感染性腸炎 A to Z 第2版

もっと見る

改訂版では、初版で未掲載の疾患を追加し、提示症例数も増加。「内視鏡的」にも、「臨床的」にも知っておくべき事項や、役立つ「診断上・治療上のコツ」、また疾患が呈する特徴的な像も最大限盛り込んだ。感染性腸炎は、症例との遭遇・経験の有無で診断の正確性に差がつき、特に炎症性腸疾患との鑑別に際し困難を極める。「感染性腸炎を知るためには、まず手に取るべきはこの本!」というべき充実した内容となった。
編集 大川 清孝 / 清水 誠治
編集協力 中村 志郎 / 井谷 智尚 / 青木 哲哉
発行 2012年10月判型:B5頁:296
ISBN 978-4-260-01642-1
定価 8,800円 (本体8,000円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

第2版の序

 このたび本書改訂の提案が医学書院からあったときには正直驚いた。最初に本書を作成したときには改訂のことは全く考えていなかった。感染性腸炎の内視鏡診断という初めての試みの本を出すことで満足していた。かなりマニアックな本であり,おそらく医学書院も期待していなかったと思われる。しかし,期待が小さかった分予想よりも売れたということで,改訂の話があったものとひがんだ見方をしている。しかし,本書の内容に対する評価もいただいている。本書に収載されている内視鏡写真を見て診断に困っていた症例が診断できた,本書が刊行されて感染性腸炎の内視鏡診断がわが国である程度確立した,という嬉しいご意見もいただいた。当初は改訂に際して,変更・修正点は限定的という話であったが,これを機に本書をより完璧にしたいという意欲がじわじわと湧いてきた。そこで疾患の項目を増やし,症例数も増やすことにした。

 本書は“A to Z”といいながら実はすべての感染性腸炎を網羅しているわけではなかった。看板に偽りがあったわけである。初版はできるだけ限られた人数で自前の症例を中心にというコンセプトで,経験のない疾患は重要なもの以外は省いた。非偽膜性Clostridium difficile 腸炎,スピロヘータ症,抗生物質起因性出血性大腸炎は初版でも候補に挙がったが,まだ執筆できる状況ではなかった。約5年の月日が経ち症例が揃ったり,概念がはっきりしたことなどで,今回は掲載することができた。それ以外に非結核性抗酸菌症,ウイップル病,単純ヘルペスウイルス腸炎,EBウイルス腸炎,クリプトスポリジウム症,イソスポーラ症,サイクロスポーラ症,ウェルシュ菌腸炎,ボツリヌス症,コレラなどを新しく加えることができたし,エロモナス腸炎は独立した項目とし,内容を充実した。これらの項目に関しては編集者や編集協力者にこだわらず,専門家の先生に広く執筆をお願いした。これだけの項目を網羅した内視鏡診断の書籍・雑誌はおそらく初めてと思われる。

 症例に関しては24例を追加することができた。実は感染性腸炎の特集はいろいろな雑誌でも定期的に取り上げられており,本書より頁数の多い雑誌特集号もある。それらとの最も大きな違いは症例の項目であると考えている。見開き2頁で画像を中心に載せ,鑑別診断のポイントを簡潔に記載しており,実践に役立つ構成になっている。新しい項目の症例が主に増えているが,それだけでなく従来の項目でも役に立つと考えた症例を追加した。例えばCMV腸炎は3例から6例に,病原性大腸菌腸炎は3例から5例に,糞線虫症は1例から3例に増やし充実することができた。

 項目数と症例数の増加だけでなく,従来の項目も改訂した。特に,総論や潰瘍性大腸炎に合併した細菌性腸炎の項目では,加筆して新しい情報を盛り込むことができた。

 初版の序にも書いたが,本書の大きな目的は感染性腸炎とIBDとの鑑別であり,本書が多く読まれることにより,誤診のため不幸な転帰をとる症例を減らすことである。今回の改訂により,初版よりもさらに多くの先生方に読んでいただければ,この目的も達成できると考えている。

 今回も初版に引き続いて,医学書院医学書籍編集部の阿野慎吾氏に担当していただいた。前回と同様,遅れがちな執筆者を叱咤激励していただき何とかこの本が完成した。予定よりも大幅なページ数増加となったことでも苦労をおかけしたと思われ,深甚なる敬意を表したい。

 2012年秋
 大川清孝,清水誠治

開く

A.感染性腸炎 総論
 感染性腸炎 総論
B.細菌感染症
 1.食中毒
  a カンピロバクター腸炎
   症例1 広範なびまん性炎症像を呈したカンピロバクター腸炎
   症例2 カンピロバクター腸炎の典型例
   症例3 腹部リンパ節の腫大を伴ったカンピロバクター腸炎
  b サルモネラ腸炎
   症例1 潰瘍性大腸炎類似の内視鏡像を呈したサルモネラ腸炎
   症例2 著明な潰瘍形成を伴ったサルモネラ腸炎
   症例3 深部大腸の浮腫が顕著であったサルモネラ腸炎
  c 病原性大腸菌腸炎
   症例1 HUS,脳症を伴った腸管出血性大腸菌O157腸炎
   症例2 血清学的に診断された腸管出血性大腸菌O157腸炎
   症例3 縦走潰瘍を呈した腸管出血性大腸菌O157腸炎
   症例4 左側大腸にアフタを認めた腸管出血性大腸菌O157腸炎
   症例5 虚血性大腸炎との鑑別を要した病原性大腸菌O74腸炎
  d エルシニア腸炎
   症例1 エルシニア腸炎の典型例(1)
   症例2 エルシニア腸炎の典型例(2)
   症例3 偶然発見された無症候性エルシニア腸炎
  e 腸炎ビブリオ腸炎
   症例1 旅行者下痢症として発症した腸炎ビブリオ腸炎
  f エロモナス腸炎
   症例1 大腸がん検診で発見されたエロモナス腸炎
  g その他の食中毒
   ブドウ球菌腸炎
   ウェルシュ菌腸炎
   ボツリヌス症
   プレジオモナス・シゲロイデス腸炎
 2.3類輸入感染症
  a 腸チフス・パラチフス
   症例1 終末回腸に巨大潰瘍を認めたパラチフス
   症例2 著明なPeyer板の腫大を観察し得た腸チフス
  b 細菌性赤痢
   症例1 大腸がん検診の精検直前に発症し,診断された細菌性赤痢
  c コレラ
 3.菌交代による腸炎
  a Clostridium difficile 腸炎
  (1)偽膜性腸炎
   症例1 出産後に発症した重症偽膜性腸炎
   症例2 再燃した偽膜性腸炎
  (2)非偽膜性Clostridium difficile 腸炎
   症例1 潰瘍性大腸炎様の内視鏡像を示した非偽膜性Clostridium difficile 腸炎
   症例2 アフタのみを呈したClostridium difficile 腸炎
  b MRSA腸炎
   症例1 偽膜を形成したMRSA腸炎
  c 抗生物質起因性出血性大腸炎
 4.腸結核
   症例1 炎症性ポリープ主体の病変を呈した腸結核
   症例2 狭窄を伴い診断が困難であった腸結核
   症例3 検診を契機に診断された腸結核非典型例
 5.非結核性抗酸菌症
   症例1 AIDSに合併した消化管非結核性抗酸菌症
 6.放線菌症
   症例1 魚骨穿通に起因した腹部放線菌症
 7.腸管スピロヘータ症
   症例1 慢性下痢をきたした腸管スピロヘータ症
 8.消化管梅毒
   症例1 発赤を伴う多発隆起を呈した直腸梅毒
   症例2 血清学的に診断した直腸梅毒
 9.ウイップル病
   症例1 ウイップル病の典型例
C.ウイルス性感染症・クラミジア感染症
 1.サイトメガロウイルス腸炎
   症例1 全大腸に小潰瘍がみられたCMV腸炎
   症例2 全周性潰瘍を呈したCMV腸炎
   症例3 急性出血性直腸潰瘍に合併したCMV腸炎
   症例4 虚血性大腸炎に続発したCMV腸炎
   症例5 腸管Behçet病と鑑別困難であったCMV腸炎
   症例6 初感染で潰瘍性大腸炎類似の内視鏡像を呈したCMV腸炎
 2.単純ヘルペスウイルス腸炎
   症例1 基礎疾患のない患者に発症した単純ヘルペスウイルス腸炎
 3.Epstein-Barrウイルス腸炎
   症例1 慢性活動性EBV感染症の1例
   症例2 初感染で消化管病変をきたしたEBV感染症
 4.その他のウイルス性腸炎
  a ロタウイルス腸炎
  b ノロウイルス腸炎
  c アデノウイルス腸炎
 5.クラミジア腸炎
   症例1 直腸粘膜擦過によるDNA検出で確定診断に至ったクラミジア腸炎
   症例2 S状結腸まで炎症所見を認めたクラミジア腸炎
D.寄生虫感染症
 1.赤痢アメーバ感染症
   症例1 巨大結腸症を呈した劇症型アメーバ性大腸炎
   症例2 HIV感染者にみられた肛門周囲膿瘍を合併したアメーバ性大腸炎
   症例3 多彩な潰瘍性病変を呈したアメーバ性大腸炎
 2.糞線虫症
   症例1 高度な十二指腸狭窄を呈した糞線虫症
   症例2 自家感染が持続している無症候性糞線虫症
   症例3 大腸に多発性アフタを呈した糞線虫症
 3.日本住血吸虫症
   症例1 日本住血吸虫症の陳旧症例
 4.ランブル鞭毛虫症
   症例1 激しい下痢と肝機能異常をきたしたランブル鞭毛虫症
 5.クリプトスポリジウム症・イソスポーラ症・サイクロスポーラ症
  a クリプトスポリジウム症
  b イソスポーラ症
  c サイクロスポーラ症
   症例1 HIV感染者にみられたクリプトスポリジウム症
   症例2 免疫正常者にみられたイソスポーラ症
 6.その他の寄生虫感染症
  a 蟯虫症
  b 回虫症
  c アニサキス症
  d 鞭虫症
  e 旋尾線虫type X幼虫移行症
   症例1 血便精査にて発見された大腸アニサキス症
   症例2 旋尾線虫type X幼虫による急性腹症
E.潰瘍性大腸炎に合併した感染性腸炎
 1.潰瘍性大腸炎に合併した細菌性腸炎
   症例1 カンピロバクター腸炎を合併した潰瘍性大腸炎
   症例2 潰瘍性大腸炎の経過中に合併したカンピロバクター腸炎
   症例3 サルモネラ腸炎を合併した潰瘍性大腸炎
   症例4 Clostridium difficile 感染症を併発した潰瘍性大腸炎
 2.潰瘍性大腸炎に合併したサイトメガロウイルス腸炎
   症例1 全身性の日和見感染を併発し,急速進行性の多臓器不全により
       死亡した高齢者潰瘍性大腸炎
   症例2 潰瘍性大腸炎にステロイド大量投与後発症したCMV腸炎
   症例3 CMV初感染により再燃をきたした潰瘍性大腸炎
   症例4 CMV再活性化を契機に再燃したと考えられる潰瘍性大腸炎

索引

開く

感染性腸炎に関するすべての情報を包含した優れた実践書
書評者: 飯田 三雄 (公立学校共済組合九州中央病院長)
 本書は,感染性腸炎に関するあらゆる知識・情報が特徴的な内視鏡像と共に解説されたアトラス的実践書である。4年前に発刊された初版が好評であったことから今回改訂版の出版に至ったわけであるが,初版で掲載された項目の改訂にとどまらず,疾患の項目数と症例数が大幅に増え,さらに充実した内容となっている。

 本書の編集を担当した大川清孝,清水誠治の両氏は,消化管,特に下部消化管疾患の診療ではわが国を代表するエキスパートである。両氏が主宰する「感染性腸炎の内視鏡像を勉強する会」という研究会で十分な時間をかけて検討された1例1例の症例が本書の骨子となっている。今回の改訂版では,この研究会で検討されなかった珍しい症例や疾患についても研究会メンバー以外の専門家によって執筆されており,まさに“A to Z”という表題にふさわしい感染性腸炎の実践書としてできあがっている。

 原因不明の難治性炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎とCrohn病が近年急増しており,その診断過程においてしばしば感染性腸炎との鑑別が問題となる。特に,副腎皮質ホルモン,免疫調整剤,抗TNF-α抗体などの薬物治療が主体となる重症例や難治例では,感染性腸炎の除外診断は必須である。感染性腸炎をIBDと誤診すれば,誤った治療を選択することにつながり,病状の悪化を招くことになる。鑑別診断に際しては,糞便や生検組織の培養結果とともに内視鏡・生検所見が鍵を握る。すなわち,各種感染性腸炎に特徴的な内視鏡所見を知っているか否かが正しい診断への第一歩になると言っても過言ではない。このような観点からも,本書発刊の意義は極めて大きいと考える。

 本書は,感染性腸炎の総論に始まり,細菌感染症,ウイルス性感染症,クラミジア感染症,寄生虫感染症と原因別の各論が続いている。各論の大項目はさらに原因微生物ごとに36個の細項目に分けられ,それぞれ疫学,病原体,症状,診断,画像所見,治療についての要点の記述の後に症例提示がなされている。提示症例数は初版に24例を追加した64例に達するが,1症例ごとに見開き2ページの構成で,左ページに症例のプロフィール,右ページに内視鏡写真を含む画像が掲載されている。さらに,各症例には「本症例のポイント」と題した囲み記事の簡潔な説明があり,鑑別診断の要点を理解するのに役立つ。提示された多数の内視鏡像はいずれも美麗かつシャープな写真ばかりで,画像だけを見ていても何となく楽しい気分になる。すなわち,初版の序で編者らが述べているように,「本書は内視鏡からみた感染性腸炎の本」であると同時に一般的な感染性腸炎の知識も網羅した“A to Z”の名に恥じない内容となっている。

 最近の学会でしばしば主題のテーマとして取り上げられている「潰瘍性大腸炎に合併するサイトメガロウイルスなどの感染性腸炎の診断と取り扱い」についても,独立した項目で解説されている。また,わが国では極めてまれなウイップル病やイソスポーラ症の症例も提示されている。このように,本書は既知・最新の情報からまれな疾患まで感染性腸炎に関するすべての情報を包含した優れた実践書であり,初学者からベテランまでのすべての消化器内視鏡医にぜひお薦めしたい1冊と考える。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。