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≪精神科臨床エキスパート≫

他科からの依頼患者の診方と対応


シリーズ編集:野村 総一郎/中村 純/青木 省三/朝田 隆/水野 雅文
編集:中村 純

  • 判型 B5
  • 頁 264
  • 発行 2015年05月
  • 定価 6,264円 (本体5,800円+税8%)
  • ISBN978-4-260-02113-5
これだけは押さえておきたい、身体疾患患者の精神症状!
精神症状が現れた身体疾患患者が身体科から精神科に紹介されてきた場合の対応についてまとめた1冊。せん妄や抑うつ、不安、不眠など、臨床現場で遭遇する機会の多いものを中心に、具体的な症例を提示しながら診療のポイントを解説。精神症状を生じやすい身体疾患や薬物の特徴・注意点についても紹介する。

シリーズセットのご案内
●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット IV 本書を含む3巻のセットです。
 セット定価:本体15,500円+税 ISBN978-4-260-02206-4 詳細ページ
序 文


 大学病院や総合病院のなかに精神科が併設されて相当の期間が経った.精神科医の役割も変化し,その活動も多様化してきている.精神科医と身体科の医師との連携をする分野を,わが国において「リエゾン精神医学」と呼ぶようになったのは1980年代後半であるが,全国的にこのような学問的な取り...


 大学病院や総合病院のなかに精神科が併設されて相当の期間が経った.精神科医の役割も変化し,その活動も多様化してきている.精神科医と身体科の医師との連携をする分野を,わが国において「リエゾン精神医学」と呼ぶようになったのは1980年代後半であるが,全国的にこのような学問的な取り組みがスタートしたのは,1988年11月に日本総合病院精神医学会が設立された時期と考えられる.
 精神科医が,身体科の医師や看護スタッフと連携して身体科に入院している人や通院している人に関与することにより,それぞれの人たちの治療の質やQOLを向上させ,結果的に精神医療への理解を深めることができれば,それはリエゾン精神医学の最も大きな功績と考えられる.
 しかし最近,精神医療に対する医療経済的な側面から,いくつかの大学病院では大学内の身体科の充実とは対照的に精神科病棟を閉鎖するという逆行的な動きもあり,医学教育はもとより,臨床現場においても混乱が起こるのではないかという危惧の念を抱いている.特に総合病院においては,身体疾患による精神症状やその治療薬による精神症状の発症,身体疾患を受容するときに起きる反応として発症する抑うつ状態などが一定数の人に発症する可能性があるため,精神科医の対応は必須である.
 また,相変わらず存在する精神疾患に対する社会的な偏見により,単科精神科病院や診療所には受診しなくとも総合病院であれば受診するという人が少なからずおり,そのような意味でも総合病院に精神科は必要である.また,医療者の仲間内においても精神疾患への理解が不十分なこともあり,精神科医が,身体疾患に精神症状を併発した患者が抱えている問題の解決を示すことは,精神医療や精神疾患に悩む人への偏見を軽減させることになると考えられる.
 さらに大学病院などの総合病院の精神科は,学生や臨床研修医の教育の場であり,あらゆる精神疾患への対応を医師と看護師,精神保健福祉士などのチーム医療で行う全人医療の実践の場となる.これは精神科だけではなく,身体科や産業医に対しても実践すべき課題と考えられる.
 ところで,これまでの精神科リエゾン活動は,通院精神療法しか診療報酬が算定されていなかったが,一般病棟における精神医療のニーズの高まりを踏まえ,2012年度からは,一般病棟に入院する患者に対して精神科医,専門性の高い看護師,精神保健福祉士,作業療法士などが多職種で連携し,より質の高い精神科医療を提供するために,「精神科リエゾンチーム加算」という診療報酬上の裏づけもなされた.さらに2014年からは,精神科病棟を有し,一定の要件を有する総合病院には「総合入院体制加算」も認められるようになった.厚生労働省も総合病院内の精神科に一定の評価をし,総合病院における精神科病床の削減に歯止めをかけようとしているのである.また,精神疾患は2013年から,がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病とともに医療計画を行うべき5疾病・5事業に組み入れられ,より精神科医の役割が重要になってきている.
 本書は,身体科の医師から精神科医が受けるあらゆる状態像,精神状態を想定して精神科医がどのように診断して治療するのか,また他科の医師にどのように精神症状を説明するのかについて,できるだけ具体的に提示して臨床に役立つものにしたいと考え企画した.本書が読者諸氏の日常診療において少しでも役に立つのであればと願っている.

 2015年5月
 編集  中村 純
書 評
  • 最高水準,かつわかりやすく述べられたガイドブック
    書評者:秋山 剛(NTT東日本関東病院精神神経科部長)

     本書は,レベルが高いガイドブックである。

     各分野の最も優れた臨床医が執筆され,症例→解説という流れもわかりやすい。「他科からの依頼患者の診方と対応」「精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患とその病態」「精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患治療薬」という構成は包括的であり,病態について...
    最高水準,かつわかりやすく述べられたガイドブック
    書評者:秋山 剛(NTT東日本関東病院精神神経科部長)

     本書は,レベルが高いガイドブックである。

     各分野の最も優れた臨床医が執筆され,症例→解説という流れもわかりやすい。「他科からの依頼患者の診方と対応」「精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患とその病態」「精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患治療薬」という構成は包括的であり,病態についてのMedicalな説明,治療薬の解説が現在の最高水準で,かつわかりやすく述べられている。

     ただ,本書は,「他科のスタッフの対応能力を高めるようにどう支援するか」「リエゾン精神看護専門看護師(Certified Nurse Specialist;CNS)の働き」「精神科リエゾンチーム(LT)でのスタッフの協働」などについては,記述が乏しい。これは,他科への対応・支援をLTが行うという体制が,まだ十分に確立していないためであろう。

     しかし今後は,他科の患者に精神症状が生じた場合の対応は,LTを通して行う流れになると思われる。LTでは,患者や家族に対する支援は主にCNS,臨床心理士などが担当し,他科の看護師へはCNSが支援・コンサルテーションを行い,他科の医師へはLTの医師が支援を行うという協働体制が基本となろう。他科で困っている関係者が複数いる場合には,LTの支援も複合的になるので,支援の方向性が一貫するように,LTとしてケースカンファレンスを行う必要がある。

     他科の関係者の中で,看護師は患者の身近にいて,精神症状を一番正確に把握し,ケアの責任を負い,困難を感じやすい立場にある。一方,看護師は集団としてケアを行うために,看護師が獲得したスキルは集団として受け継がれる傾向がある。精神症状へのケアに対するモチベーションの高さ,スキル伝承の可能性を考えると,他科の対応能力を高めるには,看護師のスキルアップを図ることが最も効率的であると考えられる。CNSによる他科看護師への研修,コンサルテーションを精神科医がうまくバックアップすることが重要である。

     本書で述べられている個別の問題について筆者の経験を述べると,患者の怒りによるトラブルに前向きに対応するためには,「診療効果の限界」「他の患者への不利益」をあげるのがよい。他科から精神科に依頼については,「他科の診療だけでは,患者の症状が改善する見込みに乏しく,精神科の診療で症状が改善する可能性がある時に,他科の診療だけを続けることは患者の利益にならず,医の倫理に反する」と説明してもらえればよい。特別扱いを要求する患者には,「他の患者の治療への影響・不利益が起きるので特別扱いを継続することはできない」と説明する。通常行われない特別な診療はしないという原則を提示し,その上で,可能な選択肢の中から患者が決定するという形を維持する。患者が病になったことを受容できずスタッフに八つ当たりしている場合,「八つ当たり」を放置することは,治療スタッフに有害無益な負担を強いるばかりでなく,患者の疾病受容のプロセスをやめてしまうことになり,反治療的である。患者の怒りを受容しつつ,治療によって何が達成されるかを丁寧に説明する。

     最後に,本書のタイトルには,「他科」という言葉が使われているが,文中には「身体科」という言葉がしばしば出てくる。筆者が「身体科」という言葉を使用したところ,他科の医師に「身体科という科はない」と言われた。

     また医療安全管理の立場から,筆者が,患者にケアを行う院内の医師全員にBasic Life Support(BLS)研修を求めたところ,放射線診断・病理診断の医師は,患者のケアにまったく関わらないのでBLS研修の例外とされることがわかった。精神科医は,もちろん全員BLS研修を受けた。精神科が,総合病院内で一番特殊な科だと思うのは,精神科医のセルフスティグマにすぎない。「精神科―身体科」という二分法で考えるより,精神科は総合病院にある多数の診療科の一つであり,全ての診療科がそうであるように,他科との連携をより円滑に行う義務を負っていると考えるのがよいように思われる。

     レベルの高い素晴らしいガイドブックが今回発行されたので,次回は,筆者が付け加えた点も含めた,さらに包括的な企画をしていただければと,ぜいたくなお願いをする次第である。
  • コンサルテーション・リエゾン精神医学への熱い想いが伝わってくる良書
    書評者:保坂 隆(聖路加国際病院リエゾンセンター長)

     本書は医学書院の『精神科臨床エキスパートシリーズ』の最新刊である。精神疾患は2011年にいわゆる「5大疾患」のひとつに捉えられ,社会の中での精神医学の重要性が改めて指摘され,高い医療水準が求められている中で,「教科書やガイドラインなどから得られる知識だけではカバーできない,本当に知りたい臨床上のノ...
    コンサルテーション・リエゾン精神医学への熱い想いが伝わってくる良書
    書評者:保坂 隆(聖路加国際病院リエゾンセンター長)

     本書は医学書院の『精神科臨床エキスパートシリーズ』の最新刊である。精神疾患は2011年にいわゆる「5大疾患」のひとつに捉えられ,社会の中での精神医学の重要性が改めて指摘され,高い医療水準が求められている中で,「教科書やガイドラインなどから得られる知識だけではカバーできない,本当に知りたい臨床上のノウハウや情報を得るにはなかなか容易ではない」(精神科臨床エキスパートシリーズ「刊行にあたって」より)。

     そのような背景からこのエキスパートシリーズは生まれた。「読者の方々にも一緒に考えながら,読み進んでいただきたい」と「刊行にあたって」に書かれている。そのため,本書も随所にこのような工夫が施されているように感じた。

     まず本書は,「第1部:依頼患者の診方と対応」として,例えば,意識障害・せん妄,抑うつ・不安のように他科からの依頼内容に多く見られる精神症状から構成されている。そして「第2部:精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患とその病態」として,心疾患,妊娠・出産のような身体疾患・身体状況が並べられている。最後に「第3部:精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患治療薬」が追加されている。

     さて,ここからは本書の書評をする。まず,「第1部:依頼患者の診方と対応」は非常に現実的・実際的である。仮の症例がCase 1,Case 2のように提示してあり,読者はそれを臨床の現場さながらに診断や治療方針を考えていくものである。しかし,事例があって解説が追記されていく章と,解説があり最後に練習問題としての事例が登場するという形式が混在している点は残念だ。どちらも臨床実践には役に立つが,事例があって読者に考えさせて最後に解説がつくというスタイルに,統一されても良かったと思う。

     また「第2部:精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患とその病態」は,がん,心疾患のような身体疾患・身体状況が並べられているが,これは他の類書と同じ項目立てであり斬新とは言えない。また,それぞれの担当ページが少ないためか,解説は十分とは言えない点も心残りだ。

     最後に「第3部:精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患治療薬」が追加されているが,これは第2部の中に含めても良い内容だ。

     全体的に言うと,コンサルテーション・リエゾン精神科医が遭遇する,全ての依頼内容と対処の仕方で,本書全体を通してしまうという選択もあったのではないかと思われた。そのほうが,「読者の方々にも一緒に考えながら,読み進んでいただきたい」という「刊行にあたって」の言葉にマッチしているのではないか。

     いずれにしても,コンサルテーション・リエゾン精神医学への編者の熱い想いが伝わってくる良書である。コンサルテーション・リエゾン精神医学の学術団体である日本総合病院精神医学会は,新機構による専門医制度のサブスペシャリティを目指しているが,本書が,専門医になるために読むべき書籍の一つに入ることは間違いない。
目 次
序論 依頼患者の診断の進め方
 序論 他科から精神科への依頼患者の診方
  リエゾン精神医学の目指すもの
  リエゾン精神医学の主な対象疾患

第1部 依頼患者の診方と対応
 第1章 意識障害・せん妄
  せん妄診療のポイント
 第2章 抑うつ・不安
  抑うつ・不安と身体疾患の関係
  わが国の現在における不安
  不安に関する診療依頼への初期対応と評価
  不安症など精神障害に基づく不安と対応
  身体疾患やその治療により生じる不安
  抑うつ
  身体科-精神科間の連携強化を
 第3章 幻覚妄想
  幻覚妄想診療のポイント
  適切な診療を実現するために
 第4章 怒り・興奮
  治療対象となるもの・ならないもの
  怒り・興奮をきたす精神疾患
  攻撃行動の神経回路
  攻撃性仮説
  急性期の治療
  薬物治療の基本
  先入観をもたず真摯な対応を
 第5章 慢性疼痛・線維筋痛症
  慢性疼痛とは
  線維筋痛症とは
  薬剤の鎮痛機序からの病態の検討
  他科との連携と依頼患者の診方
  慢性疼痛の治療のゴール
  精神科医こそ慢性疼痛を診療すべき
 第6章 身体愁訴
  身体症状が主訴の精神疾患の診断方法
  身体症状を呈しやすい精神疾患
  身体症状が主訴の精神疾患の治療方法
  他科の医師へのフィードバック
  症状のバランスを考え診療にあたる
 第7章 睡眠障害
  わが国における睡眠の問題
  不眠症とは
  不眠症の病態
  睡眠困難の訴えを受け止める
  睡眠習慣に関する情報
  特異的睡眠障害の除外
  不眠症の非薬物療法
  不眠症の薬物療法
 第8章 レビー小体型認知症と特発性正常圧水頭症
  レビー小体型認知症
  特発性正常圧水頭症
 第9章 アルコールや薬物依存症
  ベンゾジアゼピン系薬物
  アルコール依存
 第10章 自殺企図
  自殺企図とは
  診療だけでなく患者そのものを理解する
 第11章 摂食障害
  摂食障害を診るということ
  摂食障害診療の難しさ
 第12章 性別違和
  女性から男性へ-female to male
  男性から女性へ-male to female
  診療の進展に必要なもの

第2部 精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患とその病態
 第1章 がん
  がん治療における精神科医の役割
  がんそのものが精神症状を生じさせる場合
  がん告知後に生じる精神症状や心理的問題
 第2章 腎疾患
  慢性腎臓病
  腎機能低下と精神症状
  慢性透析患者と精神症状
  慢性透析・腎不全患者の向精神薬治療
  治療に関して注意するべきこと
 第3章 心疾患
  代表的な心疾患,治療セッティングでみられる精神障害
  循環器系薬剤によって生じる精神障害
  マネジメントにおいて留意すべきこと
 第4章 妊娠・出産
  統合失調症と周産期
  うつ病と周産期
  産褥期の精神症状と授乳の重要性
  インフォームド・コンセントと患者・家族の自己決定権
 第5章 神経難病・膠原病
  パーキンソン病
  多発性硬化症
  全身性エリテマトーデス
  身体科医との連携を
 第6章 HIV感染症
  HIVとAIDS
  HIV感染症治療の歴史と課題
  HIV感染と精神医学的介入
  精神科医が患者のHIV感染を知ったとき
  HIV感染者に対して行われている内科的治療
  HIV感染と精神科医療
  HIV感染者に対するサポートのあり方

第3部 精神症状・心理的問題が生じやすい身体疾患治療薬
 第1章 精神症状を呈しやすい薬剤
  薬剤性精神障害とは
  インターフェロン
  ホルモン薬
  抗コリン薬
  H2阻害薬
  薬剤性精神障害を防ぐために
 第2章 身体疾患治療薬と向精神薬との薬物相互作用
  薬物相互作用とは
  身体疾患治療薬ごとの特徴

索引