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病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方
IDATEN感染症セミナー

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医療者であれば誰もが遭遇する病院内感染症。医療が複雑化、高度化するなかで増加する免疫不全関連感染症。医療者はそこに、どうアプローチしたらよいのか。本書では、気鋭の講師陣がこれらの感染症における診療の考え方と進め方をわかりやすく解説する。「新しい日本のスタンダード」を示すIDATEN(日本感染症教育研究会)感染症セミナー待望の第二弾!
編集 IDATENセミナーテキスト編集委員会
発行 2011年03月判型:B5頁:328
ISBN 978-4-260-01244-7
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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 日本感染症教育研究会(IDATEN)は日本の感染症診療と教育を普及・確立・発展させるために活動しています.活動の柱は,年に2回夏と冬に行われるIDATEN感染症セミナーです.全国から応募した医学生・医師を対象に,臨床感染症の考え方から各論まで幅広く講義が行われます.指導的立場にあるIDATENのメンバーが講師として参加し,毎回大変な賑わいを見せています.このセミナーの内容を,なかなか参加できない方々に対して伝えること,IDATENの教育内容のさらなる普及を目的として,本シリーズの第1巻である『市中感染症診療の考え方と進め方─IDATEN感染症セミナー』を2009年に刊行しました.これに対して大きな反響をいただきました.

 さて,感染症診療の学びの入り口は確かに市中感染症の診療にあります.しかし実際の医療現場では入院患者に起こる感染症の診療もきわめて重要です.加えて,医療の複雑化,高度化とともに免疫不全を抱える患者が増えており,免疫不全者の感染症診療についても関心が高まっています.

 IDATENとしては両分野の感染症についても十分な教育啓発を行っていく必要があります.IDATENセミナーは年2回,夏と冬に行われますが,夏は市中感染を,冬には院内での感染症・免疫不全者の感染症を扱います.そこで冬のセミナーの内容を活字化してまとめたのが本書です.前回同様,セミナーの講師の面々に執筆を依頼し,内容は相互でレビューを行い意見を交換しつつ内容を詰めていきました.

 院内での感染症・免疫不全者の感染症の診療は,一筋縄ではいきません.しかし医療が複雑高度化し,今や市中であっても医療への濃厚な曝露や免疫不全を抱える患者が増えていることを考えれば,この分野の診療は経験年数を問わずすべての医師に必要とされる素養といえるでしょう.

 本セミナーテキストは,前回同様大野博司医師が企画実行しているIDATENセミナーから生まれました.人一倍多忙ななかでセミナーの企画開催を行い,本セミナーテキストの編集でも中心になった彼の働きに,変わらぬ敬意を表します.

 2011年1月10日

 日本感染症教育研究会 前代表世話人
 大曲貴夫

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 序(大曲貴夫)

第1章 病院内/免疫不全関連感染症 総論
 1.内科病棟での発熱へのアプローチ(大曲貴夫)
 2.外科術後の発熱へのアプローチ(大野博司)
 3.ICUでの発熱へのアプローチ(大野博司)
 4.免疫不全状態の発熱へのアプローチ(齋藤昭彦)

第2章 病院内感染症 各論
 5.人工呼吸器管理中の発熱へのアプローチ(大野博司)
 6.尿路カテーテル留置中の発熱へのアプローチ(細川直登)
 7.中心静脈カテーテル留置中の発熱へのアプローチ(岡 秀昭)
 8.病院内での下痢へのアプローチ(中村 造)
 9.術後の発熱(手術部位感染症)へのアプローチ(稲角麻衣・細川直登)
 10.心臓外科術後の発熱へのアプローチ(岩渕千太郎)
 11.ペースメーカ留置後の発熱へのアプローチ(水澤昌子)
 12.脳外科術後の発熱へのアプローチ(矢野晴美)
 13.人工関節置換術後の発熱へのアプローチ(松永直久)

第3章 免疫不全関連感染症 各論
 14.肝硬変患者の発熱へのアプローチ(山本舜悟)
 15.糖尿病患者の発熱へのアプローチ(岩田健太郎・土井朝子)
 16a.腎不全・透析患者の発熱へのアプローチ〈総論〉(大野博司)
 16b.腎不全・透析患者の発熱へのアプローチ〈各論〉(大野博司)
 17.脾臓摘出後の発熱へのアプローチ(岩渕千太郎)
 18.固形腫瘍多発転移の発熱へのアプローチ(岸田直樹)
 19.骨髄移植後1カ月以内の発熱へのアプローチ(冲中敬二)
 20.ステロイド/生物製剤投与中の感染症へのアプローチ(上原由紀)
 21.免疫不全患者の中枢神経感染症へのアプローチ(大場雄一郎)
 22.免疫不全者の皮膚感染症へのアプローチ(本郷偉元)
 23.免疫不全者の肺感染症へのアプローチ(大曲貴夫)

第4章 病院内/免疫不全関連感染症の予防
 24.人工呼吸器関連肺炎の予防(堀 賢)
 25.免疫不全患者での感染症予防(藤田崇宏)

第5章 病院内/免疫不全関連感染症で重要な微生物と治療薬
 26.病院内感染症で重要な耐性菌(忽那賢志・笠原 敬)
 27.耐性グラム陽性菌の治療薬(笠原 敬)
 28.耐性グラム陰性桿菌の治療薬(大路 剛)
 29.その他の治療薬(中村 造)
 30.抗真菌薬(上田晃弘)
 31.抗ウイルス薬(宇野健司・笠原 敬)
 32.腎障害時(血液透析,急性血液浄化療法を含む)/肝障害時の
  抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬の使い方(神谷 亨)

 あとがき(大野博司)
 索引

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治療を理解して,看護を展開するために (雑誌『看護管理』より)
書評者: 島田 恵 (首都大学東京大学院人間健康科学研究科准教授)
◆アセスメントのプロセスから治療を理解する

 感染症治療は医師にとって難しいだけでなく,看護師にとっても時としてわかりにくいものです。しかし,抗菌薬治療の指示を受けて最終的に患者に投与する看護師も,責任の一端を担っているのは明らかであり,根拠を知らないでは済まされません。

 本著は,日本感染症教育研究会(IDATEN)が日本の感染症診療と教育を普及・確立・発展させるために行なってきた活動の柱である「IDATEN感染症セミナー」(年に2回,夏と冬に開催)の内容がまとめられた書籍の第2弾です。病院内の各診療科でよくみられる事例から,感染症治療のエキスパートたちがどのような視点でアセスメントし,治療方針を決定してくかを知ることができます。

 特に,事例ごとにまとめられている「CHARTでみる本ケースにおける考え方と進め方」の,「患者背景を考える」→「感染臓器を考える」→「原因微生物を考える」→「抗菌薬を考える」→「最終的な治療方針」というアセスメントのプロセスは,治療を理解して看護を展開するうえで大いに参考になります。

◆最善の治療を提供するための協働につなげる

 「感染症診療の原則を貫くこと」というコメントからは,「臨床所見から原因微生物を疑い,微生物学的な検査で確定診断をつける」という原則が実践されず,治療に難渋する臨床の現状への憂いが感じられます。協働する看護師は,医師側にこの原則が貫かれにくい現状があることを理解しておくことが必要です。

 現在の治療上,困難な点は何か,そして基本的な治療の方向性は何かを理解していれば,患者さんに最善の治療を提供するために協力できます。例えば,患者さんが治療に関して誤解している点や,現状や今後の見通しに関する不安に対応すること,医師が治療を進めるうえで知りたいデータを把握し,看護師として提供すること,また,医師にはない,看護師ならではの視点からの関連データを提供することもできるでしょう。この協働は,医療安全にもつながる大事なことです。

 ある感染症科医師が「自分が感染症を好きなのは,原因を突き止めることができれば必ず治すことができるからだ」と言っていたことを思い出しました。しかし,その原因を突き止めることは決して容易ではありません。診療経験の蓄積から導き出されたエビデンスから,また患者さんの背景を丁寧に精査して得られる幅広いヒントから,原因を検索するわけですが,診断的治療にならざるを得ない場合もあるわけです。一例一例を丁寧に振り返り,次の症例に活かす取り組みが必要でしょう。

 ちょうどHIV/AIDS看護のエキスパートたちのアセスメントプロセスを提示したいと考えていたので,大変良いモデルとなる書籍にめぐり合うことができました。

(『看護管理』2011年9月号掲載)
日々の診療に必要な知識を築くのに有用な一冊
書評者: 柳 秀高 (東海大講師・総合内科学)
 この本では,病棟やICUで感染症診療を行うとき,また相談を受けたときに必要とされる知識の多くがわかりやすく解説されている。サンフォードマニュアルのような網羅的なマニュアル本ではなく考え方の筋道が書いてある。

 総論では病院内での感染症診療の一般原則や免疫不全総論などがよくまとめられている。感染臓器と患者の免疫状態,基礎疾患などから起因菌を推定し,empiric therapyに用いる抗菌薬を決める。培養が返ってきたら最適な抗菌薬を決めてdefinitive therapyを行う。抗菌薬の投与期間の決定については各論で提示されるケースでは議論されないが,各項目の概説のなかで語られることが多いように感じた。

 人工呼吸器関連肺炎やカテーテル関連血流感染・尿路感染などの項目では,米国感染症学会などのガイドラインを用いてケースのマネジメントを説明している。あるいはケースを使って,ガイドラインを解説している。ケースの説明のみならず,疾患・ガイドラインの概説も行っているので全体像をつかむのによい。いずれのケースも基本的に感染臓器,起因菌の推定からempiric therapyを考え,培養結果などを用いて特異的治療を決定するという実践的な流れからぶれずに議論されており,日々の病棟での感染症診療や感染症コンサルタント業務に必要な知識を築くのに有用であると思われる。

 耐性グラム陰性菌を考慮せざるを得ない,病院内感染症でのempiric therapyの選択において,βラクタムに二番手の薬剤として,アミノグリコシドかフルオロキノロンのいずれかを加えるという考えがある。通常βラクタムの選択においては,施設ごとのローカルファクターが強調されるが,一番手の薬剤が無効な株のなかで二番手のどの薬剤に感受性があるか,という側面からもローカルファクターを知っておくべきである。この点は意外と現場では重要なのでもう少しつっこんだ記載があってもよかったかもしれない。

 免疫不全患者での肺感染症を扱った章で,サイトメガロウイルス肺炎の診断方法について,Shell-Vial法とPCRを併用して診断,マネジメントの根拠とする表がある。自分は今までこれらの検査結果を「総合的に考えて」判断してきたので,参考になった。

 私の恩師の一人であるKevin Highという感染症科医は,感染症のマネジメントがうまくいったとき,“Nothing magical”とよく言っていた。基本通りに一つ一つ手を打てば,よくなるケースはよくなるものだ,というくらいの意味に私は受け取っていた。基本を学ぶためのツールとして,感染症に興味のある若手医師,スタッフ医師にこの本を勧め,自分も再読,吟味したいと思っている。
ポイントを押さえた解説で,臨床感染症を身近にとらえる
書評者: 香坂 俊 (慶大病院・循環器内科)
 ああ,またですか。抗菌薬の選択が議論にもならずスルーされていくのをみて,僕はため息をつきます。しかも,よりによってカテーテルをそのまま残しておいていただいているなんて,培養はどうなっているのでしょうか? もう提出済みですか? しかも,そのサンプルは2セットともカテーテルから取ったから問題ない? いやあ,感激です。これで緑膿菌が出たらコンタミでも何でも治療を開始できますね。え,もうメロペネムが使われている? それはもう神の一手ですね。文字通り言うことは何もありません。

 臨床感染症というのはもっといろんな科の先生が知っていてもいいのではないかと思います。その上で身近な疑問に答えていただけるエキスパートがいてくれるとありがたいのですが,そんなぜいたくは望んではいけませんよね。かといって成書を読んでもきめ細かいところがわかりません。分量も多いし,別にわかっていることを全部書いてくれなくてもいいのですよ。培養の取り方とカテ抜去のタイミング,そこが知りたいのです。

 そんな時にIDATEN講師陣がセミナーを開いてくださいました。いいですね。症例から始まって,ポイントを時系列に沿って順番に丁寧に押さえてくれました。あと,ガイドラインに根ざした方針を示しながら,「ここから先は,エビデンスはないけれども僕らはこうしています」と,しっかり線を引いてくれることがとてもありがたかったです。講義を本にまとめるにあたってはかなり苦労があったと思うのですが,ポイントごとにブロックを作ってくださっていますね。これはCHART式と言うのですか? 僕のようなせっかちな循環器内科医にこのようなフォーマットは大変ありがたいです。

 基本的にこの本は臨床感染症を身近にとらえるというコンセプトを,ふんだんにスペースを使って伝えてくれるぜいたくなテキストなのだと勝手に思っています。いいじゃないですか,別に循環器内科医や外科医が感染症に興味を持っても。心臓や傷口がよくなっても患者さんがよくなってくれなくては困りますからね。
病院内/免疫不全関連感染症の最善の指南書
書評者: 松村 正巳 (金沢大医学教育研究センター リウマチ・膠原病内科)
 IDATEN(Infectious Diseases Association for Teaching and Education in Nippon)こと日本感染症教育研究会から『病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方』が出版された。待ち望まれた内容が記述・編集され,時宜を得た出版である。

 医学の進歩は著しく,この四半世紀を検証しても,特に治療における恩恵には目をみはるものがある。腫瘍性疾患,自己免疫性疾患,移植医療,クリティカルケアにおいて,以前には想像もできなかった病態の改善が得られている。しかし,この恩恵の背後には,時に想定していなかった新たな病態が潜んでいることがある。新薬の副作用,そして感染症,特に病院内/免疫不全関連感染症である。これは医学の進歩に常につきまとう普遍的な現象ともいえよう。

 病院内/免疫不全関連感染症は,経験のある医師にとっても手強い相手である。なぜだろう。病院内感染症は本来起こるべきでない病態であり,時に想定外の事件として突然に訪れる。基本的なアプローチが理解され,実施されないと正しい診断・治療が難しい。免疫不全関連感染症が大きな障壁となり,われわれの前に立ちはだかる理由は,診断が容易でないこと,エンピリックに治療を開始せざるを得ないこと,治療薬の副作用が多く,時に重篤ですらあることによる。確定診断のために気管支鏡などの侵襲的な検査を要することがある。診断に至らないこともまれではなく,薬剤の副作用が発現したときに,それを承知で最善の治療を継続できるかという重い課題を背負う。初学者の目には,道筋が見えない難題として映り,経験を積んだ医師にとってもストレスがかかる。

 本書ではこれらの困難な課題に対し,極めて系統的なアプローチが示される。「内科病棟での発熱へのアプローチ」「肝硬変患者の発熱へのアプローチ」「免疫不全者の肺感染症へのアプローチ」など,われわれが日々遭遇する具体例が呈示され,おのおのへの対応が記述される。そして,読み進むうちに各論の根底を貫く法則に気付く。それは,1患者背景,2感染臓器,3原因微生物,4抗菌薬,5最終的な治療方針という感染症診療の基本原則である。彷徨しているときは,実はこの基本原則に沿っていないことが少なくない。

 病院内/免疫不全関連感染症診療は,もはや三次医療機関に限られたものではない。プライマリケアにおいても経験される。繰り返すが,病院内/免疫不全関連感染症は手強い。時の経過とともに病態の解釈・治療の変遷も観察されてきた。本書が多くの医療者にとって,現時点における最善の指南書となり,病を患う人の守護神になることを願う。

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