はじめに
わが国の2015年の合計特殊出生率は1.46で,2年ぶりに上昇したことが報じられました.合計特殊出生率は2005年の1.26を底に緩やかな回復傾向にありますが,それでも人口置換水準2.07(2015年)からは大きくかけ離れており,人口減少が止まる気配がありません.少子化は20世紀後半から21世紀に引き継がれた重要課題の一つであり,母性看護の視点からも時代に即したケアのあり方,世代を伝承する意味をしっかり考えることが求められています.
看護教育の場に目を転じてみると,少子化は母性看護学および助産学の実習に困難をきたす大きな要因となっています.出産数の減少は学生が周産期のケアを学ぶ機会の縮小につながります.看護学生数の増加と相まって,受け持ち事例の確保は年々難しくなっています.貴重な学習の機会をより有益なものにするためにも,対象にしっかり向き合い,情報を的確にアセスメントし,より質の高いケアにつなげていく学習への姿勢が求められます.
本書は看護学生を対象に,臨地実習用の参考書として2009年3月に初版,2012年8月に第2版が出版されました.その後の4年間にも,産科学・助産学の領域ではさらに多くのエビデンスが集積され,ガイドラインとして提示されてきました.しかし,学生の知識,経験ではガイドラインを正確に読み解き,適切なケアに結びつけることは決してたやすいことではありません.今回の改訂では,医学解説,看護過程の解説ともに最新の知見を反映したものになるよう,全項目にわたって見直しを行いました.
母性看護学および助産学の臨地実習では,妊娠期,分娩期,産褥期,新生児期にある対象の生理的変化が理解でき,各期の健康レベルをアセスメントできることが求められます.本書の記述は,手順に従って観察していくことで対象の健康レベルが判断できるようになっています.正常な経過をたどるローリスクの対象の看護過程は,ウエルネスの視点で考えると理解が容易です.この考え方によって,望ましい方向に健康行動を強化するために必要な支援,看護介入を決定していくことができます.正常からの逸脱が認められる場合には,初版,第2版と同様に「問題解決型思考」の手法を用いて,情報の収集・分析から健康問題を明確化し,看護目標の設定,問題解決に至る過程をたどることができるように,根拠を提示しながら記述しています.根拠を明確にすることで,応用可能な知識として定着させることにつながります.
母性看護学の難しさは,個人の健康を考えるだけでなく,次世代の健康を見据えた視点が必要であること,さらに家族,地域へと視野を広げる必要性を求められることにあります.健康を医学的な概念だけにとらわれることなくアセスメントし,適切な看護実践を提供できるかが問われています.
看護過程を学ぶ中で,ウエルネス型の考え方は初版の時代よりずいぶん定着してきました.母性看護はこの思考過程を学ぶには最も適した領域といえます.本書がそのガイドとして役に立つことを願っています.
初版,第2版同様,本書も看護学生のみならず,助産師学生や臨床の看護師,助産師の方々に活用していただけるものと信じています.
最後になりましたが,今回の改訂に際しても医学書院の編集者の方々の温かいご支援と多くの貴重なご示唆をいただきました.心よりお礼申し上げます.
2016年9月
編著者を代表して 石村由利子