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上肢運動器疾患の診かた・考えかた
関節機能解剖学的リハビリテーション・アプローチ

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理学療法士・作業療法士をはじめセラピストが治療を行ううえで、機能解剖学および生理学の知識は必須といえる。本書では、頚椎-手指関節(頚椎/肩/肘/前腕/手/指関節)の上肢部位について、関節機能解剖学の観点から取り上げた。各疾患により生じる症状に応じた疼痛解釈や可動域改善を得るためのアプローチ方法など、適切な時期に適切な治療を行うための知識をわかりやすく解説する。
編集 中図 健
発行 2011年05月判型:B5頁:280
ISBN 978-4-260-01198-3
定価 5,060円 (本体4,600円+税)

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 早いもので,私が臨床の場に携わって12年が過ぎました。多くの整形外科疾患に携わるなかで,挫折・失敗を繰り返しながらではありましたが,2つの答えを導きだすことができました。
 まずひとつは「適切な時期に適切な治療を行う」ことです。当たり前のように思えますが,実践するのは意外と難しいものです。
 術後や受傷後,障害された組織の修復過程に応じて生じるであろう病態をなるべく回避し,機能を再獲得していく治療がわれわれの理想とするものではないでしょうか? その意味で,術後の固定肢位・無駄な腫れを長期化させない術後管理が何より重要であると思います。しかし,早期運動療法は非常に高いリスク下での治療となりますので,医師との信頼関係もしっかりと築いておく必要があります。では,(1)信頼関係の基盤となるもの,(2)病態を的確に把握し治療していくのに必要なものは何でしょうか? これらの答えは同じだと思います。それは,機能解剖学・生理学の知識を基とした治療技術だと私は確信しています。
 われわれセラピスト(療法士)は,外科医と違い,手術や注射による直視下での治療は行えません。体表から患者さんの状態を把握し,腫れ・痛み・可動域制限の原因を探っていかなければいけません。それを可能にしてくれるのは,機能解剖学・生理学の知識でしょうし,その知識があれば,今ある病態像だけでなく,今後生じるであろう病態像を予測したうえでの治療が可能になることでしょう。つまり,幅広く応用が効くということになりますし,医師からの信頼を得るには十分な材料であると思います。
 もうひとつは「セラピストの質は日々の臨床努力により向上する」ということです。これも当たり前に聞こえますが,読者の皆様はどう考えますか? センスがある人のみが伸びていくと思いますか? 答えは完全に“No”です。
 たとえば先輩の行っている臨床場面で,「なぜ次にそこの可動性をみるのか?」「なぜ次にその所見をとるのか?」などの疑問を持ったことがないでしょうか? それは日々症例を診ていくなかで,最短で患者さんの状態を把握し,治療へ繋げていくプロセスが頭のなかででき上がっているからだといえます。それはセンスだけでは絶対に真似できないことです。日々,真剣に患者さんと向き合っているからこそ可能な技術だといえます。日々の臨床で「自分はなぜ,次にこの所見を取りたいのか?」「なぜそうだと考えたのか?」といったことを常に自問自答していれば,年数を重ねながら自分だけのプロセスができ上がってくると思います。
 したがって,日々の臨床を大切に,一例一例ごとに頭を悩ませながら治療していくことが,セラピストとしての質を向上させる一番の近道なのではないでしょうか。
 以上2点が,私が導きだした答えです。基本的なことですが,基本ほど大切なことはないと思いながら本書を臨床に生かして頂ければ幸いです。
 最後になりましたが,お忙しいなか本書の制作に携わっていただいた医学書院編集担当 北條立人様,制作担当 吉冨俊平様,そして,私よりもはるかに忙しい仕事をしながら,支えてくれた最愛の妻 香陽子,息子 拓未に感謝します。

 2011年3月
 中図 健

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I.頚椎
 A.基本構造
  1.脊柱の骨格
  2.頚椎を構成する骨格の特徴
  3.頚椎の構造
  4.頚椎のバイオメカニズム
  5.頚椎に生じる変性変化
  6.脊髄神経
 B.おさえておくべき疾患
  1.頚椎症性脊髄症
  2.頚椎症性神経根症
  3.胸郭出口症候群
 C.臨床症状の診かた・考えかた
  1.初診による臨床症状の捉えかた
  2.椎間関節由来の痛みの解釈
  3.軸性疼痛
  4.椎間関節にストレスを与える要因
 D.治療方法とそのポイント
  1.頚椎症状へのアプローチ方法
 E.ケーススタディ
  1.頚椎椎間板ヘルニアにより頚椎症性神経根症を呈した症例
  2.椎間孔拡大術後,過外転症候群を呈した症例

II.肩関節
 A.基本構造
  1.肩関節の骨格
  2.肩関節を連結する関節構造
  3.肩関節を構成する筋群
  4.肩関節のバイオメカニズム
 B.おさえておくべき疾患
  1.インピンジメント症候群
  2.脳血管障害後に生じる肩関節痛
  3.上腕骨頚部骨折
  4.肩関節脱臼
  5.上腕骨骨幹部骨折
 C.臨床症状の診かた・考えかた
  1.疼痛・可動域制限の解釈
  2.経過から診る問題点の違い
  3.通過障害の解釈
 D.治療方法とそのポイント
  1.肩関節障害へのアプローチ方法
 E.ケーススタディ
  1.交通事故により肩関節脱臼を呈した症例
  2.事故により鎖骨骨折を呈した症例

III.肘関節
 A.基本構造
  1.肘関節の骨格
  2.肘関節を連結する関節構造
  3.肘関節を構成する筋群
  4.肘関節のバイオメカニズム
  5.加齢に伴う変性変化
 B.おさえておくべき疾患
  1.肘頭骨折
  2.肘関節脱臼
  3.上腕骨外側上顆炎
  4.肘関節後外側部痛
  5.上腕骨顆上骨折(成人)
 C.臨床症状の診かた・考えかた
  1.肘関節浮腫の解釈
  2.可動域拡大を考える際の留意点
  3.肘関節横断面からみた可動域制限因子
 D.治療方法とそのポイント
  1.肘関節可動域制限へのアプローチ方法
  2.スプリント療法
 E.ケーススタディ
  1.事故により上腕骨顆上骨折を呈した症例
  2.スノーボードにより鉤状突起骨折を呈した症例

IV.前腕
 A.基本構造
  1.前腕の骨格
  2.前腕を連結する関節構造
  3.回旋運動に関与する筋群
  4.回旋運動
  5.前腕骨骨折の分類
 B.おさえておくべき疾患
  1.橈尺骨骨幹部骨折
  2.橈骨頭骨折
 C.臨床症状の診かた・考えかた
  1.回旋障害を生じる要因
  2.回旋軸・治療軸と筋横断面との関係
 D.治療方法とそのポイント
  1.回旋障害へのアプローチ方法
  2.スプリント療法
 E.ケーススタディ
  1.橈尺骨骨幹部開放骨折に橈骨神経麻痺を合併した症例
  2.転倒により橈骨頭骨折を呈した症例

V.手関節
 A.基本構造
  1.手関節の骨格
  2.手関節を連結する関節構造
  3.手関節を構成する筋群
  4.手関節のバイオメカニズム
 B.おさえておくべき疾患
  1.橈骨遠位端骨折
  2.TFCC損傷
  3.キーンベック病
  4.舟状骨骨折
 C.臨床症状の診かた・考えかた
  1.浮腫の解釈
  2.手関節可動域制限を生じる要因
  3.手関節横断面からみた障害発生要因
 D.治療方法とそのポイント
  1.手関節障害へのアプローチ方法
 E.ケーススタディ
  1.橈骨遠位端骨折後,創外固定が行われた症例
  2.手関節捻挫により手関節回旋時痛を呈した症例

VI.指関節
 A.基本構造
  1.指関節の骨格
  2.指関節を連結する関節構造
  3.指関節を構成する筋群
  4.指関節運動
 B.おさえておくべき疾患
  1.中手骨骨折
  2.基節骨骨折
  3.ド・ケルヴァン病
  4.Guyon管症候群
  5.手根管症候群
  6.バネ指
  7.母指CM関節症
 C.臨床症状の診かた・考えかた
  1.浮腫の解釈
  2.手のアーチ構造に関与する組織の解釈
  3.手指拘縮原因の分別方法
 D.治療方法とそのポイント
  1.指関節可動域制限へのアプローチ方法
 E.ケーススタディ
  1.中手骨骨折後,伸筋腱癒着を呈した症例
  2.手根管症候群により母指対立再建術が行われた症例

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上肢運動器疾患にかかわるセラピスト待望の書
書評者: 佐藤 真一 (健康科学大教授・作業療法学)
 本書の帯にある「理学療法士/作業療法士に必要なのは 機能解剖学と生理学の知識です!」はまさに本書の性格を言い表している。セラピストが治療を実施するときには,まず機能解剖学と生理学の正確な基礎知識を基盤に持たなくてはならない。その上で臨床症状をいかに解き明かすか,本書はその診かた・考えかたをわかりやすく説いている。部位別に頚椎から肩関節以下,手指関節までを関節ごとに関節機能解剖学の観点から読み解き,また治療方法とそのポイントも図や写真を多用し,視覚的にもイメージしやすく解説している。

 上肢運動器疾患に携わる理学療法士・作業療法士はここ数年増加しており,上肢関節部位ごとの整形外科学会に併設されているセラピストの学会・研究会でも近年活発な意見交換が行われている。また作業療法に関係する学会においても上肢運動器疾患に関しての演題は増加しており,ポスター発表においても若手のセラピストを中心に活発な意見交換が行われている。そのような現状の中で,本書は基礎知識の再確認と臨床現場での問題解決に役立つ本といえる。

 また,各章のケーススタディにおいては,“Thinking Point !!”としてケース個々の着目点を挙げ丁寧な解説がなされている。これは臨床家の視点として重要であり,日頃の臨床場面における悶々とした疑問を解決するための早道を示している。前述の本書の帯に書かれているように「機能解剖学」「生理学」の基礎知識の上に成り立つ治療視点である。

 編集・執筆に当たった中図健氏は関節機能障害研究会を主宰し,非常にアクティブに活動しており年数回の講習会や研修会を開催している。この研究会では,機能解剖学と生理学の基礎知識を基盤に,丁寧な臨床研究を通した症例を紹介し,非常にわかりやすい講演を行い参加者から高い信頼を得ている。同時に,臨床に戻ってすぐに使える知識・技術の伝達も行っている。これらの深い蓄積が本書に凝縮されているといえよう。

 上肢運動器疾患にかかわるセラピストにとって座右の書となるとともに,初学者や養成校の学生にとっても各章の「A.基本構造」,「B.おさえておくべき疾患」,「C.臨床症状の診かた・考えかた」を読み通すことで上肢運動器疾患をより身近なものに感じることができる一冊である。
丁寧な観察眼と機能解剖に則してまとめられた良書
書評者: 福井 勉 (文京学院大教授・理学療法学)
 本書は作業療法士である中図健先生をはじめとした5名の執筆者が上肢運動器疾患に絞って,治療概念を披露された意気軒昂な良書である。

 頚椎,肩関節,肘関節,前腕,手関節,指関節の6章からなり,おのおのの章は「基本構造」,「おさえておくべき疾患」,「臨床症状の診かた・考えかた」,「治療方法とそのポイント」,「ケーススタディ」の5項目からなる。「基本構造」は解剖学と運動学であり,多くの図を駆使したわかりやすいレビューで構成されている。「おさえておくべき疾患」では臨床上,頻繁にみる症例を中心に疾患の定義・成因・好発年齢・予後,および整形外科的な診断基準や臨床症状,通常よく行われる治療方法について述べられている。

 しかし恐らく,本書の最も特筆すべき内容は,各章における「臨床症状の診かた・考えかた」,「治療方法とそのポイント」にあると思われる。筆者の症状のとらえかたは臨床経験のある読者が最も興味をひかれる部分であろう。疼痛や可動域の解釈,可動域拡大を考える際の留意点,浮腫の解釈,thinking pointと称する筆者のクリニカルリーズニングのポイントがさまざまな個所で見られる。読んでいて最も納得させられるのは,筆者の丁寧な観察眼とあくまでも機能解剖に則するという観点である。理論的飛躍をしないような決意が感じられる。そして「あきらめないぞ」というような強い意思やチャレンジ精神も感じられた。本書の思考回路で臨床を実践することにより,取りこぼしの少ない,確実に臨床結果につながるような経験を積むことができるであろう。

 また本書は少人数の勉強会にも適していると思われる。疾患の基本的内容を把握するうえで,まずは本書をテキストとして完全に消化して,お互いに人前で説明をしてみたら理解が深まると思う。また症例に対する自分のクリニカルリーズニングの思考回路のガイドとして本書を用いて実践したらいかがだろう。そういう経験を積み重ねることができれば最後の「治療方法」にぜひ挑んでほしい。筆者も恐らく多くの経験値から自らの考えかたを築いていったのではないだろうか。

 「このような思考方法を積み重ねていけば,新しい知見を得ることができる」,そのような想起をさせてくれる本はほかにあまりないように思われる。

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