JRC蘇生ガイドライン2015

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各国の蘇生協議会を束ねる国際組織ILCORが5年ぶりに作成した国際コンセンサスであるCoSTRに基づいて、日本の実情にあわせて作成されたガイドライン最新版。日本蘇生協議会が総力をあげ、徹底的な議論を経て作り上げた。新たにファーストエイドの章が新設されたことをはじめ、すべての内容が改めて検討された。救急蘇生の現場に立つ、医師、看護師、救急救命士をはじめとする全ての人に必携のガイドライン。
監修 一般社団法人 日本蘇生協議会
発行 2016年02月判型:A4頁:592
ISBN 978-4-260-02508-9
定価 4,950円 (本体4,500円+税)
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序言

 JRC蘇生ガイドライン2015のオンライン版が2015年10月16日に米国,欧州のガイドラインとともに同時発表された.このたび冊子版の出版に至り,長期間にわたる関係者の尽力に深謝したい.
 蘇生ガイドラインはエビデンスに基づき国際標準化された世界でも数少ないものであり,それには国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation:ILCOR)のこれまでの活動によるところが大きい.わが国の蘇生科学における国際発信の契機となった院外心停止登録はウツタイン様式を用いているが,この様式が作成されたのは1992年のウツタイン会議である.そのメンバーが母体となり,ILCORが設立された.その後ILCORは2005年に“心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(Consensus on Resuscitation Science and Treatment Recommendations:CoSTR)”を発表し,このCoSTRに基づき,各地域や国の実情に合わせてガイドラインが作成された.
 わが国の心肺蘇生の普及には,欧米の取り組みに比べて約30年の遅れはあったものの,過去10年間の進歩はめざましく,遅れを取り戻す動きが目立った.その要因には,米国心臓協会(AHA)との連携による一次救命処置(BLS)や二次救命処置(ACLS)トレーニングシステムの導入,日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council:JRC)の設立,日本を中心としたアジア蘇生協議会(Resuscitation Council of Asia:RCA)の設立とILCORへの加盟,CoSTR作成への関与,市民への自動体外式除細動器(AED)使用の解禁などの蘇生活動による救命意識の向上,さらには地域ウツタイン登録から全国登録による院外心停止大規模データベース解析からの国際発信,またそれを支える科学研究費による支援,JRCによる日本蘇生科学シンポジウム(J-ReSS)の開催,そして体温管理療法や胸骨圧迫のみのCPRに関するわが国からの発信などが挙げられる.これらの活動をもとに,わが国においても2010年,2015年と国際連携による世界標準のJRC蘇生ガイドラインを作成することが可能となった.
 2015年のCoSTRやガイドライン作成の背景となっているのが,エビデンスの評価と勧告の方法の大きな変革である.これまでのエビデンス毎の評価ではなく,複数のエビデンスをアウトカム毎にコクランレビュー等のシステマティックレビューを用い,診療の勧告をするもので,GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システム(以下GRADE)と呼ばれている.GRADEは,エビデンスの質評価や推奨度の決定に透明性のある明確なプロセスに欠ける,患者の価値観や好みが考慮されていないなどの従来の診療ガイドラインにみられた問題点を克服するため開発されたものである.WHOをはじめ世界の主要な団体が診療ガイドライン作成にGRADEを採用しており,ILCORも今回GRADEワーキンググループへ参画した.国際標準を目指すため,今回のJRCガイドライン2015もGRADEを採用した.わが国で大規模にGRADEを採用した初のガイドラインであり,今後のわが国における診療ガイドライン作成時の範となるものと自負している.
 CoSTR 2015では,初めてFirst Aidの章が加わった.今後わが国において東京オリンピック開催などの海外からの渡航者が急増するイベントに備えて,市民が可能な応急処置の適応拡大やトレーニングの必要性が求められるため本ガイドラインでも取り上げた.また,ILCORでは触れていないが,2010年と同様に国内外で大きな関心を集めている脳神経蘇生を取り上げた.わが国から6つの領域へCoSTR作成のタスクフォースのメンバーとして6名の専門医が参画した.わが国からの情報発信や国際連携に今後も若い人材が力を発揮できる場として,ILCORやRCAでの活動が期待される.
 本ガイドラインを,わが国での救命率のさらなる向上のために,蘇生科学の進展,市民と医療従事者への心肺蘇生法の標準化と普及啓発に役立てていただくことを切望する.CoSTR入手以来,5か月という短期間で日夜問わずガイドライン作成にご尽力いただいた,編集委員をはじめとした兼務含め188名の作成委員の先生方,外部評価をいただいた学会からの専門委員,市民代表委員,法律家,GRADE勧告による独立した利益相反委員,御指導いただいたGRADEワーキンググループのメンバーである相原守夫先生はじめGRADEエキスパートの先生方に感謝申し上げる.

 2016年1月
 一般社団法人日本蘇生協議会代表理事
 JRC蘇生ガイドライン2015作成編集委員長
 野々木 宏

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序言
全作業部会員一覧
外部評価委員およびCOI委員一覧
JRC蘇生ガイドライン2015作成にご参画頂いた学会
日本蘇生協議会正会員名簿
利益相反(Conflict of Interest : COI)リスト
目次

序文
   1 JRC(日本版)ガイドライン2015までの作成経過
   2 わが国の心停止の状況
   3 JRC(日本版)ガイドライン2015の特徴
   4 今後の課題
   5 利益相反(COI)管理委員会の設置とCOI管理について
  JRC蘇生ガイドライン2015作成の方法論
  略語一覧

第1章 一次救命処置
   1 はじめに
   2 BLSのアルゴリズム
   3 アルゴリズムの科学的背景
   4 特殊な状況下の一次救命処置(BLS)
    CoSTR 2005とCoSTR 2010のトピックの中で今回は検討外としたトピック
    ILCOR BLSタスクフォースによるサマリー

第2章 成人の二次救命処置
 1 はじめに
 2 心停止アルゴリズム
   1 はじめに
   2 一次救命処置(BLS)
   3 二次救命処置(ALS)
   4 ROSC後のモニタリングと管理
 3 気道と換気
   1 基本的な気道確保と換気
   2 高度な気道確保器具
   3 気管チューブの先端位置確認
   4 気道確保下の換気
 4 循環
   1 胸骨圧迫
   2 薬物
   3 体外循環補助を用いたCPR(ECPR)
 5 電気的治療
   1 心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(VT)への除細動戦略
   2 心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)と電気ショック
   3 波形とエネルギー量
   4 電極-患者インターフェイス
   5 特殊な状況下の電気的治療
   6 その他のトピック
 6 心停止前後の抗不整脈療法
   1 はじめに
   2 徐脈
   3 頻拍
 7 特殊な状況下の心停止
   1 溺水による心停止
   2 雪崩による心停止
   3 肺血栓塞栓症による心停止
   4 妊婦の心停止
   5 薬物過量投与と中毒
   6 アナフィラキシーによる心停止
   7 致死的喘息による心停止
   8 高度肥満者の心停止
   9 冠動脈カテーテル中の心停止
   10 心臓手術後の心停止
   11 心タンポナーデによる心停止
   12 電解質異常による心停止
 8 心拍再開後の集中治療
   1 ROSC後の包括的な治療手順
   2 呼吸管理
   3 循環管理
   4 体温調節
   5 てんかん発作の予防と治療
   6 その他の治療法
   7 心停止の原因治療
 9 予後評価
   1 心停止中の生理学的予後評価
   2 ROSC後の神経学的予後評価
   3 臓器提供

第3章 小児の蘇生
   1 はじめに
   2 院外心停止の防止
   3 院内心停止の防止
   4 心停止リスクの早期認識と初期治療
   5 小児の一次救命処置(pediatric basic life support:PBLS)
   6 小児の二次救命処置(pediatric advanced life support:PALS)
   7 徐脈・頻拍への緊急対応
   8 特殊な状況
   9 ショック
   10 体外循環補助を用いたCPR(ECPR)
   11 ROSC後の集中治療
   12 予後判定と原因検索

第4章 新生児の蘇生
   1 はじめに
   2 蘇生の流れ

第5章 急性冠症候群(ACS)
   1 はじめに
   2 ACSの初期診療アルゴリズム
   3 ACS診断のための検査
   4 初期治療
   5 再灌流療法に関する治療戦略
   6 薬物追加治療
   7 ACS診療に関するシステムへの介入
   8 ROSC後のPCI

第6章 脳神経蘇生
   1 脳神経救急・集中治療を要する症候(成人)
   2 脳神経救急・集中治療を要する疾患と病態(成人)

第7章 ファーストエイド
   1 はじめに
   2 病気に対するファーストエイド
   3 けがに対するファーストエイド
   4 教育

第8章 普及・教育のための方策
   1 はじめに
   2 教育効果を高めるための工夫
   3 バイスタンダーの救助意欲
   4 BLS実施者に対する危険性
   5 普及と実践,チーム
   6 救命処置に関する倫理と法

補遺 2015 CoSTRの概要-Executive Summary
   1 蘇生科学の国際的コンセンサスへの道程
   2 エビデンス評価の経過
   3 潜在的な利益相反の管理
   4 生存改善のために科学を応用する
   5 蘇生に関する最新の知見2010-2015
   6 2015 ILCOR Consensus on Science with Treatment Recommendationsの要約
    謝辞
    付表

索引

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日本の蘇生現場のニーズに応えるガイドライン
書評者: Vinay Nadkarni (ILCOR前委員長/ペンシルバニア大教授)
 日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2015の冊子版が野々木宏氏(日本蘇生協議会代表理事)のリーダーシップの下で発行された。このガイドラインの特記すべき点としては,初めてのGRADEを用いた,アウトカム毎に複数の研究を吟味し総合的なエビデンスを評価する,という方法がとられたことがある。さらに,CoSTR 2015(心肺蘇生と救急心血管治療のための科学と治療勧告に対する国際コンセンサス2015)で取り上げられていないトピックについても,JRC蘇生ガイドライン2015作成委員会で独自に検索し,ガイドライン2010の推奨内容を吟味,必要があれば更新している。その結果,日本の蘇生現場のニーズに応えることのできるガイドラインが作成されている。

 CoSTR 2015の作成の際に日本発の臨床研究結果が多く参照されている点が,この10年間の日本においての蘇生研究の進歩を物語っている。一方,日本において,今後より質の高い前方介入試験がこれまでに構築されたインフラストラクチャーの上に行われ,CoSTR 2020にはさらに蘇生エビデンスの蓄積に貢献することを希望している。

〔翻訳:西崎 彰(フィラデルフィア小児病院麻酔,集中治療科)〕

 The new JRC resuscitation guidelines 2015 have been successfully published under the leadership of Dr. Hiroshi Nonogi. Through the CoSTR 2015 development process, GRADE system was adopted for the first time. In this GRADE system, a global aspect of evidence was evaluated for each PICO question. Furthermore, JRC guideline committee evaluated each CoSTR 2010 recommendation which was not included in CoSTR 2015, and updated the recommendation as necessary. As a result, the JRC resuscitation guidelines effectively meet the clinical and educational needs at any level in Japan.

 It is notable that many studies from Japan were referenced as evidence in CoSTR 2015. This clearly demonstrates the advance in resuscitation science in Japan over the last decade. I expect high quality resuscitation evidence based on prospective interventional trials will be developed in Japan by strong leadership using robust research infrastructure, which will further contribute to CoSTR 2020 development.

Vinay Nadkarni, MD
Immediate Past Chair, ILCOR
Professor, Anesthesiology and Critical
Care, Pediatrics
University of Pennsylvania School of Medicine
不慮の死から蘇るための国民の福音書とも言えるもの
書評者: 外 須美夫 (九大大学院医学研究院教授・麻酔・蘇生学)
 本の価値はいったい何で決まるのだろうか? わかりやすく言えばそれは,その本によってどれだけの人が救われるかということではないだろうか。そして,救われるのが死に瀕して助かる命だとしたら,その本の価値は何にも代え難いものだろう。この本がまさにそんな本だ。

 人ががんや寿命で死ぬとき,人は死を自覚し,死を受容し,受容しないまでも納得して,あきらめて,死ぬことができる。しかし,突然の病気で死に至るとき,あるいは不慮の事故に巻き込まれて死に至るときは,死を思う時間さえも与えられない。人生を振り返る時間もない。だから,突然の死からできるだけ多くの人を救ってあげたい。全ての医療者は,いや全ての人々は,家族は,そう願っている。その願いを叶えるのがこの本だ。

 本書は,突然襲う心肺停止から人をどのように救ったらよいのかを,科学的に,医学的に,そして経験的に示した手引書である。

 本書は日本蘇生協議会(JRC)が精魂込めて作成したものである。野々木宏編集委員長(静岡県立総合病院院長代理)をはじめ総勢188名からなる編集委員や作業部会員の汗の結晶でもある。AHA(米国心臓協会)やILCOR(国際蘇生連絡委員会)の冠が付いたガイドラインではなく,JRCを頭に置いているところに注目したい。もちろん,国際的なコンセンサスに沿ってはいるが,わが国の実情に則して日本の国民のために,あえてJRCが策定したものである。

 蘇生科学領域におけるわが国の役割は近年急増している。それは長年にわたって全国的な院外心停止大規模データベースの収集と解析がなされ,多くの有意義な蘇生情報を国際発信してきたことに裏付けられている。また精力的に市民への蘇生活動普及が図られ,蘇生実施率向上などの効果を上げつつある。

 本書には,市民用BLSアルゴリズム,医療用BLSアルゴリズム,NCPR(新生児蘇生法)アルゴリズムなど,最新のアルゴリズムが提示されている。本書には推奨と提案に対するPICO質問形式やアウトカムとエビデンス評価に対するGRADEシステムが導入されている。さらには,ファーストエイドや蘇生法の普及・教育への提言も盛られている。まさに蘇生の百科事典と言っても過言ではない。

 本書は,目の前で急変する患者を救わなければならない全ての医師,全てのメディカルスタッフ,医学生,そして救急救命士たちの良き手引き書となるであろう。いや市民一人ひとりもこの本に教えられ,また救われるだろう。本書は,不慮の死から蘇るための国民の福音書とも言えるものである。

 わが国で心肺蘇生法の普及に長年尽力されてきたJRC名誉会長の岡田和夫先生(本書顧問)も出版をきっとお喜びのことだろう。岡田先生に心から感謝申し上げたい。

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