レジデントのための血液透析患者マネジメント
血液透析の基本と透析患者のマネジメント方法を、やさしくかつ実践的に解説
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透析患者数は年々増加しており、どの科であっても透析患者を診る機会は多い。本書は、透析を専門としない医師に向け、血液透析の基本的知識と血液透析患者のマネジメント方法をやさしく解説。著者の豊富な経験に基づいた実践的解説にあふれ、通読して理解できる内容となっている。腎臓内科研修中の医師はもちろん、すべてのレジデントにお勧めしたい。また、透析専門医をめざす医師の入門書としても最適。
著 | 門川 俊明 |
---|---|
発行 | 2011年06月判型:A5頁:200 |
ISBN | 978-4-260-01387-1 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
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序文
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まえがき
血液透析というと,専門的なテクニックが必要な,専門家しか手が出せない領域のように考えられている.レジデントが,透析患者を受け持ったとしても,何が何だかわからず,透析センターの先生におまかせになってしまうのではないか.確かに血液透析患者のマネジメントには専門的な知識が必要だが,決して熟練したテクニックが必要なわけではない.
透析患者の数は年々増えていて,自分は透析にはかかわらない分野を専門にしているつもりでも,実際には,透析患者を受け持つことが多い.自分の受け持ち患者の腎機能が急に低下して,血液透析を施行するかどうかの判断を迫られることもあるかもしれない.したがって,レジデントは,自分で血液透析ができなくとも,血液透析患者を診る力,マネジメントする力は必要なのである.たとえば,自分で心臓カテーテル検査ができなくとも,心臓カテーテル検査の結果を評価し,治療方針を立てることは必要である.それと同じことだ.
しかし,血液透析のことを学びたいと思っても,なかなかハードルが高い.学生時代に血液透析のことを学ぶ機会は少なく,教科書には血液透析のことはほとんど書いていない.血液透析患者を受け持って,いざ,書店で血液透析の本を探してみても,どれも専門家による専門家のための書籍ばかりで尻込みしてしまう.これらの本は,自分で血液透析をおこなう人向けの本であるから,あなた方レジデントと視点がずれているのである.
私は,9年ほど前から,当院の腎臓内科をローテートするレジデント向けに,「腎臓内科研修医のための透析マニュアル」という小冊子を作って配ってきた.今回,その小冊子をベースとして,多くの人に読んでいただけるように書籍化したのが本書である.
本書は,自分では血液透析をおこなわないが,血液透析患者をマネジメントする機会のあるレジデントに,基本的な血液透析の知識と血液透析患者を受け持った際のマネジメント方法の知識を与えることを目的としている.腎臓内科を研修するときはもちろん,ほかの科を研修していて透析患者を受け持つ場合にも心強い1冊になるであろう.さらに,これから透析専門医になろうと思う医師にも入門書として適した1冊であると考える.
第1章では,血液透析の考え方を基本から学んでもらうことを目的とした.透析専門医が実際におこなっている血液透析の処方の考え方を理解することを目標としている.第2章では,導入前後の一番難しい時期のマネジメント方法を解説した.第3章では,維持血液透析患者を受け持った際に必要な,合併症の管理や,投薬などについてまとめた.第4章では,急性腎障害にフォーカスをあてた.第5章では,特殊な血液浄化法について述べた.
本書は,この手の本としては珍しい,「通読して理解する」ことに重点を置いた本である.特に,第1章は「透析をしている医師の頭の中を理解する」という意味で,ぜひ通読して欲しい.この1冊で,血液透析に抵抗感がなくなり,より適切な血液透析患者のマネジメントができるようになっていただければ,幸いである.そして,透析専門医の道に進みたいと思う方が出てくれば本望である.
なお,私が,「自家製マニュアル」を書籍化するのに,なかなか気乗りしなかった理由が1つあった.血液透析には,施設,透析医によって,それぞれ流派のようなものがあり,自分のやり方をほかの施設の方に紹介するのに抵抗感があったのだ.私自身,9年間という時間をかけて,本書の内容を熟成させてきたつもりであるが,「自分の施設では,こんなやり方でやっている」「本書に書いてある方法より,よい方法がある」という指摘があれば,ぜひ教えていただければ幸いである.
2011年6月
門川俊明
血液透析というと,専門的なテクニックが必要な,専門家しか手が出せない領域のように考えられている.レジデントが,透析患者を受け持ったとしても,何が何だかわからず,透析センターの先生におまかせになってしまうのではないか.確かに血液透析患者のマネジメントには専門的な知識が必要だが,決して熟練したテクニックが必要なわけではない.
透析患者の数は年々増えていて,自分は透析にはかかわらない分野を専門にしているつもりでも,実際には,透析患者を受け持つことが多い.自分の受け持ち患者の腎機能が急に低下して,血液透析を施行するかどうかの判断を迫られることもあるかもしれない.したがって,レジデントは,自分で血液透析ができなくとも,血液透析患者を診る力,マネジメントする力は必要なのである.たとえば,自分で心臓カテーテル検査ができなくとも,心臓カテーテル検査の結果を評価し,治療方針を立てることは必要である.それと同じことだ.
しかし,血液透析のことを学びたいと思っても,なかなかハードルが高い.学生時代に血液透析のことを学ぶ機会は少なく,教科書には血液透析のことはほとんど書いていない.血液透析患者を受け持って,いざ,書店で血液透析の本を探してみても,どれも専門家による専門家のための書籍ばかりで尻込みしてしまう.これらの本は,自分で血液透析をおこなう人向けの本であるから,あなた方レジデントと視点がずれているのである.
私は,9年ほど前から,当院の腎臓内科をローテートするレジデント向けに,「腎臓内科研修医のための透析マニュアル」という小冊子を作って配ってきた.今回,その小冊子をベースとして,多くの人に読んでいただけるように書籍化したのが本書である.
本書は,自分では血液透析をおこなわないが,血液透析患者をマネジメントする機会のあるレジデントに,基本的な血液透析の知識と血液透析患者を受け持った際のマネジメント方法の知識を与えることを目的としている.腎臓内科を研修するときはもちろん,ほかの科を研修していて透析患者を受け持つ場合にも心強い1冊になるであろう.さらに,これから透析専門医になろうと思う医師にも入門書として適した1冊であると考える.
第1章では,血液透析の考え方を基本から学んでもらうことを目的とした.透析専門医が実際におこなっている血液透析の処方の考え方を理解することを目標としている.第2章では,導入前後の一番難しい時期のマネジメント方法を解説した.第3章では,維持血液透析患者を受け持った際に必要な,合併症の管理や,投薬などについてまとめた.第4章では,急性腎障害にフォーカスをあてた.第5章では,特殊な血液浄化法について述べた.
本書は,この手の本としては珍しい,「通読して理解する」ことに重点を置いた本である.特に,第1章は「透析をしている医師の頭の中を理解する」という意味で,ぜひ通読して欲しい.この1冊で,血液透析に抵抗感がなくなり,より適切な血液透析患者のマネジメントができるようになっていただければ,幸いである.そして,透析専門医の道に進みたいと思う方が出てくれば本望である.
なお,私が,「自家製マニュアル」を書籍化するのに,なかなか気乗りしなかった理由が1つあった.血液透析には,施設,透析医によって,それぞれ流派のようなものがあり,自分のやり方をほかの施設の方に紹介するのに抵抗感があったのだ.私自身,9年間という時間をかけて,本書の内容を熟成させてきたつもりであるが,「自分の施設では,こんなやり方でやっている」「本書に書いてある方法より,よい方法がある」という指摘があれば,ぜひ教えていただければ幸いである.
2011年6月
門川俊明
目次
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本書で用いた略語一覧
第1章 マネジメントに必要な血液透析の基礎知識
1 血液透析処方=透析量と除水量を決める
2 血液透析の原理
3 透析量を決める因子
4 透析量を表す指標:URR,Kt/V
5 至適透析量
6 透析のスケジュール
7 除水量の決め方
8 ダイアライザ選びのポイント
9 特殊な血液浄化モード
10 処方透析(透析液の組成の変更)
11 抗凝固薬
12 バスキュラーアクセス
13 透析中の血圧低下予防
14 血液透析処方の実際
第2章 保存期→透析導入患者のマネジメント
1 保存期のマネジメント
2 3つの腎代替療法
3 透析導入のタイミング
4 透析導入の実際
5 社会的サポート
第3章 維持血液透析患者のマネジメント
1 維持血液透析患者を受け持ったら
2 貧血のマネジメント
3 Ca,P代謝異常のマネジメント
4 高K血症のマネジメント
5 かゆみのマネジメント
6 便秘のマネジメント
7 透析アミロイドーシスのマネジメント
8 維持血液透析患者への薬物投与
9 維持血液透析患者への輸血
10 維持血液透析患者の検査
11 維持血液透析患者の栄養
第4章 急速に腎機能が悪化する患者のマネジメント
1 急性腎障害(AKI)とは
2 AKIへのアプローチ
3 保存的治療
4 血液透析による治療
5 持続的腎代替療法(CRRT)
第5章 アフェレシス
1 総論
2 血漿交換(PE)
3 二重膜濾過法(DFPP)
4 血漿吸着(PA)
5 アフェレシスの使い分け
6 直接血液吸着(DHP)
7 白血球除去療法
8 アフェレシスの適応疾患
付録
索引
第1章 マネジメントに必要な血液透析の基礎知識
1 血液透析処方=透析量と除水量を決める
2 血液透析の原理
3 透析量を決める因子
4 透析量を表す指標:URR,Kt/V
5 至適透析量
6 透析のスケジュール
7 除水量の決め方
8 ダイアライザ選びのポイント
9 特殊な血液浄化モード
10 処方透析(透析液の組成の変更)
11 抗凝固薬
12 バスキュラーアクセス
13 透析中の血圧低下予防
14 血液透析処方の実際
第2章 保存期→透析導入患者のマネジメント
1 保存期のマネジメント
2 3つの腎代替療法
3 透析導入のタイミング
4 透析導入の実際
5 社会的サポート
第3章 維持血液透析患者のマネジメント
1 維持血液透析患者を受け持ったら
2 貧血のマネジメント
3 Ca,P代謝異常のマネジメント
4 高K血症のマネジメント
5 かゆみのマネジメント
6 便秘のマネジメント
7 透析アミロイドーシスのマネジメント
8 維持血液透析患者への薬物投与
9 維持血液透析患者への輸血
10 維持血液透析患者の検査
11 維持血液透析患者の栄養
第4章 急速に腎機能が悪化する患者のマネジメント
1 急性腎障害(AKI)とは
2 AKIへのアプローチ
3 保存的治療
4 血液透析による治療
5 持続的腎代替療法(CRRT)
第5章 アフェレシス
1 総論
2 血漿交換(PE)
3 二重膜濾過法(DFPP)
4 血漿吸着(PA)
5 アフェレシスの使い分け
6 直接血液吸着(DHP)
7 白血球除去療法
8 アフェレシスの適応疾患
付録
索引
書評
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理論と経験に裏打ちされた透析医療を学ぶために最適の入門書
書評者: 深川 雅史 (東海大教授・腎・内分泌代謝内科学)
現在わが国で透析医療を受けている患者は約30万人に達し,新規に導入される患者の高齢化が進んでいる。また,糖尿病を原疾患とする率が高くなってきており,これらのことはほとんどの患者が多臓器の障害を持っていることを意味する。さらに,一昔前には考えられなかったような大手術を透析患者が受ける機会も増えてきており,腎臓内科や透析療法を専門としない医師が主治医になることも多い。彼らは,それぞれの領域の病気の専門家ではあるが,透析をしている患者の特性を理解して,適切に対応しているだろうか? 実際には,透析室に自らおもむいて,透析担当医と相談することも少ないのかもしれない。
一方,透析は技術的な側面が大きい医療であり,その中にはきちんとした理論に基づくものだけでなく,経験に基づくものが混在しており,施設による差も大きいのが現状である。さらに,技術の世界は日進月歩であるため,常に注意していないと,その施設のローカルルールが,最新の医療から著しく遅れていることに気付かない場合もある。それでは,透析を担当する医師が,すべてをきちんと理解して指示を出しているのだろうか? 大学病院のような施設を除いては,通常の指示は臨床工学技士や看護師に任せてしまっていることも多いのではないだろうか。
担当医やスタッフに対して指示を出すにしても,手術直後や患者の状態が変化した際に除水などの透析条件をどう設定するか,抗菌薬などの薬剤の投与量をどう調節するか,合併症に対してどう対処すべきかなど,理論に裏打ちされた経験が必要である。透析医療のマニュアルは既に複数出ているが,その多くはコメディカル向けに書かれている。本書は,医学教育に熱心に取り組んでいる著者によって作成されたレジデント向けの小冊子を基にしており,それを理論的に学ぶためのコンパクトな入門書として,若い医師にとって最適と思われる。
なお,透析療法そのものだけでなく,さまざまな異常を持つ透析患者のマネジメントは,内科医にとって応用問題である。そういう意味で,心血管系を中心とする身体所見の取り方と解釈についてもさらに触れてもらえると,より有用なマニュアルになると期待される。
実践的でわかりやすく読みやすい待望の書
書評者: 藤田 芳郎 (中部ろうさい病院副院長/リウマチ・膠原病科部長)
私事で恐縮だが,私が透析医療にかかわり始めた25年前には慢性血液透析を受けている方は7万人余りであった。しかし,その後うなぎ登りに増加し,現在は30万人近くとなった。慢性血液透析患者さんとかかわっている医療者は,専門非専門にかかわらずますます増加していると考えられる。さらに,血液透析機器は慢性以外にも用いられ,今日も全国のICUで使用されているであろう。
もしあなたが,初めて透析室の当番医を頼まれたとしたらどうしたらよいだろうか? 本書を前もって読むことをぜひお勧めしたい。実践的でわかりやすく読みやすい待望の書である。
除水量と透析量の考え方(p.1~20),抗凝固薬の使い方(p.36~41),へパリン起因性血小板減少症(HIT)患者での透析時のアルガトロバンの使い方(p.40),維持透析の管理の仕方(第3章),HF(血液濾過)やHDF(血液濾過透析)やCHDF(持続的血液濾過透析)とは何か(p.30~32,p.144~150),そして血漿交換(第5章)まで,幅広く決して詳しすぎず,困ったときにすぐに実践にうつせるように過不足なく記述されている。「Kt/V」などと技師に言われてさっぱりわからないというとき,「安定した維持透析患者の至適透析量はKt/V 1.2(URR 65%)」などという略語やポイントの意味がわからないとき,本書をひも解けば1時間もしないうちにわかるようになっている。いや,わかるのみではなく,至適透析量を達成するにはどうしたらよいか実践できるように具体的に指南されている。
本書には「わかりやすい」ということと同時に「きめ細かさ」も同居している。血液透析中のアナフィラキシー様ショックは,透析膜でも(p.26),抗凝固薬でも(p.38)起こり得る。透析患者の薬剤の投与の仕方について,ジギタリス(p.113)の処方の工夫,特に注意すべき薬(p.114),長期にだらだらと処方されかねないH2ブロッカーの副作用(p.114~115),またAST,ALT(p.121),β-D-グルカン(p.123)などの透析患者における検査値の見方など,わかりやすく記載されている。
「レジデントのための」と銘打ってあるが,透析医療に携わって25年にもなる私にとっても日常診療の見直しを本書によって促された。恥ずかしながらかなり技師さん看護師さんまかせにしながらあっという間に25年たってしまった現在,薬剤だけに限ったとしても,ビタミンD,エリスロポエチン,リン吸着製剤,シナカルセト,ナルフラフィン(レミッチ®)などの薬があれよあれよと発売されて置いてきぼりになりそうな自分がある。また,一口に血液透析といっても地域によって個々の透析室によってかなりそのやり方が違う。本書では,現時点での血液透析に関する標準的考え方がすっきりと書かれている。自分たちの「独自」かもしれないやり方を本書によって改めて見直す良いきっかけにもなる。慢性維持血液透析患者のHgbの至適目標はいくつか,糖尿病患者と非糖尿病者,若年者と高齢者でその目標は同じでよいのか,心房細動におけるワルファリンの使い方はどうか,Ca,Pの目標設定はそれぞれの絶対値を重視すべきかそれともCa×P積なのかはたまたintact PTHを重視すべきか,など,まだまだ明確になっていないことが多すぎるが,本書によって問題点を改めて整理するきっかけにもなる。血液透析に携わるすべての医療者,研修医の皆さん(研修医は必ずICUに勤務すると思われる)に本書をお薦めする。
レジデントの立場に立って書かれた心優しい必読の入門書
書評者: 柏原 直樹 (川崎医大主任教授・腎臓・高血圧内科学/川崎医大レジデント教育委員会 委員長)
いまや血液透析療法は専門医の手に委ねるべき特殊なものではない。透析患者の数は増加の一途をたどっており,専門性のいかんにかかわらず,レジデントはさまざまな診療現場で血液透析患者の診療に携わることを避けては通れない。主病が別であっても受け持った患者が透析中であったり,重症化した際に血液浄化療法を余儀なくされることもしばしばである。
透析患者を受け持った途端に,具体的な透析スケジュール,食事内容,合併する貧血の管理などに直面することになる。不幸にして透析療法の実際は,学生時代にはほとんど教えられていない。さあ,どうするか。取るべき方法は,(1)専門医・指導医の指導を仰ぐ,(2)書物を読む,のいずれかである。しかし,身近に専門医を見つけることができないことも多く,また自ら基本がわかっていないと,適切な指導を受けることすらままならない。書店に並ぶ血液透析の本は専門医を対象に書かれたものが大半であり大部に過ぎる。間に合わない。
このように,血液透析療法が普遍的な治療手段であるにもかかわらず,適切なテキストがないため,レジデントは困惑を余儀なくされていたのである。血液透析患者のマネジメント力を身につけることは,たとえば「抗生薬の使用法」,「胸部X線写真の読影法」を修得するのと同様に必須である。一方であまりに細部,専門的な知識や技能の修得は不要である。
本書はレジデントの目線に立って書かれた待望の書である。著者は腎臓内科をローテイトしてくる新人レジデントを相手にして,この領域の指導を10年近く行っており,そのエッセンスが凝縮されている。この領域の知識を全く持っていないレジデントを想定して,「血液透析の原理」から説き起こし,マネジメントにおいて必要な具体的事項に至るまで,必要な知識が過不足なく簡潔にまとめられている。
記述は極めて平易であり,無駄がない。予備知識を持たない初心者レジデントを相手にして,理解度を確かめながら,理路整然と解説をする著者の姿が思い浮かぶ。読者を置きざりにすることがない。平易であると同時に,本書は心優しいテキストである。
血液透析に関して,全く何も知らなくても,本書を通読することで,レジデントに必要なこの領域のほぼすべてを理解することができる。忙しいレジデントも余暇を使って3~4時間もあれば十分に通読可能である。
著者は先端的な研究業績を有する優れたscientistでもある。またインターネットを介した医療情報の利用法にも精通している。本書が経験則に偏せず,最新の臨床研究,正確な理論に基づいているのは,physician scientistとしての著者の面目躍如たるところである。本書は極めて「わかりやすく」書かれているが,これは卓越した知的能力の発露なのである。
このような指導医を身近に持てるレジデントは幸福である。指導する立場の医師であってもレジデントをいかに指導するかを学ぶことができよう。本書をレジデント,研修医のみならず,血液透析療法を指導する立場の医師,コメディカルスタッフなど,およそ血液透析にかかわる医療者すべてに,必読の入門書として強く推薦したい。快著であり,名著である。
書評者: 深川 雅史 (東海大教授・腎・内分泌代謝内科学)
現在わが国で透析医療を受けている患者は約30万人に達し,新規に導入される患者の高齢化が進んでいる。また,糖尿病を原疾患とする率が高くなってきており,これらのことはほとんどの患者が多臓器の障害を持っていることを意味する。さらに,一昔前には考えられなかったような大手術を透析患者が受ける機会も増えてきており,腎臓内科や透析療法を専門としない医師が主治医になることも多い。彼らは,それぞれの領域の病気の専門家ではあるが,透析をしている患者の特性を理解して,適切に対応しているだろうか? 実際には,透析室に自らおもむいて,透析担当医と相談することも少ないのかもしれない。
一方,透析は技術的な側面が大きい医療であり,その中にはきちんとした理論に基づくものだけでなく,経験に基づくものが混在しており,施設による差も大きいのが現状である。さらに,技術の世界は日進月歩であるため,常に注意していないと,その施設のローカルルールが,最新の医療から著しく遅れていることに気付かない場合もある。それでは,透析を担当する医師が,すべてをきちんと理解して指示を出しているのだろうか? 大学病院のような施設を除いては,通常の指示は臨床工学技士や看護師に任せてしまっていることも多いのではないだろうか。
担当医やスタッフに対して指示を出すにしても,手術直後や患者の状態が変化した際に除水などの透析条件をどう設定するか,抗菌薬などの薬剤の投与量をどう調節するか,合併症に対してどう対処すべきかなど,理論に裏打ちされた経験が必要である。透析医療のマニュアルは既に複数出ているが,その多くはコメディカル向けに書かれている。本書は,医学教育に熱心に取り組んでいる著者によって作成されたレジデント向けの小冊子を基にしており,それを理論的に学ぶためのコンパクトな入門書として,若い医師にとって最適と思われる。
なお,透析療法そのものだけでなく,さまざまな異常を持つ透析患者のマネジメントは,内科医にとって応用問題である。そういう意味で,心血管系を中心とする身体所見の取り方と解釈についてもさらに触れてもらえると,より有用なマニュアルになると期待される。
実践的でわかりやすく読みやすい待望の書
書評者: 藤田 芳郎 (中部ろうさい病院副院長/リウマチ・膠原病科部長)
私事で恐縮だが,私が透析医療にかかわり始めた25年前には慢性血液透析を受けている方は7万人余りであった。しかし,その後うなぎ登りに増加し,現在は30万人近くとなった。慢性血液透析患者さんとかかわっている医療者は,専門非専門にかかわらずますます増加していると考えられる。さらに,血液透析機器は慢性以外にも用いられ,今日も全国のICUで使用されているであろう。
もしあなたが,初めて透析室の当番医を頼まれたとしたらどうしたらよいだろうか? 本書を前もって読むことをぜひお勧めしたい。実践的でわかりやすく読みやすい待望の書である。
除水量と透析量の考え方(p.1~20),抗凝固薬の使い方(p.36~41),へパリン起因性血小板減少症(HIT)患者での透析時のアルガトロバンの使い方(p.40),維持透析の管理の仕方(第3章),HF(血液濾過)やHDF(血液濾過透析)やCHDF(持続的血液濾過透析)とは何か(p.30~32,p.144~150),そして血漿交換(第5章)まで,幅広く決して詳しすぎず,困ったときにすぐに実践にうつせるように過不足なく記述されている。「Kt/V」などと技師に言われてさっぱりわからないというとき,「安定した維持透析患者の至適透析量はKt/V 1.2(URR 65%)」などという略語やポイントの意味がわからないとき,本書をひも解けば1時間もしないうちにわかるようになっている。いや,わかるのみではなく,至適透析量を達成するにはどうしたらよいか実践できるように具体的に指南されている。
本書には「わかりやすい」ということと同時に「きめ細かさ」も同居している。血液透析中のアナフィラキシー様ショックは,透析膜でも(p.26),抗凝固薬でも(p.38)起こり得る。透析患者の薬剤の投与の仕方について,ジギタリス(p.113)の処方の工夫,特に注意すべき薬(p.114),長期にだらだらと処方されかねないH2ブロッカーの副作用(p.114~115),またAST,ALT(p.121),β-D-グルカン(p.123)などの透析患者における検査値の見方など,わかりやすく記載されている。
「レジデントのための」と銘打ってあるが,透析医療に携わって25年にもなる私にとっても日常診療の見直しを本書によって促された。恥ずかしながらかなり技師さん看護師さんまかせにしながらあっという間に25年たってしまった現在,薬剤だけに限ったとしても,ビタミンD,エリスロポエチン,リン吸着製剤,シナカルセト,ナルフラフィン(レミッチ®)などの薬があれよあれよと発売されて置いてきぼりになりそうな自分がある。また,一口に血液透析といっても地域によって個々の透析室によってかなりそのやり方が違う。本書では,現時点での血液透析に関する標準的考え方がすっきりと書かれている。自分たちの「独自」かもしれないやり方を本書によって改めて見直す良いきっかけにもなる。慢性維持血液透析患者のHgbの至適目標はいくつか,糖尿病患者と非糖尿病者,若年者と高齢者でその目標は同じでよいのか,心房細動におけるワルファリンの使い方はどうか,Ca,Pの目標設定はそれぞれの絶対値を重視すべきかそれともCa×P積なのかはたまたintact PTHを重視すべきか,など,まだまだ明確になっていないことが多すぎるが,本書によって問題点を改めて整理するきっかけにもなる。血液透析に携わるすべての医療者,研修医の皆さん(研修医は必ずICUに勤務すると思われる)に本書をお薦めする。
レジデントの立場に立って書かれた心優しい必読の入門書
書評者: 柏原 直樹 (川崎医大主任教授・腎臓・高血圧内科学/川崎医大レジデント教育委員会 委員長)
いまや血液透析療法は専門医の手に委ねるべき特殊なものではない。透析患者の数は増加の一途をたどっており,専門性のいかんにかかわらず,レジデントはさまざまな診療現場で血液透析患者の診療に携わることを避けては通れない。主病が別であっても受け持った患者が透析中であったり,重症化した際に血液浄化療法を余儀なくされることもしばしばである。
透析患者を受け持った途端に,具体的な透析スケジュール,食事内容,合併する貧血の管理などに直面することになる。不幸にして透析療法の実際は,学生時代にはほとんど教えられていない。さあ,どうするか。取るべき方法は,(1)専門医・指導医の指導を仰ぐ,(2)書物を読む,のいずれかである。しかし,身近に専門医を見つけることができないことも多く,また自ら基本がわかっていないと,適切な指導を受けることすらままならない。書店に並ぶ血液透析の本は専門医を対象に書かれたものが大半であり大部に過ぎる。間に合わない。
このように,血液透析療法が普遍的な治療手段であるにもかかわらず,適切なテキストがないため,レジデントは困惑を余儀なくされていたのである。血液透析患者のマネジメント力を身につけることは,たとえば「抗生薬の使用法」,「胸部X線写真の読影法」を修得するのと同様に必須である。一方であまりに細部,専門的な知識や技能の修得は不要である。
本書はレジデントの目線に立って書かれた待望の書である。著者は腎臓内科をローテイトしてくる新人レジデントを相手にして,この領域の指導を10年近く行っており,そのエッセンスが凝縮されている。この領域の知識を全く持っていないレジデントを想定して,「血液透析の原理」から説き起こし,マネジメントにおいて必要な具体的事項に至るまで,必要な知識が過不足なく簡潔にまとめられている。
記述は極めて平易であり,無駄がない。予備知識を持たない初心者レジデントを相手にして,理解度を確かめながら,理路整然と解説をする著者の姿が思い浮かぶ。読者を置きざりにすることがない。平易であると同時に,本書は心優しいテキストである。
血液透析に関して,全く何も知らなくても,本書を通読することで,レジデントに必要なこの領域のほぼすべてを理解することができる。忙しいレジデントも余暇を使って3~4時間もあれば十分に通読可能である。
著者は先端的な研究業績を有する優れたscientistでもある。またインターネットを介した医療情報の利用法にも精通している。本書が経験則に偏せず,最新の臨床研究,正確な理論に基づいているのは,physician scientistとしての著者の面目躍如たるところである。本書は極めて「わかりやすく」書かれているが,これは卓越した知的能力の発露なのである。
このような指導医を身近に持てるレジデントは幸福である。指導する立場の医師であってもレジデントをいかに指導するかを学ぶことができよう。本書をレジデント,研修医のみならず,血液透析療法を指導する立場の医師,コメディカルスタッフなど,およそ血液透析にかかわる医療者すべてに,必読の入門書として強く推薦したい。快著であり,名著である。
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