基礎から学ぶ楽しい保健統計

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若手の医学・保健関係者向けの入門書。データの種類と記述的解析、統計図表(グラフ)の作成、推定と検定、交絡因子の調整などのテーマをわかりやすく解説。論文や学会発表などが理解でき、エクセルを用いた統計の作り方も身につく。ベストセラーの第1弾 「疫学」(黄色い本)、第2弾 「学会発表・論文執筆」(青い本)に続く、「基礎から学ぶ楽しい」シリーズ第3弾! 本書を読めば、統計を使うのがうまくなる、楽しくなる!
●読者の皆様へ 演習用Excelファイル ダウンロードのご案内 (→本書vii頁)
下のリンクよりダウンロードし,本書とあわせてお使いください。
hokentoukei.xlsx [Microsoft Excel ワークシート 3.5MB]
中村 好一
発行 2016年08月判型:A5頁:194
ISBN 978-4-260-02549-2
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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 とうとう「基礎から学ぶ楽しい……」シリーズも3冊目となった。前2冊と同様,雑誌 『公衆衛生』 連載原稿に手を入れて書籍化していただいたものである。連載の際には紙面の関係で割愛した部分を本書では復活させた。たとえば,平均の差の検定(第4章第2項)のノンパラメトリック法は,連載の時には「紙面の関係で」とごまかして割愛したが,本書では書き下ろした。あるいは,各章(項)の最後の「統計デッドセクション」は連載時には掲載されなかったり,別の連載回に移して同時に2編ということもあった(分量を減らす場合には,どうでもよいところから落ちていくのは当然のことである)が,本書ではすべての章(項)の最後に復活,あるいは所期の目的とする場所に戻させていただいた。『基礎から学ぶ楽しい疫学』 (通称「黄色い本」)の脚注に書いたが,筆者には娘が3人いる。本シリーズは筆者にとっては別の意味での3人娘のようなものである。第1章に「もう1つ書きたいテーマがある」と書いたが,連載が終了してみると,年齢的にも体力的(身体的かつ精神的)にも,「もう,連載は書けないな」と観念しているため,4冊になることはないだろう。同様の理由で4人目の娘が生まれることもないと思う(^_^;)。
 うまい表現が見当たらないが,本書の記載は統計学的(数学的)には厳密さを欠くところがある。筆者が高校時代から定期購読して愛読している『数学セミナー』(日本評論社刊,大学で数学を学ぶ者をターゲットにしていると思われる)では,本書のもとになった連載と同時期に統計学に関する連載が掲載された。やはり数学者が数学者をターゲットとする統計学と,疫学者が書く統計学では厳密さや視点が異なることがよくわかった。ちなみに『数学セミナー』は筆者が定期購読している雑誌では最も購読期間が長い(月刊『鉄道ファン』よりも)。
 決して自慢話ではないが,前2冊はそれなりに売れている。その理由として筆者が推測しているのは,どちらも入門書として単独の筆者で連載・執筆したことである。入門書は単著,あるいは共同執筆であってもできるだけ少ない人数の著者で,というのが筆者の信ずるところであり,いずれもこの点だけは満たしている。このために掲載する項目を初学者にとって必要最小限に絞り,項目によってできるだけ濃淡が生じないように心がけたつもりである。この点が本書でも功を奏していれば幸いである。
 医学書院の方々には連載から本書刊行まで,ひとかたならぬお世話になった。特に雑誌『公衆衛生』編集担当の松永彩子氏,本書担当の西村僚一氏(余談だが,西村氏とは趣味が一致していて,本書を含む3部作の「著者近影」の写真は彼が撮影したものである),本書制作担当の平岡知子氏には足を向けて寝ることができないくらいの恩義がある。その他にも,いろいろな方々のお世話になった。心から御礼を申し上げたい。

 2016年5月
 中村好一

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第1章 統計とは

第2章 データの種類と記述的解析
 第1項 データの種類と特徴
 第2項 数量データの記述的解析
 第3項 質的データの記述的解析

第3章 統計グラフの作成

第4章 統計学的推論
 第1項 推定と検定
 第2項 平均の推定と検定
 第3項 割合の推定と検定
 第4項 相関と回帰
 第5項 オッズ比
 第6項 標本サイズ

第5章 交絡因子の調整
 第1項 標準化
 第2項 重回帰分析
 第3項 その他の多変量解析

第6章 一致性の観察

索引

column 統計デッドセクション
全数調査である国勢調査でおかしなところは?(1)
全数調査である国勢調査でおかしなところは?(2)
偏差値
有効数字
古典的な図表作成の指南書
いつも推定は可能か?
では,パラメトリック検定は不要か?
推定や検定の方法は研究の計画段階で決めておく
統計は何も教えてくれない!?
数学的モデリングは嫌いである
事前の標本サイズ計算は介入研究では必須事項
では,どの程度の大きな集団だと直接法か?
筆者は多変量解析が嫌いである
やっぱり多変量解析は嫌い(というより,気持ち悪い)
「クローンバック」か「クローンバッハ」か?

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保健,臨床を問わず,統計に悩んでいる全ての人に薦めたい
書評者: 村上 義孝 (東邦大教授・医療統計学)
 待ちに待った中村好一先生の≪基礎から学ぶ楽しい≫シリーズの第3弾が出版された。既刊のベストセラー『基礎から学ぶ楽しい疫学』(第3版,2013年,医学書院)と同様,まったくの初学者でもわかりやすく「楽しく学ぶ」をコンセプトに,欄外の注釈で読者の関心を引きながら,重要な部分はしっかり教えるストロングスタイルは健在である。今回のテーマは統計。巷の教科書では「正規分布はこういう式です。検定はこうします」と,説明は天下り的,内容は無味乾燥になりがちであるが,そこは中村先生である。簡潔にして要を得た説明には,筆者の長年にわたる教育のエッセンスが詰め込まれている。本書を読み進めるうちに,中村先生の名講義を聴いているような,そんな気分にさせてくれる名著である。

 本書の内容であるが,統計学とは,データの種類と記述的解析,統計グラフの作成,統計学的推論,交絡因子の調整,一致性の観察の6章に分かれている。保健医療分野で用いられる従来の保健統計の教科書の構成を踏襲しつつも,近年コメディカルの研究でも使用される,カッパ統計量やクローンバックのα係数などの信頼性指標,臨床研究でおなじみの生存時間解析や統計モデルについても触れられており,大学院講義にも十分耐えられる内容となっている。

 本書の特徴の一つとして,第2章のデータ入力・データチェック,第3章の図表作成といった,通常の教科書に載っていない重要な点がしっかり説明されている点がある。臨床研究の不正事件に端を発しデータ管理の重要性が声高に叫ばれている中,データ解析前のデータ入力・データチェックは極めて重要であり,大変参考になるパートである。また実際の論文指導や査読では,図表の不出来のせいで論文の主張があいまいになるケースが多く,せっかく面白いリサーチクエスチョンであっても,論文掲載の障害になることも多い。図表という「論文の肝」となる部分についての丁寧な説明を読むだけでも,本書を購入する価値があると言っても過言ではない。

 ここ数年,医療統計学の分野ではさまざまな本が出版されているが,その多くは臨床研究,臨床試験を念頭に置いたものである。一方で公衆衛生分野,特に保健所の実務に携わる保健師や,保健医療系の大学生・大学院生を対象とした本は少ないのが悩みであった。本書では学習効果を高めるため,著者が作成した演習用Excelシートが用意されている。医療統計学は実践的な学問であり,実際に手を動かして学ぶことで初めて「わかる」ことが多い。ただ市販の統計パッケージは高価であり,昨今の大学で教育用に購入するのは非常に難しい。本書と演習用Excelシートをインタラクティブに使用することによって,具体的な例題に即した統計手法の理解ができるのではないか,と思っている。

 最後に,≪楽しく学ぶ≫シリーズ恒例の欄外コラムやデッドセクションは今回も健在である。言葉の端々に筆者の主義主張が散りばめられていて,読む者を飽きさせない。統計を学ぶこと,使うこと,教えることに悩んでいる人はぜひこの本を開いてほしい。本書の中にきっと探していた答えが見つかるはずだから。
ユニークな著者による,ユニークな体裁の,大真面目で実用的な保健統計入門書
書評者: 上嶋 健治 (京大病院臨床研究総合センター教授・EBM推進部)
 敬愛する中村好一教授(自治医大公衆衛生学)が,≪基礎から学ぶ楽しいシリーズ≫の第3作目となる本書を発刊されました。シリーズを通しての豊富な脚注(本書では総数140!)と,「統計デッドセクション」と呼称されるウィットに富んだコラム(総数15)というユニークな体裁はそのまま継承されています。

 著者は第1章の「統計とは」で,「本書の表題は統計であって統計学ではない」と述べています(p.3)。まさに本書は統計学の教科書ではなく,秀逸な「統計の実用書」に他なりません。本文では,学問的に興味があるだけの部分にはわざと触れられておらず(それ故「楽しい」わけですが),どうしても触れざるを得ない部分には,著者独自の見解を加えて脚注とコラムにたっぷりと記載されています。

 以下,第2章は「データの種類と記述的解析」で,分析統計よりも一段下に見られがちな記述統計こそ重要とする著者のポリシーが十分に伝わってきます。第3章は「統計グラフの作成」について,得られた結果を印象深くかつ正確に表現する方法が情熱的に語られ,第4章の「統計学的推論」では,推定と検定,相関と回帰,オッズ比,標本サイズについて本書の1/3が割かれており,推定と検定の概念,相関と回帰の違いなどもわかりやすく解説されています。第5章は「交絡因子の調整」について,標準化と多変量解析をテーマに実例を元にユニークな表現で説明され,「筆者は多変量解析が嫌いである」(p.157)という,大きな声の独り言も呟かれており,第6章は「一致性の観察」についてコンパクトにまとめられています。

 同時に,各章・各項では,「ポイント」として四つの重要事項が挙げられており,これらもありきたりの内容ではなく,「データ入力には必ずミスが付きまとうと考えて対処する」(p.12)や「有効数字に気をつけよう」(p.39)など,読者に対してフレンドリーにminimum requirementが明示されています。本書はユニークな体裁ですが,保健統計の概念とその解説が必要十分に記載されていること,内容が極めて実務的であること,しかも応用範囲の広い内容がわずか180ページたらずに盛り込まれている点において,質の高い大真面目な実用書に仕上がっています。さらには,本書の学習効果を高めるために,医学書院のHPから67枚の演習用のエクセルシートをダウンロードできるようにも配慮されており,疫学研究や臨床試験に携わる方の「統計入門」の必携書としてふさわしいものでしょう。

 なお,著者は本シリーズも3部作で終了と考えておられるようです。背景には来年の第21回国際疫学会会長をお務めになるなど,公私にわたる多忙な生活があるのでしょうが,評者よりも若く,まだまだ老け込む歳ではありません。一読者としても,本書で本シリーズを終了することなく,ぜひとも続編を期待したいと思っています。

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