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≪精神科臨床エキスパート≫

多様化したうつ病をどう診るか


シリーズ編集:野村 総一郎/中村 純/青木 省三/朝田 隆/水野 雅文
編集:野村 総一郎

  • 判型 B5
  • 頁 192
  • 発行 2011年10月
  • 定価 6,264円 (本体5,800円+税8%)
  • ISBN978-4-260-01423-6
うつ病は本当に変わったのか? 混沌とした診療現場への処方箋!
精神科診療のエキスパートを目指すための新シリーズの1冊。多様化、複雑化した現在のうつ病診療の諸問題を整理し、臨床家が日々感じている実際的な疑問に答える内容。現代型のうつ病、双極スペクトラム、非定型うつ病、生活習慣病としてのうつ病、老年期うつ病、発達障害や統合失調症とうつ病の関係など、いま知りたいテーマを気鋭の執筆陣が縦横無尽に論ずる。

シリーズセットのご案内
●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット I 本書を含む5巻のセットです。
 セット定価:本体26,000円+税 ISBN978-4-260-01496-0 ご注文ページ
序 文
精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって/序

精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
 近年,精神科医療に寄せられる市民の期待や要望がかつてないほどの高まりを見せている.2011年7月,厚生労働省は,精神疾患をがん,脳卒中,心臓病,糖尿病と並ぶ「5大...
精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって/序

精神科臨床エキスパートシリーズ 刊行にあたって
 近年,精神科医療に寄せられる市民の期待や要望がかつてないほどの高まりを見せている.2011年7月,厚生労働省は,精神疾患をがん,脳卒中,心臓病,糖尿病と並ぶ「5大疾患」と位置づけ,重点対策を行うことを決めた.患者数や社会的な影響の大きさを考えると当然な措置ではあるが,「5大疾患」治療の一翼を担うことになった精神科医,精神科医療関係者の責務はこれまで以上に重いと言えよう.一方,2005年より日本精神神経学会においても専門医制度が導入されるなど,精神科医の臨床技能には近時ますます高い水準が求められている.臨床の現場では日々新たな課題や困難な状況が生じており,最善の診療を行うためには常に知識や技能を更新し続けることが必要である.しかし,教科書や診療ガイドラインから得られる知識だけではカバーできない,本当に知りたい臨床上のノウハウや情報を得るのはなかなか容易なことではない.

 このような現状を踏まえ,われわれは《精神科臨床エキスパート》という新シリーズを企画・刊行することになった.本シリーズの編集方針は,単純明快である.現在,精神科臨床の現場で最も知識・情報が必要とされているテーマについて,その道のエキスパートに診療の真髄を惜しみなく披露していただき,未来のエキスパートを目指す読者に供しようというものである.もちろん,エビデンスを踏まえたうえでということになるが,われわれが欲して止まないのは,エビデンスの枠を超えたエキスパートの臨床知である.真摯に臨床に取り組む精神科医療者の多くが感じる疑問へのヒントや,教科書やガイドラインには書ききれない現場でのノウハウがわかりやすく解説され,明日からすぐに臨床の役に立つ書籍シリーズをわれわれは目指したい.また,このような企画趣旨から,本シリーズには必ずしも「正解」が示されるわけではない.執筆者が日々悩み,工夫を重ねていることが,発展途上の「考える素材」として提供されることもあり得よう.読者の方々にも一緒に考えながら,読み進んでいただきたい.

 企画趣旨からすると当然のことではあるが,本シリーズの執筆を担うのは第一線で活躍する“エキスパート”の精神科医である.日々ご多忙ななか,快くご執筆を引き受けていただいた皆様に御礼申し上げたいと思う.

 本シリーズがエキスパートを目指す精神科医,精神科医療者にとって何らかの指針となり,目の前の患者さんのために役立てていただければ,シリーズ編者一同,望外の喜びである.

 2011年9月
 シリーズ編集 野村総一郎
          中村  純
          青木 省三
          朝田  隆
          水野 雅文



 かつてうつ病の臨床は,非常に単純であったように思われる.「真面目で几帳面な人がかかるのだから,励まさないで,安静にさせ,抗うつ薬を与えれば治る」というものである.もちろんうつ病が,必ず治癒する軽い病気として考えられていたわけではないが,少なくとも目指すべき治療論は単純明快であったといえよう.
 しかしいつの頃か,なかなかに複雑さを帯びてきた.1つはうつ病の状態像変化である.皮肉なことに,旧来の三環系抗うつ薬に代わる画期的な新薬SSRIが登場した時期とほぼ一致して,「抗うつ薬を与えておけばよい」という楽観的な治療観が修正を迫られてきた.おりしも「うつ病は心の風邪」というキャンペーンが行われていたが,これもまるで楽観的な治療観の最後のあがきのような表現であって,今やうつ病の実態を全くわかっていないコトバとしてひどく評判が悪い.このような変化はちょうど日本経済の長期低落傾向がいよいよ顕になってきた時期とも重なるようである.この意味するところは社会文化的考察の次元であるが,いずれにしろうつ病は「簡単な治療論」で立ち向かいうるような簡単な病気ではないことが,いよいよ明らかとなってきたのである.
 またもう1つは,世代ごとのうつ病への注目である.子どもや産後,更年期や老年期といった各世代で,それぞれにうつ病が発症する.考えてみると当然のことではあるが,従来にはこの視点が乏しかった.また,いろいろな精神疾患にうつ病が併発するという事実にも,あらためて注意が向けられるようになった.これらは米国流の操作的診断の功績といえるかもしれない.わが国の伝統的精神医学では,「診断とは鑑別」であり,うつ病であれば他の病気ではないというのが基本の考え方であって,「併発」という発想は生まれにくかったが,統合失調症も,不安神経症も,器質脳障害も「うつ病のような状態」に陥ることが再発見されたのである.
 以上のような変化は,新しい時代の息吹とも感じられ,精神医学の進歩の一側面ともいえるであろうが,第一線の臨床家をいささか戸惑わせている面もあるのではないかと思われる.いや,誠実にうつ病臨床に取り組む臨床家ほど,やや自信を失っているように感じられることすらある.そこで本書では,多様化し,かつ複雑化したうつ病の諸問題の整理を試みることにした.取り上げた課題は,疾患概念,診断,治療と多岐にわたるが,いずれも臨床家が日々感じている実際的な疑問点ばかりである.これらを学問的に扱うことは非常に難しく,おそらくまともに取り上げれば,「こういうこともあれば,そういうこともある」「いろいろあってよくわからない」ということになりかねない.それではいかにもまずいので,ここではアカデミズムの厳密さを追求するよりも,この段階で臨床家が何を知り,どうそれを日常臨床に生かすべきなのか,という視点で,気鋭の臨床家を厳選し,どちらかというと読み物的に通読できるような内容を目指した.読者の皆様が楽しんで読み,考えが整理できる一助となると幸いである.

 2011年9月
 編集 野村総一郎
書 評
  • 「私の臨床体験」を再考するよいきっかけとなる
    書評者:村井 俊哉(京大大学院教授・精神医学)

     「私の臨床経験からは……」という言い回しは,20年ほど前の精神医学の専門書では,決して珍しくないものだった。そして,治療に難渋した症例についてのヒントを成書に求めるとき,諸先輩の「私の臨床経験」こそが,駆け出しの精神科医にとっては最も確かな道案内となっていた。

     時代は変わり,エビデンス精神...
    「私の臨床体験」を再考するよいきっかけとなる
    書評者:村井 俊哉(京大大学院教授・精神医学)

     「私の臨床経験からは……」という言い回しは,20年ほど前の精神医学の専門書では,決して珍しくないものだった。そして,治療に難渋した症例についてのヒントを成書に求めるとき,諸先輩の「私の臨床経験」こそが,駆け出しの精神科医にとっては最も確かな道案内となっていた。

     時代は変わり,エビデンス精神医学の思想が浸透し,経験豊かな精神科医であっても,「私の臨床経験」を文章にして披露することには,若干の躊躇を覚えざるを得ないのが今日である。そのような現代精神医学の状況において,あえて「私の臨床経験」の披露を執筆陣に促している本書は,他書では得られない味わいがある。

     このような「私の臨床経験」は,さまざまな精神科の病気の中でも,本書が扱う「うつ病」において,特に大切だと私は思う。診断や治療について考える場合にも,例えば,うつ病と統合失調症の境界よりも,うつ病と健康の境界のほうがずっと重要で,また,SSRIを用いるのか気分安定薬を処方するのかの判断よりも,そもそも治療をするのかしないのかの判断の方がずっと難しいように思う。

     「そうそう私もそう思う!」とか,「いや,この部分は違うと思う」など考えながら読み進めるのが,本書を読む楽しみである。「私の臨床経験」を前面に押し出されている執筆者もいれば,かなり控えめにされている執筆者もいる。本書全体で,うつ病についての網羅的知識を提供することをめざしておらず,章ごとの統一感がないところも,よい意味での本書の特徴となっている。

     「私の臨床経験」が書かれた書物とはいっても,「このタイプのこのような患者さんには,私であれば薬Aを○○mgぐらいから開始して……」といった話ばかりが披露されているわけではない。そのようなレシピ集も,それはそれで臨床経験には違いないが,そこから得られるものはあまり多くはないだろう。この本で披露されている「私の臨床経験」は,レシピではなく,それぞれの執筆者のうつ病臨床における「哲学」である。

     操作的診断基準に当てはまるか否かは別として,医師である自分自身はどこまでをうつ病と考えるか? うつ病であると自分自身が考えたとして,ではその根拠は何か? 「現代型のうつ病」などの概念の登場とともに,うつ病の臨床に携わる医師は,このような哲学的な問いを自らに投げかけざるを得ない機会がますます増えている。本書を読むことで,私自身,「私のうつ病観」を再考するとてもよいきっかけとなった。
  • うつ病診療のノウハウをエキスパートたちがわかりやすく解説
    書評者:山口 登(聖マリアンナ医大教授・精神医学)

     精神科臨床の現場で「そこが知りたい」と思うテーマがある。そのテーマについてその道のエキスパートたちが診療の真髄を遺憾なく述べてくれると本当に助かる。多くの精神科医療者が精神科臨床の現場で抱く疑問の一つに「うつ病診療」がある。「うつ病診療」について,教科書やガイドラインには書ききれない診療のノウハウ...
    うつ病診療のノウハウをエキスパートたちがわかりやすく解説
    書評者:山口 登(聖マリアンナ医大教授・精神医学)

     精神科臨床の現場で「そこが知りたい」と思うテーマがある。そのテーマについてその道のエキスパートたちが診療の真髄を遺憾なく述べてくれると本当に助かる。多くの精神科医療者が精神科臨床の現場で抱く疑問の一つに「うつ病診療」がある。「うつ病診療」について,教科書やガイドラインには書ききれない診療のノウハウをエキスパートたちがわかりやすく解説しているのがこの本だ。

     「うつ病は,真面目で几帳面な人が罹りやすい」「静養させ,励まさない,抗うつ薬の服用で治る」というのが,教科書的であり,従来のうつ病の臨床であった。もちろん,うつ病は簡単な病因論や治療論で説明できる疾患ではなく,また必ず治癒する病気として考えられていたわけではないが,統合失調症に比べ,比較的短期間に治療可能な疾患として考えられてきた。しかし,現時点において,うつ病は多様化し,臨床的に複雑さを増し,第一線の臨床家を悩ませ,戸惑わせていることが多い。「うつ病は変わったのか。そして,その背景に何があるのか」「どこまでが性格か,その人の生き方なのか,どこからうつ病なのか,あるいは別の問題(疾患)か」など疑問・関心を抱く臨床家は多いことと思う。

     本書では,多様化し,かつ複雑化したうつ病の諸問題を取り上げ,教科書やガイドラインには載っていない診療のノウハウがわかりやすく解説されている。問題は,疾患概念,診断,治療と多岐にわたる。うつ病の状態像の変化,診断基準の問題,年代による変化,種々の精神疾患との関連などにおいて生物学的および社会・文化的考察が必要となる。本書では,具体的な問題として,「現代型うつ病」「双極スペクトラム」「非定型症状に対する治療」「生活習慣の中のうつ病」「老年期のうつ病」「発達障害からみたうつ病」「統合失調症に併発したうつ病」などが取り上げられ,記載されている。執筆者はこの分野のエキスパートの中から厳選され,診療上の実体験や客観的エビデンスを踏まえた上で,各人がそれぞれの持論を展開している。「患者を一人の人間としてどのように多面的に診ていくべきか」「他疾患の影響(合併)はないか」「治療者は安易に薬物投与に依存し過ぎてはいないか,非薬物療法的介入は無いのか」など執筆者たちも日々悩み,工夫を重ねていることがうかがえる。これらのテーマに疑問・関心を抱いた読者には非常に興味深く,一緒に考えながらそして楽しみながら読み進めることができるであろう。

     本書は,エキスパートたちの持論をヒントにして,読者が今後のうつ病診療のあり方を再考し,そして発展させていくのに大いに活用できるものと考える。日常の診療で悩んでいる医療者,さらにはエキスパートをめざす医師たちの一助となるものと思う。
目 次
第1章 現代型のうつ病をどうとらえるか
 典型的な症例,Aさん
 Aさんのどこが「現代型」といえるのか
 米国精神医学会診断基準DSM-IVでの位置づけ
 「現代型のうつ病」を巡る国内外での研究
 現代型のうつ病の位置づけ,日本と欧米の比較
 治療について文献から
 まとめに代えて-Q&A
 (附)双極スペクトラム障害の薬物療法

第2章 非定型うつ病に対する薬物治療の覚書
 はじめに-「無定形」化する非定型うつ病
 治療の対象となる非定型うつ病とは何か
 非定型うつ病の薬物療法のエビデンス
 非定型うつ病の治療の原則
 非定型うつ病の薬物治療の実際
 終わりに-薬理学的彷徨の果てに

第3章 「生活習慣病」としてのうつ病
 具体例の提示
 「生活習慣病」概念における睡眠の軽視
 ディプレッションに対する療養指導の実際
 産業精神保健における療養指導の意義
 生活習慣自体は個人の自由
 低侵襲療法としての生活習慣指導
 生活習慣指導の利点
 生活習慣指導とは何でないか
 生活習慣指導の限界
 医師・患者のパートナーシップ
 おわりに-無理なく,無駄なく,おだやかに

第4章 老年期うつ病診療のポイント
 疫学
 要因
 診断と臨床特徴
 鑑別診断
 薬物療法
 精神療法
 非薬物的身体療法
 ケア
 予後

第5章 発達障害からみたうつ病の臨床
 発達障害の概説
 自閉症スペクトラム障害(ASD)
 注意欠如・多動(性)障害(ADHD)
 症例

第6章 統合失調症に併発したうつ病への対応
 ARMSにおける抑うつ状態
 急性期における抑うつ状態
 精神病後抑うつ状態(PPD)
 再発前駆症状としての抑うつ状態
 薬物によるうつ状態
 主観的QOLと心理社会機能の乖離
 おわりに

索引