外来で診る 統合失調症

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統合失調症の軽症化が言われて久しい。確かに、急性で劇的な興奮や緊張は目立たず、外来でも診療可能なケースが増加した。しかし、診療は決して易しくなってはいない。外来診療ならではの問題に焦点を当て、精神療法や薬物療法などの各種治療のコツを紹介するとともに、重症度評価や入院の必要性の判断、再発予防といったポイントも余すところなく解説した。当事者の視点として、お笑いコンビの松本ハウスと編者の対談も収録。 シリーズセットのご案内 ●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット IV 本書を含む3巻のセットです。  セット定価:本体15,500円+税 ISBN978-4-260-02206-4 ご注文ページ
シリーズ 精神科臨床エキスパート
シリーズ編集 野村 総一郎 / 中村 純 / 青木 省三 / 朝田 隆 / 水野 雅文
編集 水野 雅文
発行 2015年06月判型:B5頁:220
ISBN 978-4-260-02170-8
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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 統合失調症の軽症化が語られて,すでに久しくなります.この間,わが国の精神科サービスもさまざまな進展を遂げ,昨今では外来診療を中心とした地域ケアの重要性が強調されるようになりました.
 今日,わが国の特に都市部における診療場面においては,急性で劇的な興奮や激しい緊張のために,ただちに入院を要する統合失調症の病態は影をひそめています.統合失調症が,さまざまな精神疾患のなかで特異な光彩を放ちながらも,地域のなかで診療することが可能なケースが増えてきたことについては,多くの精神科医の意見が一致するところでしょう.
 しかしながら,その診療がやさしくなったという話は耳にしません.むしろ長期間にわたり外来で維持し,回復の機会をうかがいつつ患者さんの人生に伴走するなかで,さまざまな困難に直面することが増えているように感じています.

 人類を取り巻く環境の変化や時代とともに移ろう気質の変容が,精神疾患の本質を変えうるか否かを見極めるのは至難です.しかし事実として,治療の場における統合失調症の姿は明らかに変貌を遂げています.困難な病に見舞われても,希望をもって治療に臨んでいる患者さんを前にすると,あんな難治の人を外来で診られるはずがない,という医療者の先入観を取り払わなければならないという思いに駆られます.新たな治療方法のもつ可能性や多様性に寛大な社会の成熟を,まずは精神科医をはじめとする専門職が正しく認識していくことが大事だと感じています.

 昨今では若手の臨床教育においても,いわゆる病棟ケースカンファレンスだけでなく,外来診療におけるケースカンファレンスが求められる時代になってきています.急性期や再燃期に入院の必要性を適切に判断できることも,外来治療を成功させるうえでの重要な技能です.
 本書では,機会があれば診療や面接の場面に陪診し,是非とも学ばせていただきたいと編者が願うエキスパートの先生方に,統合失調症の外来診療やさまざまな地域支援のなかでのノウハウを披歴していただきたく,ご執筆をお願いさせていただきました.また精神障害をもつ当事者であることをオープンにして活躍するお笑いコンビの松本ハウス(ハウス加賀谷,松本キック)のお二人に,これからの精神科医療への期待を中心にお話を伺いました.

 《精神科臨床エキスパート》シリーズは精神科の医師が臨床経験をじっくり整理したいときや,ふとした疑問や迷いが生じたときにも参照できる一書を目指しております.本書が,読者諸氏の日常の精神科臨床のお役にたつなら,編者にとって望外の喜びです.

 2015年5月
 編集 水野雅文

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第1部 統合失調症は軽症化したのか
 第1章 疾患概念の変遷
  統合失調概念の歴史的背景
  DSM-III以前の米国における統合失調症概念
  DSM-IIIの登場と変遷
 第2章 疫学-国際的視点から
  はじめに-統合失調症と社会
  疫学から考えうる「軽症化」
  おわりに
 第3章 軽症化への着目と治療戦略の見直し
  はじめに
  統合失調症をめぐる新たな概念
  早期精神病における精神科医の認識と治療判断
  軽症化に応える新たな視点:臨床病期分類(staging model)
  早期介入推進の必要性
  おわりに

第2部 外来で診る統合失調症の診断
 第1章 早期診断と早期介入
  はじめに
  統合失調症を疑う事例のなかに,狭義の統合失調症はどれだけ存在するのか?
  疾患の早期に確定診断を行うことの難しさ
  前駆期とARMS
  精神病の“閾値”の評価
  心理社会的支援のためのアセスメント
  事例からみる早期介入の意義
  おわりに
 第2章 重症度評価のポイント
  統合失調症における重症度の評価
  重症度の評価方法
  評価の領域と枠組み
  障害支援区分認定における重症度の判定
  重症度評価の活用
 第3章 臨床検査の有用性の現状とその意味
  精神疾患の臨床検査
  統合失調症の臨床検査
  バイオマーカーと診断
  臨床検査を実用化することの意義
  研究の成果を日常診療へと発展させる

第3部 軽症の統合失調症と鑑別を要する疾患・症候
 第1章 気分障害
  疾患・症候の概念と特徴
  診断・鑑別診断のポイント
  治療のポイント
 第2章 自閉スペクトラム症
  疾患・症候の概念と特徴
  診断・鑑別診断のポイント
  とくに鑑別が難しいケースとその対応
  治療のポイント
 第3章 インターネット依存症
  疾患・症候の概念と特徴
  診断・鑑別診断のポイント
  治療のポイント
  おわりに
 第4章 社会的ひきこもり
  疾患・症候の概念と特徴
  診断・鑑別診断のポイント
  治療のポイント
  統合失調症とひきこもり
 第5章 初老期の認知症
  疾患・症候の概念と特徴
  診断・鑑別診断のポイント
  認知症の幻覚・妄想に対する治療のポイント
  おわりに

第4部 外来で診る統合失調症の治療
 第1章 精神療法・認知行動療法・心理社会的治療
  外来という治療の場の構造
  薬物療法との統合
  地域における社会資源との連携
  デイケアや入院の活用
  外来で行う精神療法
  外来で行う心理教育・認知行動療法
  外来における統合失調症の治療を阻むもの
  統合失調症の外来治療を支えるもの
 第2章 薬物療法
  抗精神病薬の変遷
  各抗精神病薬の薬理作用と効果比較
  服薬を開始するうえで必要な医師患者関係
  抗精神病薬の用量設定と変薬
  抗精神病薬と身体的モニタリング
 第3章 家族支援
  ケアラーの権利擁護運動
  統合失調症とケアラー支援
  家族はどんな支援を求めているか
  外来での家族支援
  家族教育の新たな流れ
  地域型精神科サービスの進展と家族支援
 第4章 入院必要性の判断
  はじめに
  外来治療の意義
  統合失調症患者が入院せず継続した生活者として生きていくために
  外来医療より入院医療が必要な場合
  おわりに
 第5章 再発予防-外来維持療法の要点
  はじめに
  統合失調症の経過と再発問題
  再発を引き起こしやすい要因にはどのようなものがあるか
  再発しかかっていることをどうやって見つけだすか
  再発防止の対策
  おわりに
 第6章 慢性化例・難治例への対応
  いわゆる難治例とはどのような状態か
  難治例の治療
  外来で難治例をみることは可能なのか
 第7章 就労・就学支援
  はじめに
  精神障害者の就職状況
  障害者雇用制度の基礎
  就学支援の現状
  医療機関に求められる就労・就学支援の視点

第5部 外来診療における新たな視点
 第1章 統合失調症の予防と教育
  はじめに
  統合失調症の「予防」とは
  予防的介入の試み
  通常の精神科外来でできること
  おわりに
 第2章 多機能型精神科診療所の役割と可能性
  はじめに
  多機能型精神科診療所とは
  なぜ多機能型精神科診療所なのか
  多機能型精神科診療所をどう運営するのか
  おわりに-多機能型精神科診療所の可能性
 鼎談 当事者・支援者の視点でみるこれからの統合失調症診療(松本ハウス,水野雅文)

索引

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外来こそ精神科医療の主役
書評者: 福田 祐典 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所所長)
 評者が厚生労働省の精神保健福祉の担当課長であった平成21年からの3年強の間の,国の障害者施策は,障害者権利条約の批准に向け,必要な法改正などを含む,地域プログラム作りのための検討に追われるものだった。

 その成果は,理念として,地域における共生社会の実現を高らかにうたった。具体的には,疑似的なキャッチメントエリア(患者の生活圏域)で完結する精神科ミクロ救急の担保による安心と社会参加の実現,より広い圏域における健康と安全のための精神科マクロ救急体制の充実,そして,かつての道下論文とは異なる論理展開と検討手法から導き出された「重度かつ慢性」の患者への支援という,いわば地域精神保健福祉の三層構造に集約されるといっていいだろう。

 本書はそのうち,入院患者の地域移行においても,また,新たな入院患者をつくらないという意味においても,そしてさらには,スティグマをなくし社会機能を高めるという意味でも重要な,統合失調症の「外来」について焦点を当て,具体的に論じている。精神科診療の社会的意味は,病棟ではなく外来に,入院ではなく入院外(地域)にあるということを,イタリア地域精神医療に学び,大学の講座担当者としては異質ともいうべき地域精神保健活動への深い造詣を持つ水野雅文教授だからこそなしえた企画といえよう。これからの精神科医にとって,障害者権利条約時に生きる精神科医にとって,必須の啓発書であり,また,教科書であろう。

 本書はまず地域指向である。外来こそ精神科医療の主役であるという根拠を精神保健疫学,精神医療の進歩,そして障害者の自己実現確保の観点から論じている。治療論においても,認知機能,社会機能,自己肯定感・満足度といった従来とは異なった軸を意識した新たな構成にもなっており,医学的要請と国際社会から日本への強い要請を念頭に置いたものとなっている。そして,単に理念や学術の紹介にとどまることなく,早期支援,就労支援,治療継続,多機能型精神科診療所機能などについて,具体的にわかりやすく,取り組みやすいかたちで論じられていることも,地域における当該サービスの意味や具体的な実践を進める上で,大いに参考になるだろう。是非,これらに取り組む精神科医が増えることを期待したい。

 ピアの視点も組み込まれてはいるものの,惜しむらくは,障害者基本法改正,障害者総合支援法成立,障害者雇用促進法改正,精神保健福祉法改正などの背景にある,「地域創り」の視点と,早期支援から適切な治療介入,治療継続を経た社会機能の維持や充実によってもたらされる,地域共生社会創造の視点が弱いことである。すなわち,精神科医が責任を持って担うべき役割とその背景となる理念についての具体的な記述が加わると,今後の精神科医の持つべき価値観と医療技術について,さらに明確な理解と強烈な衝撃を与えることが可能となり,ひいては,本書は,地域精神医療改革の聖書となり得たと思う。その点は次に期待したい。

 精神科医のみならず精神保健医療福祉の臨床に携わる全ての者に必読の書といえよう。

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