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症候別“見逃してはならない疾患”の除外ポイント
The 診断エラー学

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徳田安春先生編集による診断エラー学の決定版! 主要な40症候における「重篤疾患をどう除外するのか」という“除外診断のポイント”が明快にわかる。各症候について、(1)“見逃してはならない疾患”のリスト、(2)各疾患についての除外ポイント、(3)見逃すとどの程度危険か、(4)まとめとパール、で構成されており、診断エラーを防ぐための、優れたエキスパート診断医による的確なアドバイスが即役立つ!
編集 徳田 安春
発行 2016年03月判型:A5頁:352
ISBN 978-4-260-02468-6
定価 4,840円 (本体4,400円+税)

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 患者は病気にかかって病院に行くときには「病気はよくなる」という心理状態をもつ.患者にとっては,そこで自分が誤診されるというのは想定外であり,医療事故に遭遇するのも全くの想定外なのである.この心理プロセスはデフォルト・バイアス(default bias)であり,医療機関では適切な診断がなされるはずというのが,「デフォルト」として患者の心理ベースにある.しかしながら,臨床現場における診断エラーの発生は,意外に多いことがわかっている.

 このようなタフな臨床現場で,われわれは果たしてどうすればよいのか? それは,われわれ医師自らがスキルをアップすることしかないであろう.しかしその道にも“効率的な方法”というのがある.それは,“キラー疾患”や“落とし穴的病気”を常に意識して,除外するように努めることである.近年そのような学問が成立しつつある.「診断エラー学」だ.本書は,好評であった 『JIM』(現 『総合診療』)誌での特集3回分を統合し,大きく加筆・修正したものである.「診断エラー学」の総論と各論をまとめており,各論では症候別に具体的戦略を提示した.

 最近多くの症候学テキストや雑誌の特集記事が出ているが,このようなポイントを明瞭に記載したリソースはあまりなかった.診断能力の向上には,症候学を極めたsophisticated diagnosticianの英知から学ぶ点も多い.本書では,まさにこのような指導医からの貴重なアドバイスを症候別にまとめて習得できるようにした.現場の医師が本書を活用し,“大穴疾患の落とし穴”に落ちずに安全な医療を提供する助けになれば,編者として喜ばしい限りである.

 患者安全のための“診断のプロ”を目指す皆さんは,本書を診療現場で携行し,繰り返し参照し手元に置きながら,より安全な医療を目指して,患者や家族の期待に応えることのできるジェネラリストを目指そう!

 2016年1月吉日
 徳田安春

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総論
 「診断エラー学」のすすめ

全身症状
 1 全身倦怠感
 2 体重減少
 3 体重増加・肥満
 4 発熱
 5 一過性意識障害
 6 浮腫
 7 食欲不振
 8 リンパ節腫脹
 9 黄疸
 10 発疹
 11 多尿・多飲
 12 失神

痛み
 13 頭痛
 14 胸痛
 15 腹痛
 16 咽頭痛
 17 腰背部痛
 18 関節痛・筋肉痛

胸部症状
 19 咳・痰
 20 呼吸困難
 21 動悸
 22 喘鳴

消化器系症状
 23 下痢
 24 便秘
 25 吐血・下血
 26 嚥下障害・胸やけ
 27 嘔気・嘔吐

精神・神経系症状
 28 不安・不眠・抑うつ
 29 認知障害
 30 めまい
 31 四肢のしびれ
 32 痙攣
 33 歩行障害

そのほかよくある症状
 34 嗄声
 35 視力障害・視野狭窄
 36 目の充血・眼痛
 37 難聴・耳鳴・耳痛・耳漏

慢性症状
 38 低血圧
 39 高血圧
 40 糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症

あとがき
索引

コラム
1 「除外できない」ポイント
2 閾値モデルで考える除外診断
3 複数の所見(尤度比:LR)を除外診断に使う方法
4 “likelihood ratio(=LR)”について
5 「直感」と「ひらめき」の違いについて教えてください
6 較正サイクル(re-calibration cycle)とは?
7 診断エラーを減らす工夫
8 社会的な影響のある診断エラー
9 「診断エラー学」の必要性
10 診断エラー国際学会の活動
11 フィジカルの尤度比は信頼できるか?
12 診断エラー予防のためのAI(人工知能)開発
13 ふらつき,低血圧を主訴として来院し,MSA-Cと考えられた1例

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「疾患の見逃し」――臨床医の“後悔”をどう科学するか?
書評者: 小泉 俊三 (東光会七条診療所所長)
 近年,改めて診断学への関心が高まっている。解説書の多くは臨床疫学やEBMを背景に合理的推論を推奨しているが,著名な臨床教育家の手によるパール集の人気も高い。

 本書の基となったのは『JIM』誌(現『総合診療』誌)の特集である。数ある“実践的”診断学書の中でも,“見逃し”に焦点を当てている点に特に注目したい。本書の各項は,“見逃してはならない疾患のリスト”に始まり,各疾患の“除外ポイント”へと続く。なかでもユニークなのは,“見逃すとどの程度危険か?”の一項である。診察を始める前にこの項に目を通すことによって読者の皆さんも身が引き締まる思いをされるに違いない。研修指導医としては,各診察室に本書を1冊ずつ常備し,研修医が患者の診療を終了する前に,症状ごとに記載されているこの項に必ず目を通すことをルールとするのも一案であろう。

 ところで,“疾患見逃し体験”は,臨床医に強い後悔の念を引き起こす。その最大の理由は,患者の死を含む深刻な事態に結び付く可能性であるが,加えて知識の不足や想起できなかったことで自尊心に傷が付く。その結果,認知心理学でいう後悔回避バイアス(regret-aversion bias)に陥ることが少なくない。実際,多くの医師は,見逃しを避けたいとの思いから過剰な検査に傾きがちであり,2012年に米国で始まった“Choosing Wiselyキャンペーン”でも,診断に当たって医師は賢明に補助検査法を選択すべきことを力説している。本書の“除外ポイント”の項には,見逃しを避けるための思考プロセスが理路整然と示されているが,そのこと自体が過剰な検査への戒めとなっている。

 診断仮説の生成/検証に当たっては「4つのP」〔Prevalence(有病率),Presentation(症状・徴候),Pathology(病理学・病態生理学),Prognosis(予後ないしは結果の重大性)〕に留意すべきである。この4つのPのうち前3者については知識の体系化が進んでいるが,4つ目のPについての科学的検討は十分でない。医療の質改善をめざす観点からは,本書の『総論:「診断エラー学」のすすめ』でも紹介されているSociety to Improve Diagnosis in Medicine(SIDM)の活動やNAS(National Academies of Sciences)が2015年に公開した提言書“Improving Diagnosis in Health Care”などの新しい動向に期待したい。特にこの領域では,2002年にノーベル経済学賞を受賞したDaniel Kahnemanらの経済心理学領域の業績が注目される。その著書“Thinking Fast and Slow”1)
は米国でベストセラーとなったが,邦訳2)
もあるので,関心のある方には併せて一読されることをお薦めする。

1)Daniel Kahneman:Thinking, First and Slow. Farrar Straus & Giroux, 2011
2)ダニエル・カーネマン(著),村井章子(訳):ファスト&スロー(上)(下);あなたの意見はどのように決まるか? 早川書房,2014
医師はエラーから何を学ぶべきか?
書評者: 平島 修 (徳洲会奄美ブロック総合診療研修センター長)
 今の医学は過去の失敗の積み重ねから成り立っている。

 「自分が下した診断のもと帰宅させた患者が,翌日別の診断で入院した」という経験は,多くの医師が経験したことがあるのではないだろうか。しかも,その経験は何年経っても忘れられない記憶となり,部下の指導で最も強調しているのは,このような失敗が大きく影響しているからであろう。診断エラーがなぜ起きてしまい,どのように対処したらよかったかを共有することができれば,患者の不幸を回避できるだけでなく,難解な疾患の診断への近道となる。

 本書は診断学ではなく,「診断エラー学」を主眼とした新しい視点で症候別に述べられている。コラムだけを通読すると,編者の診断エラー学への思い,診断エラーが開示されにくかった背景,さらには人工知能(AI)まで見据えた「診断エラー学」の必要性まで述べられている。

 本書の最大の特徴は,共著の良さを最も生かしていることである。臨床現場で実践と指導に当たる第一線の臨床家のパールが散りばめられている。症候に合わせた“見逃せない疾患”の解説が述べられているが,同じ疾患でも,社会的影響の強い疾患に関しては繰り返し記載されている。例えば「肺塞栓症」という疾患の解説は,「一過性意識障害」「浮腫」「失神」「胸痛」「咳・痰」「呼吸困難」の6項目で,それぞれ違った著者によって言及されている。“見逃せない疾患”は繰り返し出てくるので,その疾患の重要性が伝わり,それぞれの著者の微妙な考えの違いも現場に近い感覚で読むことができる。したがって,本書は困ったときに開くのではなく,ぜひ通読することをお勧めする。

 もう一度強調するが,本書は診断学の本ではなく,「診断エラー学」の本である。診断ではなく,“見逃せない疾患”を病歴,身体診察,検査で“いかに除外するか”に注目し,診断エラーを防ぐ方法がまとめられている。また,「見逃すとどの程度危険か?」という提示は,各著者の疾患への思いが透けて見える内容となっている。

 診断エラー学についてはこれまで,ほとんど述べられることがなかった。見逃すと致死的になる疾患は,過去の統計学的なエビデンスに頼るだけでは診断エラーを防ぐことはできない。経験豊富な臨床家の生の声(特に失敗経験)を聞くことが非常に重要である。この視点は,指導医にとって最も強調されるべき事項でもある。

 目の前の患者の「診断エラー」を一つでも防ぐために,初学者から指導医までぜひ一読をお薦めする。
診断の醍醐味が深まる一冊
書評者: 松村 理司 (医療法人社団洛和会総長)
 医師が診断に難渋するのには,いろいろな訳がある。診断に占める病歴の価値は,昔と比べてまったく低下していないが,医師は一般に聞き上手ではない。問診・病歴聴取・医療面接への経済的誘導はなく,傾聴や共感に関する教育の歴史が浅かったためでもある。

 患者も話し上手ではない。心身共に病んでいる患者の訴えは拙い。何と言っても,医療の素人である。そもそも人間は前向きに生きているのであり,後向きに病歴を振り返るのは苦手である。場合によっては,意識が障害されている。

 「診断」とは,特定の病気を解説することではない。症候や検査結果から特定の病気に迫ることだが,その思考回路は,特定の病気を説明・解釈する思考回路とはかなりずれる。経験だけでなく,直観や運にも影響される。だから,最新の医学知識を充満させている大秀才が,意外に鑑別診断がお粗末だったりもする。逆に,座学はそれほどしていないのに,診断推論に冴え渡る者がいる。あやかりたいものだが,近道はない。

 書物から迫るとすれば,症候学が満載で,素晴らしい切り口が表題になっている本書の味読に如くはない。類書はごく少ない。

 本書の長所をいくつかにまとめる。

 第一には,雑誌特集の集成のため,執筆者がかなり大勢であるのに,各章の記載があまりばらついていない。編者である徳田安春先生の目が行き届いている証拠であろう。

 第二に,執筆者のどなたもが,医療現場で汗をかき,臨床的・教育的実践を楽しんでおられることである。

 第三に,“見逃してはならない疾患”を五つ程度に絞っていることである。もっともっと挙げたいところを,程よく抑制しているので,かなり読みやすくなっている。

 第四に,「各疾患の除外ポイント」が,力作ぞろいである。最も精読すべき項目であろう。

 第五として,第四を踏まえた「各疾患の除外ポイント」がまとめられており,役立つ。

 ただし,「除外できない」ポイントの一覧も18ページに掲げられており,診断の醍醐味は一層深まる。

 味読・精読の後は,具体的な臨床例に対する実際の使い勝手が問題になる。これは,若い実践世代に逆に教えていただきたい。

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