神経内科の外来診療 第3版
医師と患者のクロストーク

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本邦で草分け的な神経内科専門クリニックの院長が著した好評書の第3版。医師と患者の臨場感にあふれた対話(クロストーク)と簡潔な解説により、難解な神経疾患をわかりやすく理解できる。各疾患の解説では、新薬やガイドラインをフォローした処方例も示されており、読み進めるうちに実践的な知識が身につく。“患者さんの訴えは常に正しい” “一流の医療を街の中へ”といった箴言からうかがわれるように著者の臨床エッセンスがつまった1冊。
北野 邦孝
発行 2013年03月判型:A5頁:332
ISBN 978-4-260-01769-5
定価 4,180円 (本体3,800円+税)

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第3版 序

 本書の初版の出版が2000年春,長野松本での第42回日本神経学会総会の折であったことは第2版の序にも書きました。その後,いくつかの神経内科疾患においてそれらの考え方や治療について一定の変化や進歩がありましたので2008年に改訂第2版を出版しました。初版出版から今日まで13年の歳月が経ちましたが,その間本書が思いがけず多くの方にお読みいただけたことを著者としては心から光栄に思っています。
 今回,さらに第3版を出版することになったのは,この数年間に神経内科学の大切ないくつかの分野で大きな研究の進歩と,新しい治療の考え方,あるいは治療薬の導入が行われたことが理由となっています。日本頭痛学会は2006年にすでに『慢性頭痛の診療ガイドライン』を公表しておりましたが,2009年には脳卒中合同ガイドライン委員会から『脳卒中治療ガイドライン』と小林祥泰先生の編集になる『脳卒中データバンク2009』が出版され,2010年には日本神経学会から『てんかん治療ガイドライン』『認知症疾患治療ガイドライン』『多発性硬化症治療ガイドライン』が,2011年には『パーキンソン病治療ガイドライン』が,さらには日本神経治療学会からは多くの神経疾患の治療について『標準的神経治療』の公表が続いています。このようなこの数年にみられるガイドライン“ラッシュ”によって多くの疾患に関する標準的治療指針が示されたことは大変意義深いことです。もちろんエビデンスはすべての疾患や治療薬などに準備されているわけではありませんし,またガイドラインは臨床の現場に教条的に押し付けられるものではないと思います。しかし,このようなガイドラインラッシュそのものは多くの神経疾患の理解や治療の進歩がこの数年間に著しかったことを明確に示しています。このような背景を踏まえて,本書も初版,第2版と比べると多くの必要なエビデンスを取り入れつつ大幅な書き換えを行うことになりました。
 神経内科の外来診療において,患者さんの視点を大切にする姿勢や機微に富んだ,ぬくもりのあるクロストークの重要性などの理念はいうまでもなく全く変わっておりません。この数年間も私を支えて神経内科の真髄を学ばせて下さった多くの患者さんに感謝しつつ本書の3回目の旅立ちを感慨をもって見送りたいと思います。

 2013年3月吉日
 著者

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はじめに-クロストークの機微とぬくもり

第1章 頭が痛い
 あのー,頭が痛いんですが…(緊張型頭痛)
 ときどきひどい頭痛が…(片頭痛)
 頭が痛くて…ほとんど毎日薬を飲むんです…(薬物乱用頭痛)
 毎日,決まった時間にひどい頭痛が…(群発頭痛)
 先生,頭が痛いんです!(大後頭神経痛)
 急に,ガーンと頭が痛くて割れるよう!(くも膜下出血)
 先生,頭痛がだんだんひどくて…(脳腫瘍)
 娘が,頭を痛がるんです…少しふらつくようです(小脳腫瘍)
 先生,頭が痛くて!(急性髄膜炎)

第2章 顔や眼の奥が痛い
 眼の奥から顔にかけて…痛いんです(非定型顔面痛)
 先生,顔にすごい痛みが走って…(三叉神経痛)
 右のこめかみが痛くて…体がだるいんです(側頭動脈炎)
 眼の奥が痛くて…ものが二重に見えます(トロサ・ハント症候群)

第3章 倒れる,意識がおかしい,意識がない
 ときどき倒れるんです…(過呼吸症候群)
 先日,倒れちゃったんです(起立性低血圧による失神発作)
 車を運転中急に意識がなくなってしまいました(心原性失神発作:WPW症候群)
 急に倒れることがあるんですが…(特発性全般性強直間代発作)
 朝,手がピクピクして倒れることがあるんですが…
  (若年性ミオクローヌスてんかん,ヤンツ症候群)
 フッとわからなくなることがあると言われるんですが…(側頭葉てんかん)
 てんかんをめぐる諸問題
 意識障害患者との“クロストーク”
 主人が急に倒れて…呼んでも意識がないんです(頭蓋内出血と意識障害)
 バカヤロー!なんダヨー!(代謝性脳症)
 主人が変なことを言うんです…熱もあるし(急性ウイルス性脳炎)

第4章 記憶がなくなる
 急に,記憶が…全然ないんです(一過性全健忘)

第5章 眠れない,眠り病
 眠れなくて困るんです(不眠症)
 寝るときに足に変な感じがして…動かさずにはいられないんです。
 眠れなくて…(下肢静止不能症候群)
 昼間,急に眠気が襲ってくるんです(ナルコレプシー)

第6章 眼がまわる,耳鳴り
 先生,目がまわって…(良性発作性頭位めまい症)
 目がまわって…ずっと続いているんです(前庭神経炎)
 めまいがして…急に耳が聞こえないんです(突発性難聴)
 なんだか目がまわるんですが…(心因性めまい感)
 めまいがして,ロレツがまわらず…うまく歩けません(小脳梗塞)
 ひどいめまいが…頭が痛くて,吐くんです(小脳出血)
 先生,耳鳴りがするんですが…(原因不明の耳鳴り)

第7章 しびれや痛み,感覚の異常
 手がしびれるんですが(手根管症候群)
 右の首筋から手がしびれます…(頸部脊椎症による上肢のしびれ)
 太腿の外側がしびれるんですが…(異常感覚性大腿神経痛)
 足がしびれます…腰も痛くて(腰部脊椎症)
 足の先がしびれるんですが…(多発ニューロパチー)
 昨日から身体の半身がしびれるんです(純粋感覚性脳卒中)
 口と手がしびれるんですが…〔手口(感覚)症候群〕
 発疹が出て…ピリピリ痛いんです(帯状疱疹)

第8章 顔面や手足の末梢神経麻痺
 先生,口が曲がってしまいました…(特発性顔面神経麻痺)
 左の小指の動きが悪いんですが…(尺骨神経麻痺)
 手首が…手が反らなくなってしまいました(橈骨神経麻痺)
 右足のつま先が上がらなくて…歩きにくいです(腓骨神経麻痺)

第9章 ものが二重に見える
 ものが二重に見えるんです…左の瞼が下がってしまいました(動眼神経麻痺)
 ときどきものがだぶって見えるの…(重症筋無力症眼筋型)

第10章 半身の麻痺
 先日,右の手と足に力がはいらなかったんですが…(一過性脳虚血発作;TIA)
 右の手足に力がはいらなくなりました…(ラクナ梗塞)
 おじいちゃんの,右の手足が動きにくいんですが…(アテローム血栓性脳梗塞)
 急に倒れて…右半身が動かないんです,言葉も出ないし(心原性塞栓症)
 父が…急に左の手足が動かなくなりました(脳内出血)
 おじいちゃんが…だんだん元気がなくなって,
  左側が麻痺しているみたいです(慢性硬膜下血腫)
 だんだん右の手足の動きが悪くなってきたんですが…(脳腫瘍)

第11章 体が動きにくい,動作の緩慢
 右の手足が動きにくいんです…ぎこちないというか(パーキンソン病)

第12章 手足のふるえや顔の不随意運動
 手がふるえて,字が書きにくいんです…(本態性振戦)
 顔がけいれんして…眼が閉じちゃうんです(片側顔面攣縮)
 眼がなかなか開きにくいんです。勝手に閉じて…(メージュ症候群)
 子どもが変な動きをするんです(習慣性チック)
 字がうまく書けないんです…ほかのことはなんでもできるんですが(書痙)
 急に首が後ろに反ってしまったんです…(薬物誘発性急性ジストニア)
 急に運動を始めようとすると…変な動きが起こるんです
  (発作性運動誘発性舞踏アテトーゼ)

第13章 足が出にくい,歩きにくい
 足が出にくく,歩きにくいんです…身体の動きも遅いし…
  (ラクナ状態・多発性ラクナ梗塞)
 おばあちゃんが歩きにくくて足が出にくいし,すごくよろけるんです…
  (特発性正常圧水頭症;iNPH)
 両足が突っ張って歩きにくいんです…手にも力がはいらないし
  (頸部脊椎症による頸髄症)
 しばらく歩くと歩けなくなる…少し休むとまた歩けるんだが…(間歇性跛行)

第14章 ふらつく
 なんだかふらつくんです…立ち上がったときなど(高齢者のふらつき)
 最近ふらついて歩きにくいのですが…(甲状腺機能低下症による小脳萎縮症)
 ふらつくんです…言葉も喋りにくいし…(脊髄小脳変性症)

第15章 足が動かない,歩けない
 急に歩けなくなりました…(急性横断性脊髄炎)
 朝起きたら…両足が動かないんです(周期性四肢麻痺)

第16章 多彩な神経症状
 左半身の動きが悪くなったり,右眼が見えなくなったり…(多発性硬化症)

第17章 四肢が動きにくい
 急に手足に力がはいらなくなりました…歩けないし…(ギラン・バレー症候群)
 両足がしびれていたんですが,しだいに歩きにくくなりました
  (慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー;CIDP)
 あのー,まぶたが下がるんですが…手足も疲れやすいし(重症筋無力症)
 両方の手足に力がはいらないんです(多発筋炎)
 手足がだんだんやせてきました…力もはいりにくいんです
  (筋萎縮性側索硬化症)

第18章 認知症をめぐって
 先生,最近物忘れがひどくて…(生理的物忘れ)
 おばあちゃんが…最近物忘れがひどくて…(アルツハイマー病)
 おじいちゃんが最近呆けてきたようです…(血管性認知症)
 父が…ボーッとしていて何にも不注意で…それに“女の人がいる”などと
  いうんです。体の動きが遅くなって,よく転ぶし…(レヴィ小体型認知症)
 祖父が元気がなく急に呆けたみたいです(慢性硬膜下血腫)
 おばあちゃんが…最近呆けたみたいです(慢性薬物中毒)

コラム
 片頭痛の予防的治療/その他の一次性頭痛/リウマチ性多発筋痛症/頸動脈海綿静脈洞瘻/顔面や眼球の奥から頭にかけての痛み(緑内障発作,急性副鼻腔炎)/失神直前の“眼前暗黒”/さまざまな失神発作/高齢者のてんかん/てんかん重積状態/熱性けいれん/脳波が乱れている/一過性全健忘症例のご主人による手記/外傷性健忘/睡眠時呼吸障害と神経内科の臨床的問題/メニエール病/血管雑音と“耳鳴り”/三叉神経炎,頤しびれ症候群/ヘルニアの鑑別/顔面神経麻痺あれこれ/神経痛性筋萎縮症/外転神経麻痺,滑車神経麻痺/甲状腺中毒性眼筋麻痺/一過性脳虚血発作(TIA):さまざまな発症機序/脳梗塞の急性期治療/脳卒中の危険因子再考/脳腫瘍の頻度と種類(最近の集計から)/パーキンソン症候群/パーキンソン病治療薬開発の歴史-2つの偶然/パーキンソン病のリハビリテーション/ジル ド ラ トゥレット病/口舌ジスキネジア/胸椎黄色靱帯骨化症/急性の“ふらつき”では急性ウイルス性小脳炎を,癌治療中には抗癌剤の副作用を考える/低カリウム性筋症/まれではあるが,あれこれの対麻痺について/視神経脊髄炎の問題/フィッシャー症候群/抗MuSK抗体陽性重症筋無力症/ランバート・イートン症候群/神経疾患に合併する癌,傍腫瘍性神経症候群や癌に関連する問題/ALSの鑑別診断/アルツハイマー型認知症と生活習慣病の関連をめぐって/認知症と車の運転/認知症を伴うパーキンソン病とレヴィ小体型認知症/高齢社会と認知症患者の医療・ケア

あとがき
索引

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患者さんの訴えは常に正しい-本書を貫く診療姿勢
書評者: 大生 定義 (立教大学社会学部教授)
 北野邦孝先生の名著『神経内科の外来診療』第3版が発刊された。2000年に第1版出版,第6刷の後,2008年に改訂第2版,第3刷を経て,この度の第3版の発刊である。神経内科の書籍では,大変なロングセラー,ベストセラーで,神経内科医の一人である私も本当に楽しく拝読した。

 第2版は432頁で少し厚めであったが,今回は332頁とやや薄くコンパクトになった。しかし,内容はよりわかりやすく,より高いレベルに仕上がっており,いわば進化版といえよう。第2版の第1部総論にあたる部分は,今回は「はじめに」に本当にさりげなく,まとめられている。先生のこれまでと著作のねらいが対話の形で述べられ,診療の心構えについての肝,エッセンスが述べられている。また,第2版で,第2部症候中心,第3部疾患中心にまとめられていた各論は,第3版では,症状で18章に分けられて提示されている。章立ては症状だが,取り扱われる疾患については,その下に列挙され,題名が即キーワードとなるように,そして興味がわき,印象に残るような構成に改変されている。参照にも便利である。例えば,「バカヤロー!なんダヨー!」という題名は,実は低血糖(代謝性脳症)の症例だったのだが,印象的で,初学者にも大変わかりやすいものも多い。コラムも充実している。

 北野先生のモットー「一流の医療を街の中へ」という姿勢が随所にあり,大切なことだけをしっかり述べ,専門書にありがちな,「こういうこともある。ああいうこともある」といった余分な記載は省いている。長年の臨床的経験談も随所に語られている。私には急性髄膜炎(34~36頁)の際の項部硬直の診察法,非定型顔面痛(39頁「ここがポイント」)などなど北野先生の臨床医としての自信が感じられて心地よかった。時折の,いわばレクチャー部分は医師同士の会話として,診療所で指導を受けているような臨場感を持って読むこともでき,飽きることがない。てんかんやその他の最近の話題や,最先端のデータも随所に述べられている。参考文献も充実している。本書を拝読するまで,教科書でいわれてきたほど,外転神経は長くなく,滑車神経の3分の1の長さであることを私は知らなかった。

 新たなエビデンスやガイドラインも取り入れており,個々の疾患の診断・治療についての記載はもちろん一級品の本著であるが,やはり,北野先生の真骨頂は,「患者さんの訴えは常に正しい」とする患者さんの立場にたった,患者さんの腑に落ちる診療姿勢であり,この精神が本書を貫いている。

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんの診療風景(265-267頁)もぜひ読んでいただきたい。経時的に描写されているが,患者さんの精神状態に沿ってのある種冷静な説明とともに,「いつかこの難病も克服される時が来るかもしれない」,その時まで,一緒に希望をもって生きていきましょうという熱いメッセージを心にもちながら,診療されている様子が言外にうかがえる。

 神経内科を専門にしない医師,するかもしれない研修医,神経内科の専門医・指導医に広くお薦めする名著である。神経疾患に興味をもつ,医療関連職にも読んでいただければ,神経内科医の考えていること,考えるべきことがご理解いただけるとも思っている。
神経内科外来診療における必携の書
書評者: 桑原 聡 (千葉大教授・神経内科学)
 神経疾患の研究は1990年以後分子遺伝学・生物学の時代に入り飛躍的に発展を遂げ,現在は分子標的治療,細胞治療の臨床応用が始まる直前の段階に来ている。神経内科の臨床においても各種疾患における診断・治療に関する膨大なエビデンスに基づき多くのガイドラインが構築されつつある。しかし一線の神経疾患外来診療において最も重要なものは病歴に基づく適切な診断と治療に向けたオリエンテーションであり,これは普遍的であり今後も確固として変わらない。

 北野邦孝先生による『神経内科の外来診療——医師と患者のクロストーク』は初版が2000年に出版されて大きな反響を呼んだ。本邦では先駆的であった神経内科専門クリニックからの非常に実践的な経験や哲学を含んだ内容に,多くの神経内科医は感動を覚えたものである。このたび第3版を迎えた本書では,さらにバージョンアップした神経内科外来診療におけるコンセプトが見事にまとめられている。

 著者である北野先生は1992年に松戸神経内科を開設される以前には,松戸市立病院神経内科部長として活躍されていた。幸運にも筆者は1986年に同院で研修し,北野先生から直接指導を受ける機会を持つことができた。この期間に北野先生の人間性と臨床能力の高さに憧れたことで神経内科臨床の魅力に取り付かれて現在の自分があると思っている。特に外来診療を北野先生の隣で行うことができたことは大きな財産になった。初診の患者さんに笑顔であいさつし,問診が始まってから数分で診断と病状の説明が始まり,患者さんが非常に満足そうな表情で診察室を出ていく光景が今でも鮮やかに思い出される。本書の中に,医師にとっての診療は日常であるが,患者さんの受診は,ある種の決心をもって病院やクリニックを訪れる“非日常”下にあり,クロストークとは問診のもっと奥にある心の交流であるとのくだりがあるが,まさにそれを実践されていた。

 神経内科は非常に多岐にわたる疾患・症状を対象とする分野であり,臨床医としての知識,応用,センスが最も問われる分野である。本書では神経内科外来において最も頻度が高い頭痛,失神,めまい,しびれからクロストークの実際が記載され,さらに外来診療をほぼ網羅する各神経疾患について臨場感にあふれた記述が満載されている。この第3版を通読してみて,自分が今も外来や病棟回診で似た言葉を発していることに気付いた。不肖の弟子としてではあるが北野流クロストークの教えが染みついているためである。

 さらに第3版では最新の治療,臨床疫学,ガイドラインがふんだんに書き加えられており,クロストークを楽しみながら実践的な知識が身につく構成になっている。神経内科の外来診療を実践されている全ての方々にとって,必携の書として診療に役立つ本書の出版に心から賛辞を表したいと思う。

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