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UNICEF/WHO 赤ちゃんとお母さんにやさしい
母乳育児支援ガイド アドバンス・コース
「母乳育児成功のための10ヵ条」の推進

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UNICEF/WHOが2009年に改訂した「赤ちゃんにやさしい病院運動」の教材セットは、既刊「ベーシック・コース」で一部が発表されているが、待望の続編である「アドバンス・コース」が翻訳された。本書は主に病院長や管理職向けにまとめられたものであるが、母乳育児支援を推進し、維持するためのスタッフ教育にも役立つ。母乳育児に関する世界の広範囲で行われた調査と、根拠となる文献が示され、母乳育児支援の心強い味方だ。
BFHI 2009 翻訳編集委員会
発行 2011年08月判型:B5頁:456
ISBN 978-4-260-01212-6
定価 8,360円 (本体7,600円+税)

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発刊に寄せて(平林国彦)/日本語版 序(ランダ J. サーデー)/まえがき(堀内 勁)

発刊に寄せて
 子どもたちの死亡数を削減させることについては,この15年間で大きな前進があった.例えば,1990年には年間1,240万人亡くなっていた5歳未満の子どもたちの数を,2009年には810万人までに減少させることができるようになった*1.しかし,世界を平均してみても,最も貧しい20%の世帯の5歳未満児死亡率は,最も豊かな20%の世帯の2倍以上であることが,UNICEFの最近の分析により明らかになってきた*2.さらに,子どもたちの最良の発達と生存のために不可欠な母乳育児の開始・継続においても,大きな格差が存在する.例えば,授乳の早期開始は,新生児の死亡率を約22%低下させる効果があるが*3,開発途上国で生まれる新生児,およそ1億2千万人のうち,誕生後1時間以内に母乳を与えられる子どもは,いまだ44%でしかない*4
 われわれUNICEFとWHOが,「赤ちゃんにやさしい病院運動」も含む,最適な母乳育児の重要性を,なぜ長い間訴え続けてきているのか.2008年のLancetの報告によれば,最適な母乳育児を推進することで,開発途上国の140万人もの子どもたちの命を救える可能性がある*5.いや,それだけではない.近年の優れた,かつ大規模な疫学的研究においても,最適な母乳育児を行うことによって,先進国においても乳幼児ばかりでなく,母親,そして家族に対して,免疫学的,栄養学的,発達心理学的,社会的,経済学的,環境学的な利点があることが証明されている*6
 本書『母乳育児支援ガイド アドバンス・コース』は,すべての子どもたちの命を大切に思う人,そして日本ばかりでなく,世界中のすべての子どもたちが,その誕生の瞬間から,最も安全で安心できる環境で育って欲しい,と強く願う人たちの努力によって発刊された.本書を手に取ったみなさん.どうか,そのような人たちの思いを受け止めながら,読み込み,そして実践してもらいたい.みなさんの,情熱と信念をもった行動こそが,世界の中でも,日本の中でも,「取り残された」「差別された」「貧困の中で生きる」,そのような家庭から生まれてくる子どもたちにも,大きな希望と可能性を与えてくれることを,ぜひ忘れないでいただきたい.

 2011年6月
 平林国彦 Kunihiko Chris Hirabayashi
 国連児童基金(UNICEF)東京事務所代表
 Director, UNICEF Tokyo Office


*1 Levels & Trends in Child Mortality, Report 2010: Estimates Developed by the UN Inter-agency Group for Child Mortality Estimation
*2 子どもたちのための前進,公平性のあるミレニアム開発目標の達成をめざして:UNICEF,2010
*3 Edmond K, et al. Delayed Breastfeeding Initiation Increases Risk of Neonatal Mortality. Pediatrics, 2006, 117: 380-386.
*4 The State of the World's Children 2011, UNICEF
*5 Robert E Black, et al. Maternal and child undernutrition: global and regional exposures and health consequence. Lancet, 2008 371(9608): 243-260.
*6 AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS POLICY STATEMENT: Organizational Principles to Guide and Define the Child Health Care System and/or Improve the Health of All Children. Pediatrics, 2005, 115(2): 496-506 (doi:10.1542/peds.2004-2491)



日本語版 序
 母乳で育てること,とりわけ母乳だけで育てることは,ミレニアム開発目標のうちで,子どもの生存に関する項目を達成するために中心的な役割を担っています.赤ちゃんにやさしい病院運動(Baby-Friendly Hospital Initiative:BFHI)は,病院,保健サービス,そして親が協力して,赤ちゃんが人生の最良のスタートを切れるように保証するための世界規模の運動です.そして,BFHIは,母乳育児を保護,推進,支援するような実践が行われることを目指しています.
 イノチェンティ宣言の呼びかけに応えてBFHIが始動した1990年代のはじめには,国家レベルで母乳育児支援活動に本気で取り組む国はほんの少ししかありませんでした.しかし,19年近くもWHOが支持し,UNICEFが国レベルでの実施を支援してきた結果,今日では,ほとんどの国で母乳育児や乳幼児栄養に関する専門機関やBFHI調整団体ができ,病院のアセスメントを行って,国内で少なくとも1つの「赤ちゃんにやさしい」施設を認定しています.
 2002年にWHO/UNICEFが出した「乳幼児の栄養に関する世界的な運動戦略」は,更新された支援内容を緊急に呼びかけていますが,その中には,生後6か月間は母乳だけで育てること,月齢に合わせて適切な内容の補完食を与えながら母乳育児を2年かそれ以上続けることが含まれています.「世界的な運動戦略」の9つの実行目標のうち少なくとも6つは,直接にBFHIと結びついているのです.
 BFHIによって母乳だけで育てる割合が増え,それが健康状態と生存率の改善に反映されてきました.この進歩をもとにしつつ,各国の経験によってBFHIが整理され,教材も改訂されました.新しい教材セットは,WHOとUNICEFのすべての教材を1つにまとめたもので,新しい研究や経験を反映し,BFHIの「評価基準」をHIV/AIDSに配慮して再考し,「母乳代用品の使用が許容される医学的理由」を改訂し,「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」を強化し,「お母さんにやさしいケア」のための項目を追加し,そして,モニタリングとアセスメントの詳しい手引きを載せています.

改訂版のBFHI教材セットは,5つのセクションから成っています.

セクション1 背景と実施
 セクション1は,改訂されたプロセスと,持続性,統合性についての手引きです.また,BFHIが広がりを見せ,ある程度の持続性をもって社会に受け入れられなければならないことを認識した上で,国や保健医療施設や地域の状況に応じてさらに加えることのできる複数のオプションについての手引きを提供しています.セクション1は,以下のサブセクションに分かれています.(1)国レベルでの実施;(2)病院レベルでの実施;(3)「赤ちゃんにやさしい病院運動」(BFHI)のための「世界共通評価基準」;(4)「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」のコンプライアンス(遵守);(5)「赤ちゃんにやさしい」拡大と統合,情報源,参考文献,ウェブサイト,です.

セクション2 BFHIの強化と維持:方針決定者のためのコース
 セクション2は,WHOの“Protecting breastfeeding in health facilities: a short course for administrators and policy-makers”コースを改編したものです.セクション2は,病院の意思決定者(院長,経営者,部門の責任者など)や政策決定者に,BFHIとそのよい影響に注目してもらうために用いることもできますし,「10ヵ条」を推進し維持することへの公的な支持を得るために使うこともできます.配付資料とPowerPointのスライドがついた8つのセッションとコースガイドから成りますが,HIV感染率の高い地域で用いるための2つのセッションと教材も含まれています.

セクション3 「赤ちゃんにやさしい病院」における母乳育児の推進と支援
  産科スタッフのための20時間コース
 この「20時間コース」は,施設がそのスタッフの知識とスキルを向上させて,「10ヵ条」と「国際規準」を充分に実行できるようにするための教程です.この「20時間コース」は「18時間コース」に代わるものです.ファシリテーターのためのガイドライン,各セッションのアウトライン,そしてPowerPointのスライドから成っていますが,臨床スタッフ以外の職員と話し合うための項目や内容も提案されています.


セクション4 病院の自己査定とモニタリング
 セクション4は,病院管理者とスタッフが,はじめは自分たちの施設が外部アセスメントを受ける準備ができているかどうかを決めるのに使うことができます.いったん「赤ちゃんにやさしい」と認定されたら「10ヵ条」を引き続き守っているかどうかをモニタリングするために使います.このセクションには,自己査定ツールとガイドライン,およびモニタリングのためのツールが含まれています.

セクション5 外部アセスメントと再アセスメント
 セクション5は,病院が「世界共通評価基準」を満たし,「10ヵ条」をすべて実行しているかどうかを,外部アセスメント委員がはじめにアセスメントするためのガイドラインとツールです.その後,定期的に必要な水準を維持しているかどうかを再アセスメントするためにも使われます.このセクションには,アセスメント委員のための手引き,その委員が病院を外部アセスメントするためのツール,アセスメント委員をトレーニングするためのPowerPoint,外部からの再アセスメントをするためのガイドラインとツール,および結果を分析するためのコンピュータ・アプリケーションが含まれています.このセクションは一般に配布するためのものではなく,BFHIのアセスメントと再アセスメントを執行するアセスメント委員が入手できるようになっています.

 BFHIは母乳育児の実践に極めて大きな影響をもたらしてきました.今までのBFHIの実施を通して各国が得た経験を生かし,乳児栄養法に関する新しい研究結果と勧告を反映させたツールとコース,つまり,「赤ちゃんにやさしい」と評価される評価基準に沿って病院の実践を変えるためのツールとコースが,ここにできあがったのです.
 各国政府は,保健・栄養・子どもの生存・母親の健康にかかわる全職員が,充分な情報を得て,BFHIの再活性化の助けになるような環境を積極的に活用できるように保証すべきでしょう.また,BFHIを含めた最適な乳幼児の栄養法を保護・推進・支援するための基本的な内容を,施設で働くか地域で働くかの区別なくすべての保健医療従事者のカリキュラムに組み入れるべきです.さらに,BFHIは子どもの生存に主要な役割を演じていること,そして,HIV/AIDSに関してはいっそうその役割が重要であることを認識するべきです.

 WHOとUNICEFは,BFHIの「世界共通評価基準」が確実に,充分に実施されるようになるために,そしてすでに始まっている進歩を続けるために,この新しい教材セットを使っていただくことを強く推奨しています.
 「乳幼児の栄養に関する世界的な運動戦略」を実行することは乳幼児の健康状態と生存率を改善し,さらに前進するための1つの方法です.ひいてはそれがミレニアム開発目標を達成するための着実な一歩となるのです.

 2009年6月
 ランダ J.サーデー Randa Jarudi Saadeh
 世界保健機関
 World Health Organization
 サイエンティスト,栄養健康開発部門
 Scientist, Nutrition for Health and Development


まえがき
 2011年3月11日14時46分,未曾有の大地震が東日本を襲った.地震に続く津波によっても,多くの人命が失われ,家を破壊され,職を失った.それにより,原子力発電所が大きな損傷を受け,炉心融解を引き起こし,水素爆発が起き,放射性物質が飛散した.
 こうした事態の中で,母乳分泌が低下した母親の子の栄養をいかに維持するかが課題になった.災害時こそ母乳育児をというメッセージは世界的なスタンダードとしてしきりに伝えられた.しかし,わが国の現状では生後1か月の時点で母乳だけで育っている乳児は43%しか存在しない.したがって,いくら災害時こそ母乳育児をと叫んでみても,災害地の母子を母乳育児に導くことは極めて困難であった.
 私たち,母子保健にかかわるものの責務は,分娩施設,地域,国がどんな時であっても,母乳育児を行えるようにする基盤を整備することであった.そうした土壌が育っていれば,今回の震災時にも大慌てせず,乳児の健康を守るためのターゲット策定も母乳育児の継続に集中できたと思われる.
 本書『UNICEF/WHO 赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド アドバンス・コース』は施設・地域・政府レベルでの意思決定の仕組みを作り,それを維持する方法を示すことに主眼が置かれている.わが国の母乳育児は実際に育児をする母親,それを支援する助産師,保健師,栄養士,産科医師,小児科医師などの努力で維持されてきた.育児行動に込められた親のきめ細やかな思いに子は自分自身を映し出し,その思いを取り入れていく.また,親は育児行動に対する子の微細な反応に自分自身を映し出し,親としての自己を確立していく.こうしたミクロの繊細ないとなみは親子に直接かかわる家族,母子保健従事者,保育士などのミニレベルの人々の支援のもとに安心して行われることで,豊かな世界が紡ぎ出される.
 さらに,ミニレベルでの母子の健康を守り,発達を促進し,人間味のある情緒的交流を社会に維持するためには病院レベル,地域レベル,国レベルでの社会,政治,経済,教育などのマクロレベルの支援があってこそ,安心して,豊かなサービスが提供できるようになる.
 こうしたマクロレベルでの支援は,母子の健康を促進,もしくは阻害する要因を調査,抽出して,それをもとに政策を立案する.ついで立案された政策を実行する戦略と運用システムを開発・策定する.そのシステムを実際に運用して,その結果をデータとして集積し,分析する.その分析により戦略,運用システムがターゲットに有用な効果を与えることができたかを評価する.その評価に基づき,マクロレベル,ミニレベルでの改善点を見いだし,戦略・システムを構築していくことを繰り返す.そのためにはそのシステムが維持されているかどうかをモニターし続け,永続させることも重要である.実際にBFHに認定された施設が何年か過ぎると,認定時の評価水準よりも低下していて,すでに「赤ちゃんにやさしい」とはいえない状況に後退していることもまれでなく体験される.本書ではそうした体系の構築,維持,向上についていかに取り組めばよいかを示している.
 このガイドラインでは赤ちゃんにやさしい地域という概念も盛り込まれている.それは母乳育児を2歳以上まで継続するには地域ぐるみの支援も重要となるからである.わが国でも,山口県光市や富山県のように,市ぐるみ,県全体で母乳育児を支援している行政がある.こうしたマクロレベルでの母乳育児支援のひろがりが,わが国の母子保健のさらなる向上に寄与することになる.
 私たちはベーシック・コースをすでにお読みになった方はもとより,病院,地域,国レベルで母子保健あるいは保健分野全般にかかわっている方々に,本書を是非一読していただきたいと願っている.また,母子保健はその国の文化の上に成り立つものでもあるから,本書を熟読された方が,日本という育児文化をもった国での赤ちゃんにやさしい,お母さんにやさしいという意味をつきつめて,母乳育児推進に取り組んでいただきたいと念じている.

 2011年5月
 堀内 勁
 BFHI 2009 翻訳編集委員会委員長
 聖マリアンナ医科大学名誉教授・小児科学教室

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 発刊に寄せて
 日本語版序
 まえがき
 巻頭カラーグラフ

 改訂版BFHI教材セット(2009年版)

 Revised,Updated and Expanded for Integrated Care
  (統合されたケアのための改訂・最新・拡大版)によせる前書き

SECTION 1 背景と実施
 SECTION 1.1 国レベルでの実施
 SECTION 1.2 病院レベルでの実施
 SECTION 1.3 「赤ちゃんにやさしい病院運動」(BFHI)のための世界共通評価基準
 SECTION 1.4 「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」の
        コンプライアンス(遵守)
 SECTION 1.5 「赤ちゃんにやさしい」拡大と統合

SECTION 2 「赤ちゃんにやさしい病院運動」を強化し維持するために:
       意思決定者のためのコース

 COURSE GUIDE コース実施のためのガイド
 SESSION 1 国の乳児栄養法の状況
 SESSION 2 母乳育児の利点
 SESSION 3 赤ちゃんにやさしい病院運動
 SESSION 4 「母乳育児成功のための10ヵ条」の科学的根拠
 SESSION 5 「赤ちゃんにやさしく」なるには
 SESSION 6 コストと節減
 SESSION 7 方針と実践の査定
 SESSION 8 行動計画作成

SECTION 4 病院の自己査定とモニタリング
 SECTION 4.1 病院の自己査定のためのツール
 SECTION 4.2 「赤ちゃんにやさしい病院」のモニタリングのためのガイドラインとツール

 索引



●本書の構成
■本書の原典である“UNICEF/WHO: BABY-FRIENDLY HOSPITAL INITIATIVE (BFHI): Revised, Updated and Expanded for Integrated Care”は次のように構成されている.
 セクション1:背景と実施
 セクション2::「赤ちゃんにやさしい病院運動」を強化し維持するために:
         意思決定者のためのコース
 セクション3:「赤ちゃんにやさしい病院」における母乳育児の推進と支援
         -産科スタッフのための20時間コース
 セクション4:病院の自己査定とモニタリング
 セクション5:外部アセスメントと再アセスメント(非公開)
■日本語版である「ベーシック・コース」(既刊)と「アドバンス・コース」(本書)の目次構成は次のようになる(掲載順序も下記の通り).
【ベーシック・コース】
 ・セクション3(3.1-3.3を全文掲載)
 ・セクション1.3(「セクション1」は5章で構成されている.そのうち[1.3:「赤ちゃんにやさしい病院運動」(BFHI)のための世界共通評価基準」のみを「ベーシック」コースに掲載したため重複掲載)
 ・セクション4(4.1・4.2の2章からなるが,いずれも「ベーシック」と「アドバンス」の両コースに関連しているため全文重複掲載)
【アドバンス・コース】
 ・セクション1(1.1-1.5を全文掲載.1.3は「ベーシック」にも掲載)
 ・セクション2(全文掲載)
 ・セクション4(全文重複掲載)

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母乳育児がもたらす絆が世界の母子へ届きますように
書評者: 中村 安秀 (阪大大学院教授・国際保健学)
 ユニセフとWHO(世界保健機関)は,「母乳育児成功のための10ヵ条」を守り母乳育児の推進に貢献している病院を,「赤ちゃんにやさしい病院(Baby-Friendly Hospital : BFH)」と認定しています。今,全世界の130か国以上で,15,000以上の病院が認定を受けています。『赤ちゃんとお母さんにやさしい 母乳育児支援ガイド アドバンス・コース』の原典は,ユニセフとWHOのすべての教材を一つにまとめた「赤ちゃんにやさしい病院」イニシアティブ。堀内勁名誉教授(聖マリアンナ医科大学)をはじめ,母乳育児に積極的に取り組んできた日本を代表する小児科医師の方々が中心になり,力のこもった翻訳となっています。

 病院の責任者やスタッフのためのガイドラインや研修のためのパワーポイント・スライドまで周到に準備されています。また,「赤ちゃんにやさしい病院」の科学的根拠や行動計画作成の手引きだけでなく,母乳育児を推進することでコストが削減されることも指摘されています。

 ドイツでは,母乳育児が小児肥満の有病率を減らしました。ラテンアメリカでは,母乳育児により下痢症や急性呼吸器感染症による乳児死亡が減少しました。西アフリカのガンビアでは,「赤ちゃんにやさしい地域社会運動」にまで広がっているそうです。

 うれしいことに,日本語版には,英語版にはない「乳飲み児を抱く埴輪」や授乳している日本人の母親の写真もあります。

 国や地域が違っても,母乳育児の大切さは世界共通です。途上国の病院で出会った多くの助産師や医師は,自分たちの病院が「赤ちゃんにやさしい病院」であることを誇らしげに語ってくれました。お母さん方と一緒に母乳育児を推進していくのだという途上国の病院スタッフの心意気を,私たち日本の保健医療関係者こそ見習いたいものです。

 私が代表理事を務める特定非営利活動法人HANDSでは,ケニア西部のケリチョー県で生後6か月間の完全母乳育児を推進してきました。地域の母乳育児推進サポートメンバーが中心になった啓発活動を行い,2009年にわずか5%だった完全母乳育児率が改善されつつあります。世界母乳育児週間に合わせたイベントには,延べ900人以上の村の老若男女が参加して,いろいろなグループが劇や歌を使って母乳の大切さを訴えかけました。

 この『母乳育児支援ガイド』が,日本の病院関係者はもとより,赤ちゃんとお母さんに関心を持つ多くの人々の手元に届けられることを願っています。母子保健医療だけでなく,地域保健,国際保健,災害保健医療に関心を持つ方々にとっても,有用な情報がちりばめられています。母乳育児がもたらす絆が,母と子を結びつけ,東日本大震災の被災地のお母さんや子どもたちにつながり,そして途上国を含めたグローバル世界の女性や子どもたちのいる家庭や社会に届きますように……。
母乳育児を成功に導くガイダンス (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 粟野 雅代 (あわの産婦人科医院)
 母乳育児の科学的証明によって,乳幼児のみならず母親と家族,社会にとっての母乳育児の利点とその意義が明らかとなっている。最近では関連書籍も多く発行され,種々の研修開催によって支援者の知識も向上した。その一方で,現場の医療者からは,さまざまな疑問やジレンマに困惑するといった声も多く聞かれる。

 本書は,UNICEF/WHOが母乳育児の促進を目的とし,指導的立場にある病院長,管理者向けに,系統的,多面的にまとめたものである。また,母乳育児の保護,推進,支援の意味を明確に解説し,また病院が「赤ちゃんにやさしい病院」認定を受けるまでのプロセスを具体的に示した手引書でもある。

 構成はセクション1の「背景と実施」で,国,病院として実施すべき支援内容とBFHのための評価基準を解説し,母乳代用品のマーケティングに関する国際規準の意義と解説を網羅している。セクション2の「BFHIの強化と維持:方針決定のためのコース」では,母乳育児を阻む諸問題への解決策のほか,母乳育児を具体的に推進するために,病院の意思決定者(院長,経営者,部門責任者ら)や政策決定者にBFHIの影響と理解を促す内容となっている。

 母乳育児の利点については,2003年に出版された「18時間コース」にはなかった「10ヵ条」の科学的根拠について詳細な文献レビューを提示しながら説明している。また,スタッフ教育の効果的展開をめざし,コースの開催方法や母乳育児継続にまつわる具体例を記載し丁寧に解説しているため,いわば教育コース実施者のための有用なガイドとなり得る。

 セクション4の「病院の自己査定とモニタリング」には,病院がBFHの評価基準を満たし「10ヵ条」をすべて実行しているかどうかを確認するためのガイドラインとツールが記載されており,BFHとして外部アセスメントを受ける準備ができているかどうかを評価できる。

 母乳育児は世界中の母子に対して,さまざまな利点が証明されているが,その実践は時に障壁に妨げられ,疲弊をもたらすこともある。それは,個々の支援者の知識や熱意だけでは限界があることを意味する。母乳育児には支援者1人ひとりの個としての努力も必要とされるが,病院,地域,行政,国レベルでの取り組みも必須である。

 2009年に発行された「赤ちゃんとお母さんにやさしい 母乳育児支援ガイド ベーシック・コース」は,支援者と管理者にとっての実践編であり,本書は専門家や管理者にとって,母乳育児を成功に導く際に不可欠なガイダンスである。これらを有効活用し,赤ちゃんとお母さんにやさしい病院と社会の構築,実現に役立てていただきたい。

(『助産雑誌』2011年11月号掲載)

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