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医療安全ことはじめ


編集:中島 和江/児玉 安司

  • 判型 A5
  • 頁 312
  • 発行 2010年11月
  • 定価 3,300円 (本体3,000円+税10%)
  • ISBN978-4-260-01196-9
新しい医療安全の取り組みを社会全体で考える
本書は大阪大学と東京大学で行われている医療安全に関する講義をまとめたもの。医療安全への取り組みをさまざまな角度からとらえて、グローバルな新しい課題の発見や、日本独自のこれまでの歩みを振り返りながら、今後の医療安全のあり方を模索している。執筆者らの「初心に返って医療安全を考え直してみたい。社会のすべての人々がそれぞれの立場で一から医療安全にかかわってほしい」という思いから上梓された。
序 文
はじめに

 この国の医療の中で,「リスクマネジメント」ということばが聞かれるようになって,10年余りの時が過ぎました。医療安全対策は個々の医療機関の取り組みを超えて,国の施策の中にも位置づけられ,以前は影も形もなかった「リスクマネジャー」「インシデント・アクシデントレポート」「根...
はじめに

 この国の医療の中で,「リスクマネジメント」ということばが聞かれるようになって,10年余りの時が過ぎました。医療安全対策は個々の医療機関の取り組みを超えて,国の施策の中にも位置づけられ,以前は影も形もなかった「リスクマネジャー」「インシデント・アクシデントレポート」「根本原因分析(RCA)」や「医療安全マニュアル」がはっきりと姿を現し,医療界の常識となってきましたが,その一方で,それらのツールの問題点や限界も意識されるようになりました。
 また,医療者と患者のコミュニケーションを支え相互理解を育てていくために,医療現場から公的機関に至るまで,「患者相談窓口」が幾重にも準備されてきたにもかかわらず,この10年は「医療不信」と「医療崩壊」の10年でもありました。医事紛争も次第に姿を変えつつあります。医療者の自律的な取り組みと調査報告書のあり方が課題となる一方で,産科無過失補償などの新しい制度も登場しています。
 医療安全やコミュニケーションのあり方が変わった背景には,IT化を始めとする新しい技術の導入による医療の高度化があり,さらに,在院日数の短縮に象徴される医療と療養・介護の全体にわたる制度の巨大な変化がありました。
 本書の編者らは,2000年10月に,『ヘルスケアリスクマネジメント』を刊行し,当時の「世界標準」の医療リスクマネジメントの一端を紹介しようと試みました。その後,それぞれの地域でそれぞれの現場を違った角度から見ながら,現実と格闘し続けた10年が過ぎました。
 最近になって編者らは,大阪大学と東京大学で,医療安全に関する講義を担当するようになりました。内容はそれぞれの独自のものであったのですが,いずれの講義も,『ヘルスケアリスクマネジメント』に盛り込むことができなかったグローバルな新しい課題や,この国独自の10年の歩みを伝えつつ,次の10年を模索しようとするものでした。
 2つの大学の講義をあわせて単行本として刊行すれば,新しい課題に対応した講義や研修の教科書として活用していただくことができるのではないかという思いのもとで,半年余りの短期間のうちに企画が進行し,講義をご担当いただいた先生方と大阪大学中央クオリティマネジメント部・東京大学医療安全管理学教室のスタッフの皆様のご協力のおかげで本書が刊行されることとなりました。初心にかえって医療安全を考えなおしてみたい,社会のすべての人がそれぞれの立場で一から医療安全に参加してほしい,そんな思いを込めて,「医療安全ことはじめ」というタイトルを選びました。
 執筆者の皆様と編集の労をお取りいただいた医学書院の皆様に,改めて心より御礼申し上げて,編者の序とさせていただきます。

 2010年11月
 編者しるす
目 次
序章 医療安全への新しいチャレンジ
 医療安全元年から10年間の取り組み
 目標・解決策・評価・資料
 サイエンスとしての医療の質・安全
 これからの医療安全

第I部 発想を転換する
第1章 インシデントレポート再考
 当院におけるインシデントレポート活用の仕組み
 インシデントレポートの課題
 報告に影響を与える要因
 インシデントレポートを有効活用するための教育
第2章 ノンテクニカルスキルトレーニングへの挑戦
 最前線の医療従事者が担う安全
 人間の限界
 ヒューマンファクターズ
 イレイン・ブロミリー氏の事例
 ノンテクニカルスキル
 クルーリソースマネジメント-航空界の取り組み
 医療におけるノンテクニカルスキルトレーニング
 今後の課題
第3章 隠れたリスク「低栄養」
 低栄養とRefeeding症候群
 摂食・嚥下について
 入院中に進行する低栄養
 栄養管理に求められる診療情報
第4章 医療安全への患者参加支援ツール
 医療安全と患者参加
 当院における取り組みの概要
 患者参加を支援するツールの作成
 患者参加を支援するキャンペーンの展開
 患者の声と今後の課題
第5章 卒前の医療安全教育カリキュラムの設計
 医療安全教育について
 米国における卒前の医療安全教育カリキュラム
 ルーシャン・リープ研究所からの提案
 英国下院の提言
 WHO患者安全のための世界連携
 これからのわが国の医療安全教育について
第6章 サイエンスとしての医療安全学の構築
 なぜ,医療安全学が必要か
 医療安全学研究
 医療安全学教育
 医療安全と医療情報学

第II部 人・組織・社会をつなぐ
第7章 安全マインドを有する医療人の育成
 医療施設における医療安全管理システム
 リスクマネジャー・医療安全管理者の養成
 生命にかかわる事故の発生直後対処シミュレーション
第8章 教訓を活かし検証していく仕組み作り
 医療安全のための体制
 「医療安全の道筋は,診療の流れと同じである」
 事例情報活用の考え方「解決策は1つとは限らない」
 医療事故の防止「事故を減らす,紛争をなくす」
 医療事故への対応「今日の危機を乗り切る,明日の安全につなげる」
 学んでいくこと「病院は本当に安全になっているのか
第9章 翻訳いらずの医療事故報告書
 モデル事業の目的:死因究明・医療評価・再発防止
 医療評価の基本的要件
 評価結果報告書の構成
 医療評価と報告書作成のポイント
 再発防止への提言:事後的な評価視点で
 評価結果報告書作成により目指すこと
第10章 患者からの苦情・相談への多職種チームによる対応
 患者相談・苦情対応の実際
 正当な苦情と不当な苦情
 対応困難な事例と患者の問題行動への対応
 患者相談・臨床倫理センターという組織

第III部 行政と法から支援する
第11章 医療事故,ヒヤリ・ハットの収集・分析事業と無過失補償制度
 医療事故情報収集等事業
 薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業
 産科医療補償制度
 スウェーデンの医療障害補償制度について
第12章 住民と医療の対話促進への取り組み
 医療安全支援センターの制度化の背景
 東京都における医療安全支援センターの取り組み
 安全・安心・納得の医療をめざして
第13章 医療事故調査と法的責任 米国と日本の比較の視点から
 医療事故の発生率
 米国における法と医療安全:概観
 日本における法と医療安全-米国法との比較に基づく情報
終章 新しい時代の医療安全をめざして
 コミュニケーションと社会システムの構築
 医療安全と日常診療
 医療をめぐるコミュニケーション
 コミュニケーションと社会システムの構築

索引