支援を必要としておられるクライエントの方々に役立つことを願っている.
最後に,お忙しいなか短い期間で執筆していただいた先生方に深謝申し上げ,また,今回の改訂にあたってお世話くださった医学書院の編集部と制作部の方々にお礼申し上げる次第である.
2017年9月
鶴見隆正
隆島研吾