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学生のための医療概論


(第3版増補版)

編集:千代 豪昭/黒田 研二

  • 判型 B5
  • 頁 308
  • 発行 2012年01月
  • 定価 3,024円 (本体2,800円+税8%)
  • ISBN978-4-260-01540-0
わが国の医療の現状と医療思想を総括的に学ぶことができる教科書
ジャンルを問わず、初めて医療を学ぶことになる学生にわかりやすい学びの入り口を提供してきた本書。2011年3月11日に起こった東日本大震災と福島原発事故を受けて、できるだけ早急に今回の経験を医療従事者教育に活かすべきとの判断から、災害医療や放射線被曝に関する内容を追加・修正し増補版として急遽刊行。社会的な動きをより身近に感じながら学んでもらえるよう心がけた。
序 文
第3版 増補版 序に代えて

 わが国で最初に医学概論という講義を大学医学部で始められたのは,沢瀉久敬先生〔1967(昭和42)年大阪大学医学部退官〕とその後を継いだ中川米造先生です.沢瀉先生は医哲学の立場から,中川先生は医療社会学の立場から,医療人類学とでもいうべき新しい領域を開...
第3版 増補版 序に代えて

 わが国で最初に医学概論という講義を大学医学部で始められたのは,沢瀉久敬先生〔1967(昭和42)年大阪大学医学部退官〕とその後を継いだ中川米造先生です.沢瀉先生は医哲学の立場から,中川先生は医療社会学の立場から,医療人類学とでもいうべき新しい領域を開拓されました.当時医学生だった監修者の千代は双方の先生から,黒田は中川先生の講義を受講し,強い影響を受けました.
 その後,医学概論の講義は全国の医学部で採用されるようになりました.ごく少数の大学には医学概論の専門講座が生まれたり,医療人類学として専門的に研究する学者も出現しましたが,医学部の教育現場では専門教員の不足も原因して医学史や生命倫理に偏った講義や,医系教員の回り持ちによる専門医療のイントロダクション的な講義が少なくなかったように思われます.今から十数年も昔になりますが,専門分野が異なる千代(臨床遺伝学,遺伝カウンセリング学)と黒田(公衆衛生学,精神保健学)がそれぞれ異なった大学で医学概論を講義担当している立場から,「ダイナミックに変動するわが国の医療の全体像を学生が容易に理解できるような教科書を作れないだろうか」と相談して始まったのが,「学生のための医療概論」の出版計画でした.
 かつて,沢瀉先生はギリシャ哲学から近代哲学の思想を背景とした医倫理を中心に,中川米造先生はイギリスの産業革命が医学に与えた影響から医学概論の講義を始められたのを覚えていますが,お二人の先生の持論は,「近代医学の発展を支えたのは科学技術だけではない,政治,宗教,経済,文化など全般的な歴史的背景の理解が重要」というものでした.華々しい先端医療技術が競い合う現代医学ですが,なぜ現代のような医療制度が成立したのか,いま何が問題なのか,これから医療はどのような方向に向かうのかを考えるとき,医療社会学もしくは医療人類学的な考え方が必要です.本書が医学概論ではなく医療概論というタイトルを採用した背景でもあります.
 本書初版の編集会議では,「医療従事者を目指す学生の皆さんはもちろん,一般の人も視野に入れ」「寝転がって読めるような平易な文章で」「現代医療の構造と特徴がはっきり理解できる本を」「データブックではなく,思想書を目指そう」など,監修の基本方針を立てました.また,本書全般にわたる医療の方向性に関する基本思想として,「患者中心の医療を目指して」を掲げました.幸い企画の方針は読者の共感をいただき,好評の初版,第2版に続いて,このたび第3版を出版することになりました.
 この十数年間のわが国の医療の流れをみますと,本書で掲げてきた思想は決して間違っていなかったと自負しています.しかし,これから10年後の医療はどのようになるのでしょうか.監修者にとって大変難しい課題でした.編集会議では,「患者中心の医療を目指す方向はますます進展するだろう」「チーム医療は内容の充実と制度上の整備が進み,医療の基本形態として定着するだろう」「生命倫理学教育の重要性はますます高まるだろう」などの意見に加え,「分子遺伝学や先端生命科学を応用した先端医療技術の発展が新たな価値観を生み医療思想の変貌につながるかもしれない」「単なる環境対策ではなく,エコロジー的な発想が医療にも応用される時代が来るのでは」などの予測的な意見も出ました.また,このような変動の時代こそ,「医の原点」「医療人としての基本思想」はしっかりと語り継がなくてはならないという点で意見が一致しました.これらの考えをもとに第2版を組み直し,第3版を出版することになったのです.
 盛り込みたい内容が多く,編集には苦労しましたが,医療従事者を目指して勉強されている学生の皆さんにはもちろん,医療現場で働いている方,一般の読者の皆さまにもご満足がいただける内容になったと自負しています.また,本シリーズが思想的背景の解説を重視してきたこともあり,旧版の初版,第2版もその内容は決して古いものではありません.もし入手できれば旧版についても適宜参照していただければ幸いです.最後に旧版,新版を通じて快く執筆にご協力いただいた多くの先生方と,企画から困難な編集作業に至るまで根気よく付きあっていただいた医学書院の大野学さんに,心から謝辞を申し上げます.

 2011年3月11日,東北地方は津波を伴った大地震に襲われました.広域住民を対象とした災害医療や放射線被曝による健康障害対策が,医療の大きな課題になっています.本書の基本思想の1つに,医療の発達には,医療科学だけではなく,人間の社会文化的背景や環境要因が深くかかわってきたという主張があります.このような考えから初版本以来,阪神淡路大震災後に確立した災害医療を現代医療の特徴の1つとして取り上げてきました.しかしながら今回の東日本大震災は,阪神淡路大震災と比較するとはるかに広域であり,津波による災害,原発事故という特殊性を伴っています.本書では,医師以外の医療従事者にも放射線について学んでもらうため放射線被曝をテーマに解説してきましたが,今回の原発事故では,住民のオピニオンリーダーとなるべき医療従事者の放射線被曝に関する基礎教育が,まったく不足していたことを思い知らされました.
 このように,今回の震災はわが国の医療のありかたにも多くの教訓を与えました.地震大国であるわが国の現状を考えると,できるだけ早急に今回の経験を医療従事者教育に生かすべきとの判断で,今回,増補版という形で災害医療や放射線被曝に関する内容を追加・修正することになりました.今後も本書が,わが国の医療の現状と医療思想を総括的に学ぶことができる教科書として,多くの医療系学生や一般の方々の役に立つことを願っています.
 最後に,今回の震災で尊い命をなくされた方々のご冥福を祈るとともに,一日も早い東北地方の復興を祈って増補版序文に代えさせていただきます.
 2011年12月1日
 千代 豪昭
 黒田 研二

付記:本書では医療概論を勉強している学生の皆さんが情報を集めたり,発表を行うときの基本的な技術を解説しました.各章の最後にコラムの形でまとめてあります.日常の学習に役立ててください.
目 次
第1章 医療システムを理解しよう
 1 医療を支える人々 さまざまな医療関係職種とチーム医療
 2 保健医療サービスの提供体制 医療施設,医療関連施設,公衆衛生サービス
 3 日本の医療保険制度 誰もが安心して医療を受けられるために
 4 医療政策と医療計画 保健医療の計画的供給は可能か
 5 医療と経済 少子高齢化社会の医療保障を考える
 6 在宅ケアの推進 保健・医療・福祉の連携
 7 高齢者ケアシステム 介護保険制度と介護予防システム
 8 急病になったら 救急医療の歴史と日本の現状
 9 災害医療 その時のために備える
 10 医療安全 医療事故を防ぐさまざまな取り組み

第2章 健康とは何だろう
 1 健康の決定因子とヘルスプロモーション 健康格差の是正を目指して
 2 ヘルスプロモーションの科学 オーダーメイドの健康増進法
 3 老人として生きる 老いに伴う生理的・病理的変化
 4 精神を病むということ 精神保健と福祉の発展を目指して
 5 リハビリテーションを理解しよう 障害者施策のこれからの課題
 6 ノーマライゼーションへの道 社会変革の必要と医療従事者の役割

第3章 医療がたどってきた道と未来への展望
 1 近代医学の誕生 細菌と人間の戦いにみる医学の歴史
 2 日本の近代化と医療の発達 母子の健康をめぐる日本の医療の発達
 3 人工環境と健康問題 薬害・公害事例から学ぶこと
 4 医療機器の発達 医用工学の視点から
 5 臓器移植医療の現状と課題 移植コーディネーターの立場から
 6 ゲノム医学の登場 生命科学の発達は医学をどう変えるのか
 7 医療の国際化 海外での保健医療活動
 8 補完代替医療から統合医療 現代医療の新たな領域

第4章 医療は誰のものか
 1 現代医療が目指すもの 患者中心の医療への道
 2 医療サービスと医学診断 正確な診断はなぜ必要か
 3 医療と診療記録 POS診療記録が目指すもの
 4 チーム医療の方法論 患者中心の医療の実践
 5 医療従事者と生命倫理 倫理的判断能力を高めるために
 6 患者の権利 インフォームド・コンセントはなぜ必要か
 7 個人情報保護 信頼関係を築き権利擁護を徹底する
 8 ターミナルケアの課題 尊厳死とホスピス・ケア

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