第2版の序
平成元年に医学部を卒業し,米国を中心に8年間,その後フランスで8年間,そして初版から今回の改訂までの約8年間を聖路加国際病院でアレルギー膠原病科医として診療にあたらせていただいています。初版はフランスで診療していたときに書いたものでしたが,今回は8年間の日本での経験をもとに,最新の知見も含めて日本での診療により即したものになるようにと考えて書き加えています。
まずは第1章を通読していただくことで,アレルギー全般に共通する考え方や診断と治療の原則を理解していただければと思います。その後の各論は,診断から患者さんへの説明,治療法の具体例など実際の診療につながる内容になっています。また,日本でのアレルギー診療における重要性の高い分野である薬物アレルギーの章は,特に大幅に内容を増やして改訂しています。実臨床で役に立てられるように,数多い薬物アレルギーそれぞれの臨床的特徴と原因薬物,そして治療に関して具体的に記載しました。また,重症薬疹に関しては,早期発見のための皮疹以外の所見の重要性,日常診療で重症薬疹を引き起こさないための処方上の注意点なども参考にしていただければと思います。抗菌薬,抗腫瘍薬などはアレルギーの既往があっても治療上必要になってしまうこともあるので,減感作治療プロトコールなどもより多くの薬剤に関して具体的に記載するようにしました。
全体的な内容としては,入院患者さんを中心に診療している若い先生に特に重要なアナフィラキシー,薬物アレルギーなどから,外来診療がメインの先生方に関連の深い,じん麻疹や接触性皮膚炎などのcommon diseasesまで,アレルギー疾患全般をカバーしています。アレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患においては,ほんの少しの知識の向上が治療効果の大きな改善につながることが多いのが実情で,アレルギーを系統的に修得する機会の少なかった先生方のお役に立てればと思っています。
現在は基礎免疫学の進歩が,実際にアレルギー診療に応用される時代になっています。それぞれの薬剤の臨床的特徴のみでなく,免疫学的な機序を理解することは,薬を効率的かつ効果的に処方することだけでなく,実際の患者さんへの説明にも非常に役立ちます。とはいえ,基礎免疫学の論文や教科書を読む時間を確保することはなかなか難しいと思いますので,各章の間にコラムとして免疫学的な内容を単純化した図や実臨床における例を入れながら記載してあります。まずは第1章を読んでいただき,その後に各論のはじめにあるポイントと気になるところを眺めていただいてからこのコラムを1つずつでも読んでいただくと,より理解しやすいのではないかと思います。
私が米国でアレルギーの専門教育を受けてから約20年が経ちました。初版は一度目の更新試験を2005年に受けてから書いたものでしたが,今回の第2版は2015年の2度目の専門医更新試験受験資格を得るための何十時間にも及ぶ課題を提出したところで書かせていただきました。米国で学んだ臨床免疫学,フランスで何千人という患者さんたちから学ばせていただいたアレルギー診療の実際,そして日本での診療経験のすべてを記載したこの本が少しでも多くの先生とその患者さんたちのお役に立てばと願っています。
2014年9月
岡田正人