乳腺外科手術アトラス

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乳腺外科領域の待望のアトラスがついに登場!! 乳腺外科手術の基本から最新術式までを、網羅的に、美麗なイラストと写真を豊富に用いて解説。各章では、解剖・手技手順・術後の処置・要点とピットフォールなどをステップバイステップで示した。また、乳房再建術、術中放射線照射療法、リバースマッピング法などの最新治療法も紹介する。
編集 V・スザンヌ・クリムバーグ
野口 昌邦
発行 2013年02月判型:A4頁:456
ISBN 978-4-260-01649-0
定価 19,800円 (本体18,000円+税)

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訳者序文日本語版刊行によせて原書序文

訳者序文
 近年,乳癌の標準的手術は大きく進歩し,乳房切除術から乳房温存術へ,そして腋窩リンパ節郭清からセンチネルリンパ節生検へと転換している.しかし,乳癌手術はこれで完成したわけでなく,アメリカでは乳房温存術に関して凍結補助下の腫瘍摘出術や腫瘍摘出術後のラジオ波療法(eRFA療法)が行われている.また,腋窩リンパ節手術に関しては腋窩リンパ節郭清やセンチネルリンパ節生検だけでなく,腕からのリンパ管やリンパ節を温存するaxillary reverse mapping(ARM)法が試みられている.さらに乳房再建術や温存乳房の放射線療法においても新しい材料や機器による方法が登場している.本アトラスはこれら乳腺疾患の治療に関する最新の外科手技を要約するとともに,実際における要点やピットフォールも記載しており,日本の外科医が学ぶべき点が少なくない.日本でも乳房温存術やセンチネルリンパ節生検が導入され,広く普及しているが,日本の乳腺外科は独自に発展している部分があり,欧米のそれと異なることがある.確かに外科手術は手の芸術であり,外科医の個人的技量や工夫が問われる部分が少なくない.また,欧米で使用されている手術材料は日本では保険適用の問題もあり,まだ導入されていないものもある.しかし,日本は乳癌先進国である欧米より遠く離れ,言語が異なり,これが少なからず,欧米と日本の違いとなって現れている.乳癌外科も科学である医学の一分野であり,やはり世界に通用する普遍性が求められる.新しい技術や材料が登場すれば,日本の乳癌手術も,当然,それらを積極的に吸収し,さらに進歩することが求められる.すなわち,日本独自で進化する,いわゆる“ガラパゴス化”を避ける必要がある.そのような思いで本書を翻訳した.読者が理解しやすいように平易な文章になるよう推敲しており,患者のために多くの外科医,外科レジデントや医学生がこのアトラスを勉強されることを願っている.なお,本書の訳にあたり,貴重なご助言を頂いた金沢医科大学病院,金沢医科大学および金沢メディカルステーションViecの関係者に深く感謝の意を表します.

 2012年12月吉日
 野口昌邦


日本語版刊行によせて
 この乳腺外科手術アトラスは,乳腺疾患の診断や治療に用いられる従来の外科手技だけでなく,急速に進歩・発展する乳腺外科の最前線における手技も網羅したが,その部分については,日本の外科分野からも大きく影響を受けている.その具体的な章としては,画像診断,生検手技,リンパ節郭清,浮腫を予防するaxillary reverse mapping,腫瘤摘出術,乳房縮小術,乳房切除術などのoncoplastic surgeryが挙げられる.このアトラスは詳細な解剖図だけでなく,実際の手術から得られた一連の写真を用いて外科の手技と原則を説明し,術前・術中および術後における貴重な知識を提供している.
外科分野は絶えず進化しているが,乳癌外科のように進化し続けている分野は他にない.実際,乳癌外科は患者に選択肢を与えられるため,患者の理想とする結果をもたらすことができる.本書は最前線の確立した手技を概説しており,進歩し続けることが目的である.日本には「一山行き尽くせば一山青し」 “When you get to the top of the mountain, keep climbing”という禅の有名な言葉があるように,目標に到達してもさらに努力し続けることが大切である.

 V. Suzanne Klimberg, MD


原書序文
 “1枚の写真は1,000の言葉に値する” (作者不詳)
 このアトラスは外科医,外科レジデントや医学生が外科手術について勉強するために書かれたものである.古い手術は技術や薬物の進歩によって更新され,新しい手術が開発されるが,本書では現代における外科手術を図や写真を用いて説明し,術前および術後における考え方とともに要点やピットフォールを述べている.これは著者らの経験や実践に基づくもので,実際,それらの成果はすでに多くの患者で実証されている.外科手術は手の芸術であり,外科医の知識,判断と技術が一体となって初めて患者の福音となる.手術は完璧な技術によって成功するが,手術の速さは各操作を計画的に正確に行うことによってもたらされる.そのため,外科医は最初から,時間をかけて正確な手術を行わなければならず,それを怠ると,他でも手術を正確に行う十分な時間がなくなる.患者のため,読者がこのアトラスを勉強されることを願っている.
 “手術を正確に行えなければ,それはアマチュアの手術である.プロは不正確な手術を行わない” (作者不詳)

 Courtney M. Townsend, Jr., MD
 B. Mark Evers, MD


 乳腺外科の手術手技は十分に理解されているといえない.乳房や腋窩の解剖は比較的単純であるというが,様々なアプローチがあり,術中,腋窩の脂肪組織などによって戸惑うことも少なくない.本書は解剖を単純化し,外科的アプローチや手技について説明している.
多くのレジデントは,乳癌の外科手技が簡単であると言うが,今でも彼らが行っている乳房温存術の40%は切除断端が陽性あるいは近接しており,局所再発のリスクが高い.本書は乳癌の治療成績向上のために役立つ外科的手技について,特に腫瘍摘出術,切除断端の焼灼,センチネルリンパ節の同定と生検,浮腫予防のためのaxillary reverse mapping法や乳房再建術など最新の手術手技について記載している.
 外科手術は通常,どこで学んだかよりも,誰から学んだかが重要であり,私はCopeland先生,Bland先生やWestbrook先生から乳癌外科を学んでいる.彼らは現代における偉大な思想家であり,彼らが執筆した教科書や外科アトラスは手術手技の普及に大きく貢献している.本アトラスは,これら先輩達の仕事をさらに発展させたものであり,乳腺疾患の治療に関する最新の外科技術を網羅している.

 V. Suzanne Klimberg, MD

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第I部 摘出生検と乳房部分切除術
 第1章 乳腺嚢胞の吸引
 第2章 膿瘍の切開とドレナージ
 第3章 超音波ガイド下の経皮的摘出生検
  memo 1:BI-BADS: breast imaging reporting and data system
  memo 2:large intact sample loop device
 第4章 ステレオガイド下の針生検
  memo 3:multifocal cancer
 第5章 乳管内視鏡
 第6章 触知・非触知病変の摘出生検
 第7章 Needle localizationによる摘出生検
 第8章 アイソトープによる潜在性病変の同定
 第9章 凍結補助下の腫瘍摘出術
  memo 4:乳房球状部分切除と乳房円柱状部分切除
 第10章 腫瘍摘出術後のラジオ波療法
  memo 5:non-surgical ablation

第II部 リンパ節生検
 第11章 腋窩のセンチネルリンパ節生検
 第12章 縦隔のセンチネルリンパ節生検
 第13章 腋窩リンパ節郭清
  memo 6:胸筋神経の温存
 第14章 Axillary Reverse Mapping
  memo 7:axillary reverse mappingの妥当性

第III部 乳房切除術
 第15章 単純乳房切除術
  memo 8:total skin-sparing mastectomy
 第16章 単純拡大乳房切除術と胸筋温存乳房切除術

第IV部 乳房再建術
 第17章 乳房温存術における腫瘍形成外科的アプローチ
  memo 9:乳腺組織の切除範囲と乳房の整容性
  memo 10:ドーナツ型の腫瘍摘出術
 第18章 エクスパンダーとアロダーム®による乳房再建術
  memo 11:reconstructive tissue matrix
  memo 12:A型ボツリヌス毒素とブピバカイン塩酸塩
 第19章 自家組織による乳房再建術
  memo 13:latissimus dorsi miniflap
  memo 14:臀筋穿通枝皮弁
 第20章 腫瘍形成外科的乳房縮小形成術

第V部 拡大切除
 第21章 胸壁切除術
 第22章 上肢切断術

第VI部 放射線照射のための外科手技
 第23章 MammoSite®と他の短期放射線照射機器
  memo 15:MammoSite®の日本での適応
 第24章 体内術中放射線療法
 第25章 標的術中放射線療法

 和文索引
 欧文索引

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新時代にふさわしい,標準的な乳腺外科手術のバイブル
書評者: 井本 滋 (杏林大教授・医学部付属病院乳腺外科)
 「乳癌の外科治療の世界で,オピニオンリーダーである日本人は誰か?」

 それは,Klimberg先生編集の『Atlas of Breast Surgical Techniques』を訳された野口昌邦先生である。今回,このような書評の機会を与えられ大変光栄であると同時に,Memorial Sloan-KetteringがんセンターのMorrow先生をはじめ,世界中に親友がおられる野口先生を羨ましく思いつつも,先生ならではの訳書と感服した次第である。

 乳癌は手術,薬物,放射線を組み合わせた集学的治療の時代にある。治療の潮流は,乳癌の生物学的特性に基づいた薬物治療にある。しかし,手術が決して疎かになることはない。むしろ,多様な外科的治療法が選択される時代となり,外科系の乳腺専門医は日々修練を積まなければならない。本書は,現代の乳腺外科手術を網羅的かつ系統的に解説している。しかも,第8章「アイソトープによる潜在性病変の同定」,第9章「凍結補助下の腫瘍摘出術」,第23章「MammoSite®と他の短期放射線照射機器」など,日本でも今後導入が期待される領域について詳細かつ明瞭に記載されており,初学者のみならず第一線の専門家においても新鮮な情報に満ちている。

 本書はビジュアル的に大変見やすくわかりやすい。イラストを多用している一方,実際の写真も過不足なく配置され,見る者を飽きさせない。一度,手に取ってどのページでも開いていただきたい。見開きの右ページにイラストや写真と短いコメントがあり,左ページに文章で手技に関するエッセンスが記載されている。さらに,所々に挿入されている「memo」は日本と海外での考え方の比較や,野口先生の経験に基づくアドバイスがちりばめられており,本文に加えてぜひ味わっていただきたい要所である。さすれば,この手術アトラスを眺めているだけで,すぐにやってみてできそうな感覚に陥ること間違いなしである。

 さて,評者は不器用である。手術はとかく難度が高く,神の手と呼ばれる高みを目指したいと願う外科医も多い。医学生時代に先輩に「内科は俊才の墓場だしとてもついていけないが,不器用でも外科医になれますか?」と聞いたところ,「標準術式は修練によってできるようになるから心配要らない」と言われて外科を志望した。そして外科医として四半世紀が経った今,乳房全摘・郭清から一変し,乳癌外科治療は根治性を担保しつつ,かつ整容性や機能性を追求する時代になった。Klimberg先生,野口先生の序文にあるように,乳腺の外科手術ほど日進月歩の癌領域は少ないかも知れない。本書は,新しい時代にふさわしい標準的な乳腺外科手術のバイブルとして必携の書である。
世界の第一線で活躍する執筆陣による,ビジュアルでわかりやすい手術書
書評者: 丹黒 章 (徳島大学大学院教授・胸部・内分泌・腫瘍外科)
 野口昌邦教授(金沢医科大学教授・乳腺内分泌外科)翻訳による『乳腺外科手術アトラス』が出版された。原書はProfessor V. Suzanne Klimberg編集の『Atlas of Breast Surgical Techniques』で,第I部「摘出生検と乳房部分切除術」,第II部「リンパ節生検」,第III部「乳房切除術」,第IV部「乳房再建術」,第V部「拡大切除」,第VI部「放射線照射のための外科手技」まで,全25章で構成されている。急速に進歩する乳腺外科領域において,世界の第一線で活躍する乳腺外科医が担当執筆し,各手技をビジュアルにわかりやすく解説している。それぞれの章は,ステップ1「外科的解剖」,ステップ2「術前に考慮すること」,ステップ3「手術手技」,ステップ4「術後の処置」,ステップ5「要点とピットフォール」および「参考文献」からなり,画像とイラスト,実写真と解説が添えられている。例えば,第9章の「凍結補助下の腫瘍摘出術」の項では,解剖をイラストで超音波横断画像とともに示し,エコーによる良悪性の鑑別所見も記載してある。注意すべき点として,凍結による変性の影響を考慮して術前組織生検が必要なことが述べられ,また手技では,凍結プローブの穿刺方法を写真とイラスト,超音波画像で示し,アイスボールの形成や生理食塩液の注入方法も解説している。“凍結プローブ針をテコとして用い,腫瘤をロリポップ(棒付きキャンデー)のように切除する”など実際の手技を見るがごとくイメージしやすい表現で学ぶことができ,ステップ5の「要点とピットフォール」も術前,術中,術後に分けて簡潔明瞭に記されている。

 編者のProfessor Klimbergも序文で述べられているように,手術はどこで学んだかよりも,誰から学んだかが重要である。外科手技はアートであり,外科医の知識,判断と技術が一体となり,各操作を正確に行うことによってはじめて患者の福音となる手術が完成する。それゆえ,初学者は時間をかけて正確な手技を学ばなければならない。浮腫を予防するaxillary reverse mappingのほか,乳房縮小術,乳房切除術などのoncoplastic surgeryなどは日本からも大きく影響を受けていると編者は述べているが,誠に残念なことに,各章で引用された論文に日本発のものは極めて少ない。世界に通用する普遍性が求められている手術手技においても,乳癌先進国である欧米をはるか後方から追随しているのが現状であるにもかかわらず,“オレ流”が日本の学会では声高に論じられている。野口教授の懸念される“ガラパゴス化”を避けるためにも,日本のレジデントは本書で普遍的かつスタンダードな手技を学ぶ必要がある。

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