女性性を支えるがん看護

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がんやがん治療が女性のライフサイクルへ与える影響は大きい。乳がんや子宮がん、卵巣がんなどは、生殖年齢である若年女性が発症しやすい傾向もあり、治療後の生き方や家族観の変化も視野に入れた継続的なかかわりが求められる。がん患者女性に対し、医療従事者はどのような視点を持ち、どう支えていくとよいのだろうか。「女性性」に焦点を当て、がん患者と家族への支援を考える。
シリーズ がん看護実践ガイド
監修 一般社団法人 日本がん看護学会
編集 鈴木 久美
発行 2015年06月判型:B5頁:220
ISBN 978-4-260-02140-1
定価 3,740円 (本体3,400円+税)

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がん看護実践ガイドシリーズ 続刊にあたって

がん看護実践ガイドシリーズ
続刊にあたって

 ≪がん看護実践ガイド≫シリーズは,日本がん看護学会が学会事業の1つとして位置づけ,理事を中心メンバーとする企画編集委員会のもとに発刊するものです.このシリーズを発刊する目的は,本学会の使命でもある「がん看護に関する研究,教育及び実践の発展と向上に努め,もって人々の健康と福祉に貢献すること」をめざし,看護専門職のがん看護実践の向上に資するテキストブックを提供することにあります.

 がん医療は高度化・複雑化が加速しています.新たな治療法開発は治癒・延命の可能性を拡げると同時に,多彩な副作用対策の必要性をも増しています.そのため,がん患者は,多様で複雑な選択肢を自身で決め,治療を継続しつつ,多彩な副作用対策や再発・二次がん予防に必要な自己管理に長期間取り組まなければなりません.
 がん看護の目的は,患者ががんの診断を受けてからがんとともに生き続けていく全過程を,その人にとって意味のある生き方や日常の充実した生活につながるように支えていくことにあります.近年,がん治療が外来通院や短期入院治療に移行していくなかで,安全・安心が保証された治療環境を整え,患者の自己管理への主体的な取り組みを促進するケアが求められています.また,がん患者が遺伝子診断・検査に基づく個別化したがん治療に対する最新の知見を理解し,自身の価値観や意向を反映した,納得のいく意思決定ができるように支援していくことも重要な役割となっています.さらには,苦痛や苦悩を和らげる緩和ケアを,がんと診断されたときから,いつでも,どこでも受けられるように,多様なリソースの動員や専門職者間の連携・協働により促進していかなければなりません.
 がん看護に対するこのような責務を果たすために,本シリーズでは,治療別や治療過程に沿ったこれまでのがん看護の枠を超えて,臨床実践で優先して取り組むべき課題を取り上げ,その課題に対する看護実践を系統的かつ効果的な実践アプローチとしてまとめることをめざしました.
 このたび,本シリーズの続刊として『女性性を支えるがん看護』をまとめました.がんの予防・早期発見,診断・治療の過程,サバイバーシップのどの時期においても,女性としての役割や生き方を大切にできるよう支援する必要があります.また,治療に伴う女性性の喪失体験やホルモンバランスの変調に対して,女性が自身の能力や可能性を最大限に生かして対応できるよう支援することも忘れてはなりません.本書は,このように多様な視点から女性性を支えるがん看護のエッセンスをわかりやすく解説しています.

 ≪がん看護実践ガイド≫シリーズは,読者とともに作り上げていくべきものです.シリーズとして取り上げるべき実践課題,本書を実践に活用した成果や課題など,忌憚のない意見をお聞かせいただけるよう願っています.
 最後に,日本がん看護学会監修による≪がん看護実践ガイド≫シリーズを医学書院のご協力のもとに発刊できますことを心より感謝申し上げます.本学会では,医学書院のご協力を得て,これまでに『がん看護コアカリキュラム』(2007年),『がん化学療法・バイオセラピー看護実践ガイドライン』(2009年),『がん看護PEPリソース-患者アウトカムを高めるケアのエビデンス』(2013年)の3冊を学会翻訳の書籍として発刊して参りました.がん看護に対する重要性をご理解賜り,がん医療の発展にともに寄与いただいておりますことに重ねて感謝申し上げます.

 2015年5月
 一般社団法人日本がん看護学会理事長・企画編集委員会委員長
 小松浩子



 日本では,男女ともにおよそ2人に1人が一生涯のうちにがんに罹患しており,いつ誰ががんになっても不思議ではない時代となった.国立がん研究センターがん情報サービスの統計によると,2010年に新たにがんと診断された人は80.5万人,そのうち33.7万人が女性である.女性の内訳をみると,乳がんが6.8万人と最も多く,次いで大腸がんが5.0万人,胃がんが3.9万人,肺がんが3.3万人と続き,子宮がんが2.3万人である.なかでも乳がん,子宮がんや卵巣がんと診断された女性は約10万人であり,女性のがん全体の30%を占めている.これらのがんは生殖年齢にあたる若年層から発症しやすく,全体でみると男性のほうが女性に比べてがん罹患者は1.4倍と多いにもかかわらず,50歳未満では男性に比べて女性のほうががん罹患リスクは約2倍と高い傾向にある.
 がん治療では,病理診断の結果に基づき手術療法,薬物療法,放射線療法などを組み合わせた集学的治療が肝要とされている.最近では,個別の病理診断結果に基づき最大限の治療効果を目指しつつも,最小限の身体侵襲になるように配慮されているものの,女性特有のがんは生殖器そのものに発症するため,その機能を喪失する治療にならざるを得ない.「がん」と診断されただけでも大きな衝撃を受け,アイデンティティの揺らぎや将来の不確かさを体験し,さまざまな不安を抱えるが,さらに人間の基盤となっている「性」を損なうようながん治療を受けなければならないとき,がんによる衝撃は2倍にも3倍にも増幅されることだろう.特に,生殖年齢にあたる女性ががんに罹患したとき,人生そのものが閉ざされたように感じ,「女性としてこの先どう生きればよいのだろうか」とアイデンティティが揺らぎ,さまざまな危機に直面することだろう.

 本書は女性性に焦点を当て,女性ががんになったとき,看護師がどのような視点でどのように支えていったらよいのかという問いに対応できるように展開している.序章ではまず,女性性とは何か,がんおよびがん治療によって女性性はどのような影響を受けるのかについて概説している.第1章からは序章をふまえ,主に女性が直面する問題ごとに章立てをし,がん患者の女性性を支える看護を展開するうえで必要となる知識や具体的な看護実践について解説している.本書が,がんに罹患した女性とその家族に対する看護実践への道しるべとなれば幸いである.

 2015年5月
 編集 鈴木久美

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序章 女性性を支える
 1 女性性を支えるとは
   1 女性性とは
   2 がんおよびがん治療が女性性に及ぼす影響

第1章 がん遺伝子を受け継いだ女性を支える
 1 遺伝性腫瘍症候群
   1 遺伝性腫瘍症候群とは
   2 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群
   3 患者の立場からのサポート
   4 遺伝性腫瘍から考える医療の新たなる展開
 2 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の患者・家族への看護
   1 遺伝性腫瘍の患者・家族への看護
   2 聖路加国際病院でのHBOCに対する看護
 3 遺伝カウンセリングによる支援
   1 遺伝カウンセリングの概要
   2 がんの遺伝カウンセリングの実際
   3 看護で実践できること

第2章 がんによって生殖機能障害を受けた女性を支える
 1 がん治療による生殖機能障害と妊孕性温存治療
   1 妊娠成立と卵巣機能/予備能評価
   2 がん治療による卵巣機能への影響
   3 妊孕性温存治療
   4 妊孕性温存治療のガイドライン
   5 日本における妊孕性温存治療の実際
 2 妊孕性を支える看護
   1 がん治療に伴う生殖機能障害がもたらす心理的影響
   2 がん治療開始前の妊孕性に関する支援
   3 がん治療終了後の妊娠・出産に対する継続的な支援
   4 多職種連携による支援とピアサポート
 3 妊孕性温存と倫理
   1 妊孕性温存において倫理的課題が生じる背景
   2 女性がん患者の妊孕性温存における倫理的課題
   3 倫理的課題への看護師としての対応

第3章 ボディイメージ変容を体験している女性を支える
 1 手術療法 乳房喪失を体験した患者への支援
   1 ボディイメージ変容がもたらす影響
   2 手術を受ける患者への支援
   3 ホルモン療法に伴うボディイメージ変容への支援
   4 セクシュアリティへの支援
 2 手術療法 子宮喪失を体験した患者への支援
   1 子宮喪失の危機による影響
   2 心理的支援
   3 夫やパートナーへの対応
 3 手術療法 ストーマ造設を体験した患者への支援
   1 ストーマ造設がもたらす影響
   2 ストーマ造設によりボディイメージ変容をきたした女性への支援
 4 化学療法によりボディイメージ変容を体験した患者への支援
   1 がん化学療法による外見の変化
     1 脱毛
     2 皮膚の変化
   2 外見の変化による心理的影響とサポート
 5 放射線療法によりボディイメージ変容を体験した患者ヘの支援
   1 放射線療法と看護師の役割
   2 放射線療法の有害事象と看護の目標
   3 女性特有の部位への放射線療法
   4 放射線療法に伴うボディイメージの変容
   5 放射線皮膚炎の予防とケア
   6 皮膚炎ケアと整容性に対する患者支援
 6 アピアランスケア
   1 外見の変化による苦痛の顕在化
   2 がん医療におけるアピアランス支援の現状
   3 アピアランス支援のあり方
   4 アセスメント:患者の苦痛を理解する
   5 アピアランス支援の個別スキルのポイント

第4章 がん患者の役割の遂行を支える
 1 役割遂行における困難を体験している患者ヘの支援
   1 家庭内および社会的役割遂行における困難
   2 役割遂行を促す支援と社会資源の活用
 2 がん患者の就労支援の実際と支援体制
   1 就労においてどんな困難があるのか
   2 仕事と治療の両立を阻害する要因とその対策
   3 仕事と治療を両立させるための支援
 3 母親ががんになった子どもへのケアと支援体制
  -「チャイルド・サポート」活動について
   1 「チャイルド・サポート」活動とは
   2 相談内容の概要
   3 相談内容の詳細と支援のポイント
   4 共通して伝えていること
   5 子どもの思い
   6 子どもへの直接的支援
   7 医療者にできること

第5章 がん患者の性を支える
 1 がんの進行および治療と性の問題
   1 がん治療による性機能障害
   2 がんの進行と性に対するニーズ
   3 セクシュアリティへの支援
   4 パートナーへの支援

索引

Column
 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群患者について
 アピアランス(外見)ケア
 脱毛予防についてのトピックス
 ウィッグについてのトピックス
 がん患者・経験者が知っておくとよい雇用にかかわる社会保障制度
 ハローワーク
 治療による身体的な変化が性行為に及ぼす影響

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女性性の視点を医療に取り入れよう!
書評者: 対馬 ルリ子 (ウィミンズ・ウェルネス理事長/女性医療ネットワーク代表理事)
 「女は女として生まれるのではない,女になるのだ」とボーヴォワールは言った。

 この本では,まず,女性のライフサイクルと女性性の発達について述べている。女性としての自己を確立し,楽しみ,最後まで尊厳を持って生きる一生を支援するために,医療者は何ができるだろうか。

 これまで,医学の中では,女性患者を単に医療の対象として捉え,また,がんは臓器の疾患として取り扱ってきた。しかし,ジェンダー(社会的文化的な存在)としての女性は,身体のみならず精神的,社会的にも女性性を内包し,表現し,全人的に女性を生きている。医療者も,患者の人間性=女性性に寄り添う時代になってきた。

 女性性を考える場合,第一に身体的特性として,次に生殖能力(リプロダクティブファンクション)を持つ者として,また女性ホルモンの状態と心身のかかわりとして,最後に社会的存在として考えていくことが重要である。この本では,序章において「女性性を支える」ことの意味と重要性を論じ,続いて,第1章ではがん遺伝子を受け継いだ女性,第2章ではがんによって生殖機能障害を受けた女性,第3章ではボディイメージ変容を体験している女性,第4章ではがん患者の役割,そして第5章ではがん患者の性と,それぞれ,がん看護にまつわる具体的な症例に結びつけてすぐ学べるように,内容をわかりやすく展開している。カラーや図を多用して,細かい医療やヘルスケアの情報,相談先まで見やすく活用しやすい。患者にとっても見やすくわかりやすいのはいうまでもない。

 がんは臓器の疾患であるが,その発生と診断,治療,治癒にはタイムラグがあり,その医療と看護は,その人の生命のみならず,生活や生き方を見つめながら,時間軸に寄り添って診ていくことになる。現代女性の場合には,次世代を産み育てる主体としてばかりでなく,家族や地域を支える家庭人として,また働いて社会に貢献する職業人として,多機能を期待されている。医療も新しい役割を要求される。

 今後“全人的で生涯にわたる女性の健康支援”が,医学医療の発展のためにも社会や次世代のためにも重要となる中で,性別を問わず,“女性性”の視点を持って支援できる医療者となっていただきたい。それによって,多くの女性ばかりでなくその家族も,“がん”を乗り越え,幸せな一生を送ることになるだろう。
女性がん患者のリアルが詰まっている(雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 阿南 里恵 (特定非営利活動法人 日本がん・生殖医療学会理事)
 現代の日本人女性は仕事や育児,介護など,それぞれにおいて大きな問題を抱えながら生きています。それらは一見,個別の問題のように扱われますが,実際には複雑に絡み合っていてなかなか抜け出せないのが現状です。例えば育児をしながら働いている女性は,子どもが成長するまで時間的,体力的に余裕がありません。さらに,そこへ突然自身のがんという重大な出来事が起こってしまったらどうすればいいのでしょうか。本書では,そのような複雑な問題についても取り上げており,がん経験者の立場からすると「まさにそれこそが現実!」と強く共感しました。
 私は23歳の時に子宮頸がんによって子宮を失い,その後治療による後遺症を抱えました。これまでの12年間を振り返ってみて気づいたことは,年齢とともに悩みが変化していったということでした。おしゃれが大好きだった20代半ばまではお腹の傷を見られることが嫌で旅行に行けませんでしたし,20代後半からは出産できないために恋愛や結婚に戸惑いました。そして30代後半に差し掛かろうとしている現在は,早発閉経に備えて検査を受けている状況です。つまり,1人のがん患者であっても年月とともに社会や家庭での役割,また自分のありたい姿は変化します。だからこそ,がんが完治してもその後の長期にわたるサポートが必要となります。
 また,患者本人がしっかりと向き合うべき問題もあります。第2章では「妊孕性温存と倫理」について解説されています。日本では技術的には妊娠・出産の可能性を残すことができたとしても,それに対する倫理的課題の解決や法整備が追いついていません。患者本人がその問題に直面した場合,なんとか自分の希望を実現しようとばかり考えがちです。しかし,その問題が自分に何を問うているのかをしっかりと理解し,向き合うことでやっとリスクが見えてきます。実際に私は以前まで代理懐胎をとても安易に考えていました。それは自身に出産の経験がないからです。しかし,主治医から出産することは健康な女性にとっても非常にリスクが大きいことを教えてもらい,その問題の本質を理解することができたのです。
 本書では答えや支援策が明確になっていないそのような問題についても記されていることが素晴らしいと思います。医師や看護師だけでなく,患者さんご本人,ご家族,お友達,職場の方など,女性のがん患者さんと接する機会のあるすべての人たちに読んでほしい1冊です。

(『助産雑誌』2017年6月号掲載)
女性のライフサイクルをベースにがん治療に伴う諸課題への対策を解説
書評者: 中村 清吾 (日本乳癌学会理事長/昭和大教授・乳腺外科学)
 がん,特に私が専門としている乳がんは,罹患年齢のピークが40歳代の後半にある。この年代の女性は,職場では,多くの人を束ねる管理職であったり,家庭では,妻として母として一家を支える縁の下の力持ちとなっている。したがって,手術や化学療法のために職場や家庭を離れて,自身の病気のことに専念すること自体が大きなストレスとなる。また,特に20~30歳代で発症した場合には,手術に伴う整容性の問題や化学療法に伴う脱毛,あるいは妊孕性喪失の懸念等が大きくのしかかる。未婚女性,結婚しているがまだ子どものいない方,あるいは,妊娠・授乳期に罹患した方など,さまざまな状況下で,適切な情報提供および,身体面のみならず,心理面,社会面でのサポート体制が重要である。

 本書は,現代女性のライフサイクルをベースとして,主に女性特有のがん(乳がん,子宮がん,卵巣がん)の治療に伴うアイデンティティの危機に対して,(1)妊孕性温存,(2)ボディイメージ変容への対策,(3)セクシュアリティへの支援,(4)就労支援,(5)家庭生活における支援(家事,育児ほか)および,(1)~(5)までが複雑に絡み合う遺伝性腫瘍,特に遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome)における諸問題への対策が,各分野の専門家により,大変わかりやすい図とともに解説されている。特に,このHBOCにおいては,未発症の遺伝子変異を有する女性が,リスク低減乳房切除術(RRM:Risk Reducing Mastectomy)や,リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO:Risk Reducing Salpingo-oophorectomy)等の予防的手術を受ける場合は,各年代におけるBenefitとHarmを十分に理解した上での選択が望ましい。そのためには,遺伝カウンセリングとともに,精神心理面も含めた看護の介入も大変重要である。同年代の女性が大半を占める看護職は,患者の置かれている立場に共感しやすいという利点がある。この問題を,鈴木久美先生(大阪医大教授)をはじめとする日本がん看護学会の諸先生方が取り上げた慧眼に深謝するとともに,一人でも多くの看護職の方に読んでいただき,本領域における質の高いチーム医療の実践にぜひ役立てていただきたい。
がんと女性「性」に着目した画期的実践書
書評者: 佐藤 禮子 (関西国際大教授・がん看護学)
 女性性とは何か? 精子と卵子が結び付き胎児となって母体で育まれ,オギャーと泣いて人間としての歩みを始める。このときから,女の子と認知され,女の子として養育される。

 本書は,「女性の「性」という言葉は,セックス(sex),ジェンダー(gender),セクシュアリティ(sexuality)と表現され,セックスは生物学的な性,ジェンダーは社会的文化的な性,セクシュアリティは人間学的な性とされている。ここでは,ライフサイクルおよび多面的側面,性という観点を含めて女性性について解説する」とした序章「女性性を支える」から始まる(p.2)。人間としてこの世に誕生したときから,男性は男の道を,女性は女の道を歩み始める。男性には男としての「性」があり,女性には女としての「性」がある。当たり前の事実ではあるが,この女性「性」に着目した本書は,画期的と言っても過言ではない。さらに特筆すべきは,国民病である“がん”に焦点を当てた看護学の専門書であること。

 1981年以来,わが国の死因第一位である悪性新生物,いわゆる“がん”は,上昇の一途をたどり,今や総死亡の約3割を占める。女性のがん罹患数が多い部位は,第1位から乳房,大腸,胃,肺,子宮(2011年)であり,年齢階級別がん5年有病者数推計(15歳以上,2015-19年推計)は,女性の15-44歳:8%,45-54歳:13%,55-64歳:28%,65-74歳:34%,とある(がんの統計’14.がん研究振興財団;2014年)。いずれのデータも人生を生き抜く女性の生涯と大きくかかわる事実が示される。2007年からがん対策基本法が施行,国策としてがん対策推進基本計画が全国展開された。2012年に見直しされて新たな課題として,「(4)働く世代や小児へのがん対策の充実」が加わり,全体目標(2007年度からの10年目標)には「(3)がんになっても安心して暮らせる社会の構築」が加わった。真にがん看護が果たすべき役割は大きい。

 本書の構成は,第1章「がん遺伝子を受け継いだ女性を支える」,第2章「がんによって生殖機能障害を受けた女性を支える」,第3章「ボディイメージ変容を体験している女性を支える」,第4章「がん患者の役割の遂行を支える」,第5章「がん患者の性を支える」であり,章ごとに緻密に的確に考索された項目立てとなっており,実に実践的内容である。

 “がん”の診断とともに始まるサバイバーとしての人生を自分らしく生き抜く人生に希望と充実をもたらす本書を,あらゆる現場で活躍する看護専門職の方々に,また患者や家族と呼ばれる方々に,そして看護学を学ぶ学生諸子に,一読していただきたい。理論と根拠に基づく看護実践の活用書として推奨する。

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