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ポケット医学英和辞典 第3版

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海外の文献を読みこなす際に役立つポケットサイズの英和辞典が15年ぶりに全面改訂。医学用語を中心に、薬学や検査・看護用語なども幅広く収載。また重要な単語には訳語だけでなく解説も付し、実用性も満点。歴史的に意味のある用語や医学文献で汎用される一般用語・略語も可能な限り収載した。また、ノーベル賞受賞者を中心に人名も充実している。ポケットサイズでありながら強力な味方となる英和辞典。収録語数は7万語。
編集 泉 孝英
編集協力 八幡 三喜男 / 長井 苑子 / 伊藤 穣 / Simon Johnson
発行 2017年08月判型:新書頁:1282
ISBN 978-4-260-02492-1
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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第3版 序

 「医学書の解読に役立つ」ことを目標として,故渡辺良孝博士によって編纂された『ポケット医学英和辞典』の初版は1967年に刊行された.当時,渡辺博士は,「英・米・羅を主とし,独・仏を従とする医学英和辞典」を編集方針とされた.明治の開国以来,わが国の医学はドイツ医学を範としてきたが,第一次世界大戦から第二次世界大戦の時期(1914~1945年)を経て,アメリカ医学を範とする時代に変換を遂げた事実を受けてのことであった.第2版(2002年)において,編者は「英語(米式綴り)を主とし,現在でも使用頻度の高いラテン語,ドイツ語,フランス語などを採録」することを編集方針とした.これはアメリカ医学の重要性の高まりを意識した記述と受け止めていただきたい.

 2000年前後からの医学・医療の進歩・発展を要約しておきたい.
 基礎医学の領域において,特筆すべきことは,わが国において行われた基礎的研究が,ノーベル生理学・医学賞の授賞対象となったことである.山中伸弥博士のiPS細胞の開発(2012年),大村智博士のエバーメクチンの発見(2015年),大隅良典博士のオートファジーの機序解明の研究(2016年)である.
 臨床領域をみると,画期的な薬剤の開発がある.まず挙げられるのが本格的な抗ウイルス薬の登場である.インフルエンザ治療薬については,アマンタジン(シンメトレル®,1998年)に続いて,ザナミビル(リレンザ®,1999年),オセルタミビル(タミフル®,2001年),ペラミビル(ラピアクタ®,2010年),ラニナミビル(イナビル®,2010年)が登場してきた.2015年には,C型肝炎ウイルスを消滅させるレジパスビル/ソホスブビル配合錠(ハーボニー®)が供されるようになった.抗体医薬品と呼ばれる画期的な薬剤も多数臨床の場に提供されてきている.モノクローナル抗体(ケーラー,ミルステイン,1984年ノーベル生理学・医学賞)の医薬品への応用は1980年代に開始された.以後,抗体工学技術の進歩,特にCHO細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞)を宿主とする生産系の標準化により,関節リウマチに代表される自己免疫疾患,各種の癌治療用抗体の開発が続いている.2002年に登場したインフリキシマブ(レミケード®)をはじめとする各種の関節リウマチ治療薬は,ステロイド薬(1950年ノーベル生理学・医学賞)にも匹敵する福音を患者にもたらしている.抗癌薬としては,2001年のリツキシマブ(リツキサン®)以後,多数の抗体医薬品が低分子医薬品とともに分子標的薬として開発されてきた.また,開発の初期段階はわが国で行われながら,製品化は米国で行われたニボルマブ(オプジーボ®,2014年)に代表される免疫チェックポイント阻害薬が次々と開発されている.外科治療の面では,低侵襲手術を目指した医療ロボット,ダヴィンチ®がある.1999年に米国で開発され,2000年に米国FDAの承認を得たダヴィンチは,わが国でも既に250台導入されている.陽子線治療施設は1990年に米国に開設されたのが世界で最初であるが,2001年にわが国においても高度先進医療として承認され,現在では12施設が開設されている.また,重粒子線治療装置も国内において5施設設置されている.21世紀に入ってからの医療の進歩は目覚ましいものであるが,これら医薬品,医療機器の開発のほとんどは米国を中心に行われており,米欧の医療産業からみて,日本は巨大な市場と化しているという残念な事象が拡大している.
 このような状況のなかで行った「米欧の医学書の解読に役立つ英和辞典」を目指しての改訂作業は以下のように進められた.まず,米国の代表的な医学辞典である,『Dorland’s Illustrated Medical Dictionary』を本書第2版と対照して,Dorlandには記載されていない本書の用語を削除するとともに,未記載の用語の収録を行った.作業には,Simon Johnson氏と長井苑子博士の協力を得た.また,同様の目的で,『Current Medical Diagnosis & Treatment』の索引を利用した.そして,改訂作業のなかで,特記して感謝申し上げねばならないことは八幡三喜男博士のご尽力である.博士は,週刊誌「The New England Journal of Medicine」を毎号読破されることを生活習慣としておられたが,第2版発刊以後,本書を傍らにおかれて,記載漏れのある用語・単語が見つかると,該当の文章を写されて,その用語・単語にアンダーラインを付されたカードを編者に提供する作業を続けられた.3,500枚以上のカードを頂戴した.博士のご協力がなければ,自信をもっての改訂とは言えなかったことである.カードの整理には伊藤穣博士の協力を得た.
 第3版においては,用語の更新,削除,追加とともにコンパクト化も作業目標とした.第2版においては約81,000語を掲載したが,死語を中心に削除する一方で,約6,000語を追加した.結果として第3版の掲載用語数は約67,000語となり,コンパクトな内容とすることができた.
 第2版編集当時との大きな違いは,インターネットの普及により,医学用語(英語)の日本語訳名を容易に検索することができたことである.しかし,該当する日本語名の確実性への疑問が少なくはなかったことも事実である.正鵠を得た日本語/訳語の記載を目指して,いささかの努力を試みたが及び難きこともある.本書に記載した訳語はすべて編者の責に負うところである.ご指摘をいただければ幸いである.

 出版事情,特に辞書出版に逆風が吹く情勢下,第3版刊行の機会を与えてくれた医学書院に感謝する.そして,本書刊行を担当された医学書籍編集部光飛田修,制作部富岡信貴両氏の努力・尽力に深く御礼申し上げたい.

 本書が,医学関係者のみならず,薬学・歯学・検査・看護・介護と,広く医療関係者に活用され,急速な変貌・進展を遂げるアメリカ医学・医療の的確な把握を通じてわが国の医学・医療の向上に役立てていただくことを期待したい.

 2017年7月
 泉 孝英

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ICT時代にこそ必要な医学英和辞典
書評者: 冨岡 洋海 (神戸市立医療センター西市民病院・呼吸器内科部長)
 泉孝英先生による『ポケット医学英和辞典』第3版が出版された。辞典に「書評」というのも,おかしな企画と思われるかもしれないが,これは単なる辞典ではない。それは,故・渡辺良孝博士による1967年の初版以来,脈々と受け継がれてきた崇高で,そして謙虚な学びの精神「欧米から最新の医学を学ぶ」が宿っているからである。この「第3版序」には,第2版出版(2002年)からの医学・医療の変動が解説されており,この辞典に「現代性を与える(故・渡辺博士)」ことが理念とされていることがわかる。その流れの中で,医薬品,医療機器の開発のほとんどは米国を中心に行われている現状を嘆きつつも,急速な変貌・進展を遂げる米国医学・医療の的確な把握こそが,わが国の医学・医療の向上につながる,と結んでいる。この辞書の価値は,この泉先生の信念にある,と言っても過言ではない。

 収録語数は7万語と膨大なものになっているが,驚くほどコンパクトで,まさに“持ち歩ける”辞典となっている。収録語については,“Dorland’s Illustrated Medical Dictionary”や“Current Medical Diagnosis & Treatment”などを参照し,また,八幡三喜男博士による“The New England Journal of Medicine”からの緻密な情報も取り入れて,用語の刷新,削除,追加が的確に行われている。うれしいことは,略語の収録が充実していること,薬剤名も充実し,薬剤用語集としても活用できること,さらに,医学研究者とその業績までもが収録されており,世界医学人名事典としても活用できることである。この膨大な人名の収録は,「日本近現代医学人名事典【1868-2011】」(医学書院,2012)という大著も出版されている泉先生の真骨頂である。「欧米から最新の医学を学ぶ」とともに,「過去から学ぶ」姿勢も大切にしてほしい,とのメッセージである。

 時はICT(Information and Communication Technology)の時代である。小冊子のポケットマニュアルの代わりに,タブレットパソコンをいじる研修医諸君との毎日を送っている私ではあるが,やはり,この『ポケット医学英和辞典』という“字引”もお薦めしたい。ICTは膨大な情報を瞬時に提供してくれる。しかし,その中から,何を信頼し,何を選択すべきかについては,若い彼らには荷が重かろう。さらに,現在の医学は,分子生物学・遺伝学のみならず,広く薬学,看護,介護などとの連携が重要である。専門外の領域からの情報選択にも,ICTの時代であるからこそ迷うことも多い。そこで,賢者の確かな,そして,老練な選択が散りばめられた本辞典は,確かな道しるべとなるものである。そして,各人が学んだ印を,歩みを,直接書き込める「紙」という媒体は捨てがたい,と私は考える。ICT時代にこそ信頼できる紙の“字引”が必要なのである。
充実した内容と,理解を助け知識を増やす効果に驚く
書評者: 福澤 利江子 (筑波大助教・国際看護学)
 わからない言葉があればすぐにスマホやパソコンで検索して(それも無料で)調べる習慣がついている私たち。医学英和辞典を手元に置く必要があるのかと時代錯誤に思えるでしょう。日進月歩の医学分野で一般的に使われる用語を67,000語に集約し,それも,医学だけでなく薬学・検査・看護・介護の分野でも使えることをめざして作られたなんて,そんな辞書が可能なのだろうか? これがこの辞書を知った時の私の初めの正直な気持ちでした。同時に,インターネット上の情報収集は,いくら便利で,頻繁に利用し,その場は用を足しても,断片的で頭の中を素通りする気がして,専門用語が自分の言語体系として血肉になる感覚が得られにくいことが,以前から気になっていました。

 本書はポケット判でとてもコンパクトなので手に収まりが良く(手触りも良く),机上でもまったく邪魔になりません。何よりも,充実した内容と,印象強く理解を助け知識を増やす効果にはただただ驚いています。それに,医学以外の領域にも深い関心と配慮が本当に向けられているのです。例えば,“nurse”(看護師)という言葉ひとつをとっても,“community nurse”(地域看護師)と“public health nurse”(保健師)の区別が的確です。“assistant nurse”(看護助手)・“practical nurse”(准看護師)・“registered nurse”(看護師)・“nurse practitioner”(ナースプラクティショナー)の区別や表記,さらにリエゾンナース,リンクナースなどの近年使われるようになった用語にもわかりやすい説明が付いているのです。続いて次の“nursing”の項にも,“nursing home”(老人保健施設)や“nursing ethics”(看護の倫理)など,日本語でなじみがあっても英訳しにくいような言葉がきちんと載っています。かといって,医療者におもねるのではなく,nursingのそもそもの意味は「(1)授乳,(2)看護,養育」というように,社会常識的な見解も端的に示しています。

 私自身は助産学が専門なのですが,“uterus”(子宮)の項には,フランスの産科医の名前にちなんだクヴレール子宮,重複子宮・中隔子宮・単角子宮の定義など,医学事典でもないのに,図もないのに,短い言葉だけで明確に定義されているのです。他にもBCGワクチンは昔は経口投与も行われていた,など,非医療者にもわかりやすい言葉で,読者の興味を引く記述にも惹かれ,ページを開き読むたびにすっかり好きになりました。

 このコンパクトさの奥にいかほどの配慮や努力があるのだろうかと感じ入るばかりですが,本書の背景を知り納得しました。日本が戦後に米国から情報を輸入し医学が大きく発達した最中(1967年)に本書の初版は刊行されており,その後も50年間の時代の変化に合わせた改訂がされ,由緒ある,長い歴史を持つ辞書なのでした。さらに,“New England Journal of Medicine”を毎号読破していた医師による綿密なアドバイス,本書の編纂のために日常の生活態度から改め,診療の合間に執筆した故・渡辺良孝医師の熱意が込められ,その後も引き継がれて本版に至っているそうです。
 おそらく今後,医療系の電子辞書などの電子媒体にも今回の新たな版が反映されていくことも楽しみです。でも,この時代にあえて紙の医学英和辞典を手元に一冊置くことで得られる思わぬ勉強効果と楽しみも,読者の皆様とぜひ共有できれば幸いです。

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