はじめに
―国際看護について考えてみませんか
国際看護の本ができました.何年もの構想の末に,ようやく一冊の本になりました.この本は学校の講義でも利用できますが,看護職やこれから看護職につこうとしている多くの方が,ひとりでも楽しく学習できるように,筆者自身が体験した事例やコラムを取り入れ話しかけるような文章で作りました.
この本を手に取られた方の中には,すでに看護学概論などの科目で,国際看護について教えたり,学んだりした方がいるかもしれません.国際看護の講義では,教科書の内容を教員が講義したり,あるいは関心のあるテーマを学生が自主的に発表したり,国際協力の現場で活動した経験者の講演があったりなど,その内容や方法はさまざまです.しかし,国際看護は,まだまだ看護教育の中でその重要性を認識されているとは言いがたいのが現状です.
教える側の教員には,国際協力の現場で仕事をした経験がないという理由で,「私には教えられませんから」と謙虚に辞退される方もいます.そして,教えられる側にも,「私は国際協力なんてしませんし,外国に行きたくないから関係ないです」と講義への疑問を投げかける方もいます.国際看護と国際協力が同義語ではないように,国際看護が目指すものは,決して世界の国際協力の現場で活躍する看護職を養成することだけではないのです.ですから,「国際看護=外国で看護職が“活躍する”」という考え方には賛成できません.少なくとも日本に暮らす外国人への看護は,日常的に施設で行われているはずなのです.
すべての看護の教育者が国際的視野をもち「世界の中のかけがえのない1人の看護職を育てている」という誇りのもとで教育に携わっているでしょうか.学生や若い看護職が,「将来は,外国で看護の仕事や国際協力をしてみたい」と恥ずかしそうに話しかけてきたとき,教員やベテランの看護職は,どのように応えてきたでしょうか.
看護職であれば誰でも,人生のどこかでプロフェッショナルとして国際看護にかかわる可能性はあるのです.看護の対象は「人間」ですから,看護という概念には,もともと国境も,人種も,文化も超えた国際看護という考え方が備わっています.だからこそ,すべての看護職にその知識が必要であると思うのです.
この本は,どのページから読みはじめても大丈夫です.関心のあるテーマからご遠慮なくどうぞ.また,この本は「看護教育」(医学書院)2009年1~12月号連載「誌上講義 国際看護学」(Vol.50 No.1~12)とリンクしています.教育にかかわる皆様には,掲載された国際看護教育の授業方法や資料を合わせてご覧いただけることを期待しています.
この本を手に取られた方に,筆者の想いが届きますように,そして,皆さんの知と技に磨きがかかり,国際看護と看護の発展に寄与できますようにと願っています.
2011年1月吉日
近藤麻理