はしがき
看護を取り巻く環境
私たちを取り巻く社会は,目ざましい発展を遂げている。保健医療の分野においても,新しい治療法,医療機器の登場だけでなく,バイオテクノロジーやITなど先端技術の応用も進み,その進歩は日々とどまるところを知らない。しかし一方で,少子高齢化の進行,疾病構造の変化,世界規模での経済環境の変化など,広く社会・経済の構造に根ざし,医療界に波及せざるをえない大きな問題が,わが国に重くのしかかっている。
それに伴って保健医療は,法律・制度面だけでなく,業務の内容・運用や従事者の教育に関して真剣な検討や対応を余儀なくされ,看護業務あるいは看護教育のあり方も大きくかわろうとしている。
こうした一連の環境の変化は,保健医療に対するニーズそのものの増加と,その多様化・複雑化として現れてきている。このような情勢のなかで,皆さんはいま,「看護」という専門領域に進もうとしている。
看護の役割と「専門基礎科目」
看護とは,一般的には傷病者の手当てをしたり,世話をしたりすることであり,非常に幅広い概念である。その定義については,さまざまな看護理論家の定義や国際看護師協会(ICN)の定義などを参照していただきたいが,著者は,人間の自然治癒力を引き出し,生きる希望と力を与え,生涯にわたり尊厳をもって輝く人生を送れるように支援することであると考える。
そのため,単に看護技術を習得したというだけでは,本当の看護は実践できず,人間の健康と健康障害,心理,生活など,身体的側面や精神的側面,社会的側面を理解することが,看護実践の背景として必要とされる。
「専門基礎科目」は,医学・生物学・心理学・倫理学・社会福祉学などの領域の知識の習得を通して,看護の対象である人間を理解する基礎を身につけることを目的としている。
本書をもとに十分に学習し,しっかりとした知識を土台として,人の状態や心理,さまざまな背景を理解できる看護職者になられることを願ってやまない。
改訂の経過とカリキュラムの変遷
本書は,1970(昭和45)年に准看護学生のための教科書として初版が刊行された。以来,その役割とその重要性に鑑みて,医学・看護学および周辺諸科学の発展・分化や,社会の変化などをいち早く読み取りながら,定期的に改訂を重ね,看護の質の向上に資するべく対応してきた。さらに,教科内容の設定なども含めて,あえてこれを教科書に具体化して示してきた。
2002(平成14)年4月に導入された新カリキュラムでは,以前に増して総授業時間数が大幅に引き上げられる一方,「看護と倫理」「患者の心理」や「精神看護」などの新たな教科が追加された。新設の教科は講座の体系に取り込み,また授業時間数が大きく増えた 「専門基礎科目」の各教科とも,情報・記載量などを考慮して改訂を行った。同時に,この間,学習者の利便を考慮しながら,記載内容の刷新・増補,解説の平易化をはかり,より学びやすい教科書づくりに努めてきた。幸い,このような編集方針は全国の教育施設から評価をいただき,本書を幅広く利用していただくこととなった。
改訂の趣旨
「保健医療福祉のしくみ」は,現在のわが国の保健,医療,社会保障の制度の全体像が理解されることを主眼としている。人は疾病や障害により健康だけでなく生活もそこなう。看護職を目ざすみなさんが,患者の社会的な背景を理解し,幅広い視点で看護を実践できるよう,看護にかかわりが深い制度に重点をおくなど,構成を工夫したつもりである。
「看護と法律」は,前回の改訂以来の看護と医療を取り巻く情勢の大きな変化をふまえ,内容と構成を大きくかえた。この間,利用者の視点と安全を重視した2006(平成18)年の医療制度改革において,看護師・准看護師制度も大きな改革が行われたほか,後期高齢者医療制度(長寿医療制度)の創設と見直し,障害者自立支援法の施行と見直しなどの大きな変化がある。さらに,看護の質の向上のための2009(平成21)年の保健師助産師看護師法の改正にも対応している。
また,准看護師教育だけでなく,広く看護学の学習内容にも配慮した使いやすい教科書を目ざしたつもりである。
本書はこれからも機会あるごとに,有用かつ使いやすい教科書を目ざしていく所存である。本書を准看護師教育にご活用いただき,各位の忌憚ないご意見をお寄せいただければ幸いである。
2009年11月
著者ら