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誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた
重篤な疾患を見極める!

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プライマリ・ケア現場には、多くの患者が「風邪」を主訴にやってくる。しかし「風邪症状」といっても多彩であり、そこに重篤な疾患が隠れていることは稀ではない。本書では、「風邪」の基本的な診かたから、患者が「風邪症状」を主訴として受診するさまざまな疾患(感染性疾患から非感染性疾患まで)の診かたのコツや当面の治療までを、わかりやすく解説する。新進気鋭の感染症医による「目からうろこ」のスーパーレクチャー。
岸田 直樹
発行 2012年11月判型:A5頁:192
ISBN 978-4-260-01717-6
定価 3,520円 (本体3,200円+税)
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  • 序文
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まえがき

 すべての患者さんは,「医師たるもの風邪の診かたくらい学生時代から,体系的に“とーぜん”学んでいるものでしょ」と思っているのでしょうが,そんなことはないんですよね…。風邪の診かたって学生時代から“だーれも”教えてくれないのです。たまたま居合わせた先輩から耳学問で「風邪には三種の神器だ! PL,ロキソニン,セフゾンだ!」なんて処方を教えてもらっている程度と思います。「本当にいいのかなぁ」なんて思うことはあるけれど,誰も教えてくれないから「まぁいいか」ってなっているんです。
 風邪って本当のところ,成書でも定義が曖昧だったりして,結局何が風邪なのかが漠然としていてそれも問題なのだと思います。なので医師は,「なんだかよくわからない体調不良」は何でも風邪と言ってしまいたくなります。
 こんな現状なので,患者さんもよく風邪だと医師に言われるので,急な体調不良はとりあえず風邪って思ってしまうのも無理はないのです。自分が実家に帰った時にいつもの片頭痛で苦しんでいたら,母が「風邪じゃない? お医者さんに診てもらったら?」って医師である私に言うんですよ。さらに「風邪は万病のもと」なんていう言葉もあるので,心配で心配で,大きな病院も風邪の患者さんでごった返しています。
 さて,こんな風邪の現状なのですが,この“風邪の診かたとその周辺”を医師目線で可能な限り体系的に整理してみたのがこの本です。“風邪”の定義をできるだけ明確にすることで,ウイルス感染・細菌感染の特徴がみえてきます。また,これを垣間みることで非感染性疾患を含め,すべてが体系的につながってくるのを実感するでしょう。
 ところで,これって医師だけが知っておくべきことでしょうか? 一人の人間として生きていくうえで,一般常識として知っておくべき内容のように自分はいつも思うのです。非医療従事者の方も「自分が風邪かも?」って思った時のために,読んでみませんか?

 2012年10月
 岸田直樹

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 まえがき
 風邪様症状への2つの基本アプローチ
 あなたの患者はどの症状ですか?

第1章 風邪を風邪と診断するノウハウ
 1.典型的風邪型(咳≒鼻汁≒咽頭痛)
 2.鼻症状メイン型(鼻汁>咳,咽頭痛)
 3.喉症状メイン型(咽頭痛>咳,鼻汁)
 4.咳症状メイン型(咳>鼻汁,咽頭痛)

第2章 風邪に紛れた風邪以外を診断するノウハウ
 5-A.局所臓器症状不明瞭・高熱のみ型(熱+α,α≒0?)〈前編〉
 5-B.局所臓器症状不明瞭・高熱のみ型(熱+α,α≒0?)〈後編〉
 6.微熱+倦怠感型
 7.発熱+頭痛型
 8.発熱+消化器症状型
 9.発熱+関節痛型
 10.発熱+皮疹型
 11.発熱+頸部痛型

第3章 外来診療での処方と高齢者診療のノウハウ
 12.外来経口抗菌薬
 13.インフルエンザへの診療をどうするか?-タミフル®を出す以外の選択肢は?
 14.漢方薬の使い方
 15.高齢者の発熱?診療
 16.高齢者の最もよくある肺炎-誤嚥性肺炎の考え方・抗菌薬の使い方

 索引

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風邪診療と不明熱診療の距離
書評者: 青木 眞 (感染症コンサルタント)
 本書は「風邪」診療と「不明熱」診療の距離が極めて近接していることをあらためて認識させる良書である。「風邪は万病のもと」というが,恐らく正確には万病は病初期,みな風邪のようにみえるということなのだと思う。言い換えれば問題の臓器も病因も不明なのである。“Harrison”の内科書で長らく感染症を担当したPetersdorfは「多くの病気が不明熱と名づけられている。それは医師が重要な所見を見逃し,無視するためである」と喝破した。これは評者が長らく指摘してきた「風邪」という診断名の乱用が問題臓器と病因の検討不足の表現である事実とも関連している。さらに外科学領域の古典ともいえる“Cope's Early Diagnosis of Acute Abdomen”が「胃腸炎という診断は,まだ診断できていない病態に名前を与える行為であることが多い」とコメントしていることも,胃腸炎と風邪の違いはあれど同じ性質の病根を扱っている。

◆明解な構成

 本書は極めてわかりやすい構成になっている。第1章「風邪を風邪と診断するノウハウ」と第2章「風邪に紛れた風邪以外を診断するノウハウ」が本書を構成する2つの基本的なモジュールで,さらに第3章で「外来診療での処方と高齢者診療のノウハウ」というプレゼントが添えられており,漢方薬の使い方まで入ったサービス付き。第1章では「風邪を風邪とする」ためには病変の解剖は基本的に上咽頭付近に限局している点,および「風邪」のように見えるが本当の鑑別すべき数種類の病態について,意識すべき点などが綺麗にアルゴリスムを添えて提示されている。第2章では発熱のみで必ずしも上咽頭に問題が限局しない不明熱的な病態を扱い,さらに「皮疹」型,「関節痛」型,といった+α(プラスアルファ)で亜型に分類,診療を進めている。この点では野口善令先生方による名著『この1冊で極める不明熱の診断学』1)も+α(プラスアルファ)に注目した点を想起させ,さらに原点をたどればTotal Family Care(TFC)をお作りになった田坂佳千先生による「かぜ症候群における医師の任務は,他疾患の鑑別である」2)という源流にたどり着く。

◆新しい世代の感染症医を輩出するもの

 同じ施設で仕事をさせていただいた経験はないが,おそらく著者の岸田先生は非常に臨床的センスのよい方に違いない。不明熱,風邪,胃腸炎……どれも漠然とした臨床の風景である。この漠然とした「風邪」の臨床風景を2つに大別,さらに亜型に切り分けていく作業には,臨床現場に必須のよい意味での思い切りのよさが求められる。そして,この思い切りのよさは一朝一夕に生み出されるものではなく,日々の誠実な診療経験からのみ生まれるものである。

 岸田先生ご自身のみならず,若くしてここまでの本を書く医師を指導されてきた先生方,田坂佳千先生が始められたTFCや日本感染症教育研究会(IDATEN)の先生方にも深く敬意を払う次第である。多くの読者を得ることを望みます。

参考文献
1)野口善令(監修).この1冊で極める不明熱の診断学.文光堂;2012.
2)田坂佳千.“かぜ”症候群の病型と鑑別疾患.今月の治療.2005;13(12):1217-1221.


「風邪」の診かたは,医師にとっての一般教養
書評者: 大曲 貴夫 (国立国際医療研究センター・国際感染症センター長)
 研修医たちと接していると感じるのは,彼らが急性上気道炎(以下,本書に倣い「風邪」と表記する)の診かたを知らないということである。市中肺炎や腎盂腎炎,髄膜炎の診療は知っているのに,である。何とも不思議な状況であるが,無理もない。かわいそうなことに,医学教育の流れの中で,風邪を系統的に教わることはまずないのだ。こんなにありふれた疾患であるにもかかわらず,だ。

 おそらく多くの医師は,風邪自体を「そんなことは当たり前」として,そもそも医療上の問題として捉えていないと思われる。いわば医療化されることのない,体調不良の一種として捉えていることがほとんどである。しかし当事者である患者が風邪による症状に対して,民間療法では対処不能として医療を求めはじめたとき,結果として施される診療の中身は,顔をしかめてしまうものが多い。

 問題の中身を挙げておこう。第1には,患者の問題は本来抗菌薬の必要のない風邪であるのに,別の診断を付けてしまうことである。発熱・咽頭痛・鼻汁で来院した患者に「A群β溶連菌咽頭炎の可能性あり」として抗菌薬を処方する,などがその例である。患者が抗菌薬アレルギーによる全身発疹を発症したらどうするのだろうか。第2の問題は,患者が発熱を訴えて来院した場合に,本来は重篤なほかの疾患によるものであるのに,「風邪」と診断してしまってこれらの重篤な疾患を見落とし,後手に回ってしまうということである。当初「風邪」と診断され,結果的に深頸部感染症から縦隔炎・肺膿瘍となり亡くなった若者の事例などが報告されている。

 本書は,これらの問題に切り込むため,風邪様症状へのアプローチとして「風邪を風邪と診断する」「風邪に紛れた風邪以外を診断する」ことの重要性を指摘し,その実際を説いている。「風邪を風邪と診断する」には,さまざまな臨床像を取り得る「風邪」を豊かなイメージとともに知っておくことが必要である。それは疾患の発症から完成そして改善までの一連の流れを,みずみずしい像として知っておくことにほかならない。本書はこの点を豊かに描いている。そして「風邪」のイメージを自分の中で作り上げることができれば,そこに当てはまらない臨床像の患者に遭遇した場合に,何やらおかしいと感じとることができる,と指摘する。そうすれば後は「風邪に紛れた風邪以外を診断する」ために,風邪以外の疾患の臨床像を,やはりみずみずしいイメージとしてたたき込んでいけばよい。

 本書は,その過程を導いてくれる良書である。この本を読んだら,まずは自分自身が風邪をひいたときや,家族や同僚が風邪をひいたときに,ぜひ本書の内容を適用していただきたい。そうやって繰り返し症例に当たり,検証することで風邪診療は身についていく。
医学生や研修医,ベテラン医師にも購読を勧めたい良書
書評者: 山中 克郎 (藤田保衛大病院・総合救急内科)
 風邪の診断をするときによく思い出すのは,田坂佳千先生の「かぜ症候群における医師の存在意義は,他疾患の鑑別・除外である」という教えである。ありふれた疾患の水面下には,目では見えない大きく深い世界が隠れている。内科全般にわたる広範な医学知識と適切な問診や身体所見から目に見えない部分を感じとることが必要だ。風邪のふりをした,とんでもない重症疾患があるのだ。

 風邪には咳,咽頭痛,鼻汁の3つの症状がある。この中の一つの症状しかなければ風邪の診断は怪しい。咳+発熱だけなら肺炎,咽頭痛+発熱だけなら急性喉頭蓋炎,鼻汁+発熱だけなら副鼻腔炎かもしれない。本書では典型的な風邪の症状について,いくつかの症状パターンに分けてわかりやすく解説されている。漢方処方が不得意な私にとっては,咳には「麦門冬湯」,鼻水には「小青竜湯」,咽頭痛には「桔梗湯」との提案はありがたい(p11)。診療の幅が広がりそうだ。漢方はことさら強い主張はないのに,中国3000年の歴史から凛としてロマンチックな雰囲気を醸し出してくれる。

 さらに,忙しい臨床医が陥りやすいピットフォールについて具体例が示されている。長引く外来では思考をちょっと休めたりしたくなるが,風邪という診断をつけて思考停止に陥ることだけは避けたい。肺炎と風邪との違いについてのポイント解説が実に明快である。

全肺炎の7%で初期は肺炎像がはっきりしない ……p48

肺炎を疑う病歴の極意:(1)悪寒戦慄を伴う38℃以上の発熱+咳,(2)二峰性発熱,(3)38℃以下でも高齢者や肺に基礎疾患がある人の気道症状+寝汗 ……p49

マイコプラズマ肺炎の特徴:鼻汁,咽頭痛,38℃以上の発熱が3日間以上続く若年成人,流行あり,胸部レントゲン写真で浸潤影,皮疹(多形滲出性紅斑以外でもよい),関節腫脹,肝機能異常 ……p55

 また,次のような実践にすぐ役立ち,他の医師にちょっと自慢できるクリニカル・パールも満載である。

初期に局所臓器所見がはっきりしにくい感染症:(1)急性腎盂腎炎,(2)急性前立腺炎,(3)肝膿瘍,(4)化膿性胆管炎,(5)感染性心内膜炎,(6)カテーテル関連血流感染症,(7)蜂窩織炎,(8)カンピロバクター腸炎の初期,(9)歯髄炎,(10)肛門周囲膿瘍,(11)その他:髄膜炎菌敗血症,サルモネラ,レプトスピラ,レジオネラ,ブルセラ ……p64

成人+初期に高熱のみとなりうるウイルス疾患:(1)インフルエンザ,(2)アデノ,(3)ヘルペス(成人水痘の初期など),(4)麻疹 ……p70

高齢者の多関節炎の鑑別診断:(1)非典型結晶性関節炎,(2)streptococcal arthritis(特にG群),(3)傍腫瘍性症候群(特に肺癌) ……p106

「頸部痛なのに頸部に何もない」ならば,(1)大動脈解離(頸動脈解離を伴わなくてもよい),(2)心筋梗塞(狭心症),(3)くも膜下出血,を考える ……p129

高齢者の診療では家族が訴える「何か変」は,ほとんどの場合正しい ……p161

 風邪診療をすっきりと粋にこなしたい医学生や研修医,そしてベテラン医師にも広く購読を勧めたい良書である。この本はcommon diseaseを極めることこそ臨床医としての真の実力を高めるのだと考えている多くの臨床家の心に響くだろう。時を経ても永遠に新しい古典のように,この本の智慧が若手医師に語り継がれることを私は望んでいる。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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