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医療者のための結核の知識 第4版

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実践的でわかりやすい記述と定評があるロングセラー書籍の待望の改訂第4版。結核の病態生理、検査、治療、感染拡大の予防に必要な知識がまとめられており、感染症診療の従事者には必携書。今版では日本結核病学会の治療ガイドラインにも準拠し、レイアウトを一新した。
四元 秀毅 / 山岸 文雄 / 永井 英明
発行 2013年03月判型:B5頁:208
ISBN 978-4-260-01686-5
定価 3,740円 (本体3,400円+税)
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第4版の序

 本書は2001年に刊行され,好評のうちに版を重ね,ここに第4版をお届けするに到ったことを著者一同喜ばしく思う。

 長い間,わが国の結核医療を支えてきた「結核予防法」が,結核患者の人権に対する配慮が十分ではなかったこと,他のすべての感染症が「感染症法」に統合されたことなどを承けて,2007年4月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に統合された。その内容の変化は予想以上であり,本書の第3版は第2版が出版されてからわずか3年の経過ではあったが,2008年11月に刊行された。
 第3版では「感染症法」に示された条項にそって,結核の診療をどのように進めるべきかを示した。「感染症法」では,基本的人権を制約する入・退院基準を厳密にしたこと,加えて「結核予防法」に定められていた「化学予防」には年齢制限があったがこれを廃止し,また結核発病のおそれのある既感染者をも対象として「潜在性結核感染症の治療」へと名称が変更された。さらに,結核感染の診断も,従来のツベルクリン反応検査からインターフェロンγ放出試験へと舵がきられ,6歳未満の小児を除き,原則としてインターフェロンγ放出試験で行うのが望ましいとされた。

 結核の医療は,他の分野に比較して穏やかな流れに乗って少しずつ変化していくものと思われたが,最近の流れの速度は目まぐるしく目を見張るものがある。それは診断上の検査法であったり,あるいは医療制度上の変化であったりする。このたびの第4版は,このような情勢に対応すべく,企画された。
 第3版が出版された当時のインターフェロンγ放出試験は,刺激抗原によりリンパ球で産生されるインターフェロンγを測定するQFT-2G(第2世代:クォンティフェロン®TB-2G)が用いられていたが,現在ではQFT-2Gに代わり,利便性を高めたQFT-3G(第3世代:クォンティフェロン®TBゴールド)が使用されている。日本結核病学会からも2011年にQFT-3Gの使用指針が出され,接触者健診でもツベルクリン反応検査に代わる検査法としてその利用が勧められている。またこの第4版を執筆中の2012年10月に,結核感染者の末梢単核球から分泌されたインターフェロンγを染色し,その細胞数を計測することにより結核感染の有無を判定するT-SPOT®.TBが製造販売承認を得た。
 一方,医療制度上の変化では,2007年に策定された「結核に関する特定感染症予防指針」が結核を取り巻く状況の変化から2012年5月に一部改正され,対策のいっそうの推進が示された。そして2015年を目途に,結核罹患率を人口10万人あたり15以下にするなどの具体的な目標が掲げられた。また小児結核の予防効果を上げるため,2005年からBCGの接種時期を4歳未満から生後6か月までに引き下げて行われていたが,骨炎や骨髄炎などの副作用が以前に比較して増加したため,接種時期の見直しが行われるようになった。
 結核の新しい検査法の開発による早期診断への取り組み,新薬の開発・普及による治療期間の短縮や耐性菌対策,あるいは行政の指導による結核制度の改革,結核医療を担う医師・保健師・看護師の確保等,将来を見据えた,すなわち次世代のための結核対策が,各分野で着々と行われている。これらの取り組みにより,わが国の結核罹患率を欧米並みに低下させ,結核中まん延国から早く脱却を目指したいものである。

 本書は一般臨床医や看護師をはじめとするコメディカルの人たちを対象とした結核の入門書であり,できるだけわかりやすく,日常の診療現場で応用可能なものを目指して作成した。今版からは各項に重要なポイントを示したので学習のたすけとしてほしい。お手元においていただき,ご活用いただければ幸いである。

 2013年1月
 四元秀毅
 山岸文雄
 永井英明

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I 結核の現状
 A 世界の結核と日本の結核
 B 結核の歴史と今後の予想
 C 疫学にみる結核の特徴
 D 結核の分子疫学
II 結核はどんな病気か
 A 結核の起こり方-結核と結核菌
 B 結核菌の特徴
 C 結核の感染と発病
 D 結核の病理所見
 E 結核はどんなときに起こりやすいか
 F 結核の臨床像
III 結核の検査のすすめ方
 A どんなときに結核を疑い,どのように検査をすすめるか
 B 肺および胸郭内結核の画像所見
 C 結核菌の検査法
 D 生検法
 E 感染の検査法
IV 結核の治療
 A 結核治療の流れ
 B 治療を始める前の手続き
 C 治療を始めるにあたって-「結核医療の基準」に関連した一般的事項
 D 化学療法の一般的事項
 E 化学療法の実際
 F 治療を成功させるために(DOTS)
 G 入・退院基準
 H クリティカルパス
V 医療施設内の結核の広がりをどのように抑えるか
 A 医療従事者の結核集団感染防止のために
 B 患者の早期発見と院内感染対策
 C 結核の発病をどのように抑えるか
 D 感染症法に結核予防はどのように位置づけられているか
VI 免疫不全と結核
 A 免疫不全に合併する結核の特徴
 B 免疫不全に合併する結核の診断
 C 免疫不全に合併する結核の治療
 D 免疫不全における結核の発病予防
VII さまざまな結核-症例提示
 症例1 腰背部痛を主訴に長期間整体に通った女性-結核性脊椎炎,流注膿瘍,肺結核
 症例2 咳,食欲低下,体重減少とびまん性の小粒状影をみた男性-気道散布型病変
 症例3 発熱で発症した東南アジア出身の女性-粟粒結核
 症例4 喘息として治療されていた女性-気管・気管支結核
 症例5 市中肺炎と診断された男性-結核性肺炎
 症例6 誤嚥性肺炎として治療が続けられていた男性-高齢者結核
 症例7 5か月間嗄声をみた女性-喉頭結核
 症例8 呼吸困難,発熱で発症した男性-肺気腫に合併した肺結核
 症例9 手関節と足関節の腫脹,疼痛がみられた男性-骨関節結核
 症例10 膝関節結核,粟粒結核の治療中に頭痛・悪心が出現した男性-脳結核
付1 非結核性抗酸菌症
 A 非結核性抗酸菌とは
 B 起こり方と臨床像
 C 疫学と診断基準
 D 治療
 症例 少量の喀血を繰り返す中年の女性-肺MAC症
付2 参考資料
 A 結核発生届
 B 入退院結核患者届出票
 C 入院勧告書
 D 入院延長勧告書
 E 医療費公費負担申請書(1)(感染症法第37条)
 F 医療費公費負担申請書(2)(感染症法第37条2項)
 G 結核入院患者調査書

参考文献
索引

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幅広い職種で共有すべき結核の良書
書評者: 長尾 啓一 (千葉大学名誉教授/東京工業大学特任教授)
 評判の高い本書が上梓されたのは2001年3月であり,この度早くも第4版となった。医科学の進歩のスピードが目覚ましいからではあるが,結核医療が政策医療であることも理由の1つである。

 初版の序を読み直してみると,結核に立ち向かう著者たちの思いが伝わってくる。病原微生物としては不器用で鈍重であるが,紀元前からしたたかに生き延びてきた結核菌に畏敬の念を抱いているようにも読み取れる。そして今回の版では新たな著者により遺漏なく最新の知見が加えられ,さらに充実した。

 結核医療は結核専門の医師だけでなるものでなく,一般医家,コメディカルスタッフ,行政職員との協働がなければ成り立ちゆくものではない。したがってそこに関与する者全てに,結核に関する必要最小限の知識を有していることが求められる。そのためには幅広い職種を対象とした結核に関する良書が必要となるが,本書こそまさにその目的に叶った書であろう。

 まずは,結核の歴史,疫学,検査,治療,予防についてコンパクトではあるが深く解説されている。項目ごとに「ポイント」と称して重要事項が箇条書きにされており,概念を頭にインプットしやすい。結核の病態は極めて多岐にわたるため,ともすると結核が鑑別診断に上がらないこともある。免疫不全と結核,さまざまな結核症例の提示の項,さらに付録の非結核性抗酸菌症は,一般診療の場で遭遇する多様な結核症およびその類縁疾患を知るのに極めて有用である。また,政策医療であるがために多くの届け出・申請が必要となるが,それらの書類すべてが巻末に参考資料として掲載されており,実務面でも大いに役立つと思われる。

 適正な結核医療のためにもぜひ座右に備えていただきたい1冊である。
臨床で必ず遭遇する世界最大の感染症を明察
書評者: 桑野 和善 (東京慈恵会医科大学教授・呼吸器内科学)
 1882年にコッホが結核菌を発見し,1944年にワクスマンらがストレプトマイシンを抽出,その後次々と有効な薬物が登場し,結核による死亡者は20世紀後半には激減した。それでも潜在性結核感染者は世界人口の3分の1,わが国でも70歳以上の高齢者では半数を超える。毎年世界で約880万人が結核に罹患し,約140万人が死亡する,マラリアと並ぶ世界最大の感染症である。その9割を超えるアフリカ,アジアの高まん延地域の罹患率は,10万人当たり100人以上である。先進国における大都市では,人口の集中,貧困,過労などのリスクにより罹患率は高い。ではわが国はどうなのか。第二次世界大戦後はそれまで200人を超えていた罹患率が急激に低下したが,それでも欧米には及ばず10万人当たり18と中まん延地域である。高齢化,HIV感染者の増加,外国人の増加などが結核の罹患率低下の障害となっている。したがって,誰でもどこでも遭遇するチャンスがある。しかも最近は多剤耐性菌という厄介な問題がある。

 本書は,最近の結核医療のめまぐるしい変遷に対応すべく改訂された第4版である。疫学および細菌学的に敵(結核菌)の策略を知ることができる。そして,patients’ delayとdoctors’ delayを防ぐコツや新規診断技術の解説によって早期診断の目を養える。また治療に至ってはその基本および新規薬剤の解説と,耐性菌に対する治療や院内感染対策に至るまで,微に入り細に入り目の前で教えてもらっているかのようである。各項目には最初にtake home messageとしてのポイントと,最後に将来への展望が語られている。巻末の症例提示を見ると,結核菌がいかに身を隠すことに秀でた細菌であるか実感させられる。

 本書は,実地医療に必要な基礎知識および応用の効く結核の入門書であることはもちろん,日本で最も結核の臨床に造詣の深い3人の著者ならではの,明解な,しかも日本における将来の結核医療まで展望できる必読書である。

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