生活機能からみた
老年看護過程 第2版
+病態・生活機能関連図

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生活機能の視点から、高齢者の“もてる力”を引き出すための方法とコツを解説。第2版では「病態・生活機能関連図」をより導きやすくなるよう「アセスメントの視点」を新たに設定。カルテが読める「目でみる疾患、症状、診断・検査値、合併しやすい症状、治療法」、ケアがみえる「情報収集・分析、アセスメントの視点、ケアプラン」、高齢者の全体像がみえる「病態・生活機能関連図と看護問題」。これで実習記録に悩まない。
シリーズ からみた看護過程
編集 山田 律子 / 萩野 悦子 / 井出 訓
編集協力 佐々木 英忠
発行 2012年08月判型:A5頁:536
ISBN 978-4-260-01564-6
定価 3,960円 (本体3,600円+税)
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はじめに

 看護学実習では,通常,「看護問題(本書では「看護の焦点」とよんでいます)」を取り上げ,その問題解決を目標として進めます.いわゆる「問題解決型 思考」です.しかし,筆者らは,老年看護学実習を「問題解決型思考」で進めることには違和感を覚えるのです.
 「転倒」の防止を例に考えてみましょう.これは高齢者の看護では,基本ともいえることがらです.ただし,それを「看護問題」として強調してしまうと,「安全を確保するためには行動制限をしなければならない」といった発想が生じ,高齢者の「いきいきとした活動」をかえって妨げている場面が少なくないのです.転倒防止策は具体策で立案しますが,「看護の焦点」には,高齢者の暮らしが豊かになるような目指すべき方向性を示したほうが,対象者本人をはじめ多職種で協働する際にも進むべき方向性を見失わずにすむのではないでしょうか.
 もちろん老年看護においても,生命が脅かされるような急性疾患のように,「問題解決型思考」が中心となることもありますが,学生の皆さんが老年看護学実習で受け持つ対象者の多くは,慢性疾患や障害をもちながら暮らしている高齢者です.その場合の看護実践は,「問題解決型思考」よりも,対象者がどのような生活を望んでいるか,つまり「目標志向型 思考」で進めることが望ましいといえます.本書は,そのような「目標志向型思考」に基づいて実習を展開する手がかりとなることを目指して書き下ろしました.
 本書のもう1つの特長は,「生活行動モデル」を用いたことです.これは,筆者らの老年看護領域における実践経験をもとに開発したモデルで,文字どおり「高齢者の生活」に焦点を合わせています.読者がモデルを理解し,実践に応用できるよう,本書の第1編では「生活行動モデル」に基づいて,高齢者の生活をとらえるための視点について詳述しました.
 今回の改訂にあたっては,「看護の視点」における内容の重複を防ぎコンパクトにしたうえで,病態・生活機能関連図を描くことにとまどう学生が多かったことから,「アセスメントの視点(病態・生活機能関連図へと導くための指針)」を新たに設定しました.さらに「病態・生活機能関連図」も,初版では思考過程を重視した描き方になっていましたが,第2版では学生が実習で描く関連図に近いものにするため,「病態」「生活への影響」「看護の焦点」「予測される危険性」の4軸にして,生活環境は「生活への影響」のなかで関連づけるようにしました.また,読者の皆さんからの貴重なご意見や時流性もふまえて,内容の修正を行いました.
 また,第2編を「疾患別看護過程の展開」「症状・機能障害別看護過程の展開」の2部構成とし,両者の視点から看護過程の展開を学習できるよう配慮しました.
 本書の執筆は,いずれも老年看護の実践と教育に習熟した方々にお願いし,執筆にあたっては,「基盤となる考え方」にずれがないよう,とくに留意しています.
 皆さんの老年看護学実習を円滑に進めるうえでの拠り所として本書を活用していただけるならば,筆者らにとって望外の喜びです.また,今後も実際に利用されたうえでのご意見,ご感想を,是非ともお寄せください.皆さんにとって,より学びが深まるものになるよう引き続き改訂していきたいと考えています.そのことが,実習場面で皆さんがお世話になる高齢者の方々への還元にもなると信じているからです.
 第2版の刊行にあたり,最後まで根気よくお付き合いいただきました執筆者の先生方に,この場を借りて御礼を申し上げます.また,いつも温かく励ましながら根気よく支えていただきました医学書院諸氏に深謝申し上げます.
 私たちの老年看護学にかける熱い思いを,本書を通して少しでも伝えることができたなら幸いです.

 2012年7月
 著者を代表して 山田律子

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 はじめに
 老年看護の展開における考え方
 複数の疾患をもつ高齢者のとらえ方
 本書の構成と使い方

第1編 生活行動情報の着眼点
  1 活動
  2 休息
  3 食事
  4 排泄
  5 身じたく
  6 コミュニケーション

第2編 病態からみた看護過程の展開
 第1部 疾患別看護過程の展開
 【脳神経系疾患】
  1 認知症
   高次脳機能障害
  2 脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)
  3 パーキンソン病
  4 脊髄小脳変性症
 【運動器系疾患】
  5 大腿骨頸部骨折・転子部骨折
   脊椎圧迫骨折
   骨粗鬆症
  6 変形性膝関節症
 【呼吸器系疾患】
  7 肺炎(誤嚥性肺炎)
  8 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
 【循環器系疾患】
  9 心不全(慢性うっ血性心不全)
 【代謝疾患】
  10 糖尿病
 【腎・泌尿器系疾患】
  11 前立腺肥大症
  12 神経因性膀胱
 【皮膚疾患】
  13 老人性皮膚そう痒症(老人性乾皮症)
   カンジダ症
  14 褥瘡
  15 白癬
 【眼疾患】
  16 白内障
 【精神疾患】
  17 うつ状態(うつ病)
 【感染症】
  18 ノロウイルス感染症
  19 疥癬
  20 尿路感染症

 第2部 症状・機能障害別看護過程の展開
  21 摂食・嚥下障害
   胃食道逆流症(逆流性食道炎)
   胃瘻のケア
  22 脱水
  23 浮腫
  24 排尿障害(尿失禁・排尿困難・頻尿)
  25 排便障害(便秘・下痢)
  26 睡眠障害
  27 転倒・転落
  28 言語障害(失語症・構音障害)
  29 しびれ・冷え
  30 老人性難聴
  31 せん妄
  32 血圧調節障害(低血圧・高血圧)
  33 廃用症候群

 付録
  付表1 高齢者理解のための生活史年表
  付表2 唱歌と童謡

 索引

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老年看護学実習で大活躍のサブテキスト
書評者: 下村 美佳子 (龍馬看護ふくし専門学校看護学科 専任教員)
 授業の中で,二十歳前後の学生に高齢者のイメージを尋ねると,明るい答えは返ってこない。高齢者の"加齢変化とアセスメント"を学ぶと,機能の低下・減少という言葉ばかり表現されていて,ますます高齢者に対するマイナスのイメージを持ってしまう。

 2009年の看護教育カリキュラム改正により,看護師教育の「基本的考え方」として看護の対象者を「健康を損ねているものとしてのみとらえるのではなく,疾患や障害を有している生活者としてとらえる」方向が示された。編者の山田律子氏らによる「生活行動モデルによる看護過程」は,従来の「問題解決型思考」ではなく,ICF(国際生活機能分類)の考え方とも合致する「目標指向型思考」であり,「看護問題」ではなく「看護の焦点」ととらえ,老年看護をプラスのイメージで展開することができるようになった。

 本校のある高知県は,秋田県に次いで高齢化率第2位である。当然,老年看護学実習にかかわらず学生が受け持つ患者は高齢者である場合が多い。先ごろ出された厚労省研究班の調査では,高齢者のうち認知症の人は推計15%で,2012年時点で,約462万人に上り,65歳以上の4人に1人が,認知症とその予備軍になる計算だそうだ。疾患や障害を抱えても生き生きと暮らすことができるように支援するにはどうすれば良いか,学生と一緒に考えていくことは楽しみである。

 現在本校では,老年看護学の授業で,『系統看護学講座 老年看護学』『系統看護学講座 老年看護 病態・疾患論』(医学書院)をテキストとして使用している。老年看護学実習には副読本として本書を活用していて,実習時学生と引率教員全員が常に携帯している。

 また,実習の看護過程記録用紙は,生活行動モデルに基づき作成している。看護過程を思考する枠組みのコアとなる情報を,「疾患関連情報」「身体的側面」「心理・霊的側面」「社会・文化的側面」の4項目と,生活を営むために不可欠な6つの生活行動「活動」「休息」「食事」「排泄」「身支度」「コミュニケーション」の計10項目としている。これらの情報をアセスメントし,看護問題(看護の焦点)を明確にし,看護計画を立案している。

 学生は,看護過程記録用紙と副読本が同じ枠組みなので,生活行動情報の着眼点がわかると必要な情報を整理しやすい。また高齢者特有の疾患については病態生理,症状,診断・検査,治療薬などについてもカラー図版や写真を豊富に取り入れて解説されている。看護計画立案についても援助内容や根拠を文字だけでなく適時,図表等を使用して記載されているので学生の理解が深まりやすい。

 実習場所は学生の荷物を置くスペースが限られている。内容が豊富であるにもかかわらず,A5サイズとコンパクトなため教員・学生も持ち運びに便利で活用しやすい。実習の基礎・応用と使いこなしていると,学生からはこの副読本があることで,看護計画立案に困らなくなったという声を聞く。

 学生は,実習で受け持ち患者とコミュニケーションをとるきっかけづくりに苦労することがある。その際,われわれ教員は学生と受け持ち患者との橋渡しをすることが多いが,高齢者を理解し,会話のきっかけづくりの一つの方法として巻末にある「高齢者理解のための生活史年表」を参考にするようにアドバイスしている。

 今回の改訂で,関連図が,「病態」「生活への影響」「看護の焦点」「予測される危険性」の4軸となっており,アセスメントの視点(病態・生活機能関連図へと導くための指針)が新たに新設されて,ますます学生にとって使いやすくなっているようだ。秋から始まる老年看護学実習が今から待ち遠しい。

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