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臨床精神薬理ハンドブック 第2版

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向精神薬の基礎と臨床がわかる大好評のハンドブック、6年ぶりの改訂第2版。治療ガイドラインやアルゴリズムに沿いつつ、薬理生化学、生物学的な理解に基づいた薬物治療計画、副作用の機序などを解説。各種向精神薬の最新情報はもちろん、神経伝達のメカニズムや薬物動態、基礎研究手法、治験まで、これ1冊で向精神薬に関する知識を網羅。精神科医はもちろん、中枢神経系の基礎研究者、向精神薬を処方する一般臨床医にも好適の書。
監修 樋口 輝彦 / 小山 司
編集 神庭 重信 / 大森 哲郎 / 加藤 忠史
発行 2009年11月判型:B5頁:448
ISBN 978-4-260-00866-2
定価 9,350円 (本体8,500円+税)
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第2版の序

 向精神薬がこの世に登場してやがて半世紀になる。薬が登場することにより「神経精神薬理学」という学問が生まれ,国際神経精神薬理学会(CINP)がスタートしたわけだが,他の多くの学問や学会が疾患と共に始まったことを考えると,その成立過程はやや特殊であったのかもしれない。いずれにしろ,この半世紀の間に学問はすさまじい勢いで発展し,国際学会もCINPを中心に多くの地域別の学会や各国の国内学会が活発に活動し,今日に至っている。
 一方,新規薬剤の開発も大きな発展を遂げた。抗精神病薬や抗うつ薬の開発は勿論のこと,最近では社会からの要請が大きい認知症や発達障害の治療薬にも関心が高まっている。向精神薬の開発の場合,最も根本的かつ困難な問題は,大半の対象疾患の原因・病態がまだほとんど解明されていない点である。そのため,ほとんどが仮説検証的アプローチにならざるを得ないのである。開発の安全性を考えると,どうしてもまったく新規の仮説に従った薬は手がけにくく,いきおい「me too drug」に傾きがちである。さらに向精神薬の開発で困難を伴うのは,薬効を評価する客観的指標がない点である。症状評価に頼らざるを得ず,プラセボ反応率も高くなりがちである。グローバル開発の時代に入っているが,解決すべき課題は山積している。
 さて,6年ぶりに本書が改訂された。この機会に基礎編を中心に構成も改めた。この間,新規の薬剤もいくつか登場しており,薬理および臨床の実際にも新知見が加えられた。最近,向精神薬の副作用に関心が集まっているが,副作用の機序を考えるうえでも薬理の知識は必須である。特に,精神科における専門医制度が本格的にスタートする時期を迎えて,専門医にとっては精神薬理の知識は不可欠である。本書の改訂は,このような状況を踏まえて行われたものである。本書は初版を作成する際に「神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の両方の視点から,両者を統合する」ことを目論見にした。この基本コンセプトはこの改訂版においても踏襲されている。今回の改訂版では図のタッチをそろえて,益々読みやすい誌面構成になったと自負している。本書が引き続き「ハンドブック」として基礎,臨床の現場で活用されることを願っている。

 2009年9月
 監修・編集者一同

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第I編 神経精神薬理の基礎
第1章 神経情報伝達のメカニズム
第2章 薬物動態学
 I 薬理遺伝学
 II 薬物相互作用
 III 血中薬物濃度モニタリング(TDM)
第3章 精神薬理学の研究手法
 I 生理学的手法
 II 生化学的・分子医学的手法
 III 行動薬理学的手法
 IV 時間薬理学的手法
 V 脳画像研究
第4章 臨床薬理学の方法論
 I 治験の方法論と進め方
 II EBM-臨床試験の結果を適切に臨床に応用するために

第II編 精神薬理の理論と実際
第5章 統合失調症
 I 統合失調症の薬理/抗精神病薬
 II 統合失調症の薬物療法
第6章 気分障害
 I 大うつ病性障害の薬理/抗うつ薬
 II 大うつ病性障害の薬物療法
 III 双極性障害の薬理/気分安定薬
 IV 双極性障害の薬物療法
 V 電気けいれん療法
第7章 不安障害
 I 不安障害の薬理/抗不安薬
 II 不安障害の薬物療法
第8章 睡眠障害
 I 睡眠障害の薬理/睡眠薬
 II 睡眠障害の薬物療法
第9章 てんかん
 I てんかんの薬理/抗てんかん薬
 II てんかんの薬物療法
第10章 認知症
 I 認知症の薬理/抗認知症薬
 II 認知症の薬物療法
第11章 物質使用障害
 I アルコール依存の病態と治療
 II 薬物依存の病態と治療
第12章 自閉症,注意欠陥/多動性障害,チックの薬物療法
第13章 せん妄の薬物療法

和文索引
欧文索引

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「生物学的な話は苦手」と言う若手精神科医に
書評者: 尾崎 紀夫 (名大大学院教授・精神医学)
 約30年前,筆者が医学生であったころ,精神医学講義の主たる内容は精神症候学(精神病理学)であり,「ほかの臨床各科と異なり,精神医学は基礎医学の内容との連続性が乏しい」と感じたことを覚えている。象徴的であったのは,ほとんどすべての疾患を説明する病理学の講義で,認知症を除けば精神疾患が全く触れられなかったことだ。

 先日,若い精神科医と雑談をしていたところ,「血液内科をローテートしていたときは,遺伝子など基礎医学的な事柄が臨床と直結していたが,精神科の臨床は基礎医学的な内容とは随分遠いように感じる。そのせいか精神療法や精神病理の話は頭に入るのだが,生物学的な論文はどうもピンとこない」という話を聞いた。生物学的か心理社会的な方向性かという各人の指向性もあるのだろうが,精神科臨床には鑑別診断を除いて検査は有用ではないし,「分子標的薬」が臨床段階ではないのが現状である。

 また,EBMは「直感,非系統的観察,病態生理学的機序あるいはエキスパートのオピニオンのみでは臨床判断の十分な基盤とならない」と主張しており,「病態生理」は二の次で,「臨床研究によるエビデンス」だけを重視してしまうきらいがある。特に,精神科治療においては薬物療法の場合であっても検査データではなくハミルトンうつ病評価尺度のような精神症状評価によって臨床効果が判定されることが,この傾向に一層の拍車をかけているように思う。

 さらに困ったことに,日本神経精神薬理学会と日本臨床精神神経薬理学会が分かれているという日本の精神医学会固有の問題がある。学会レベルにおいても,精神科薬物療法に関する議論が,基礎薬理と臨床薬理の二つに解離してしまう危険性が高い。この問題の解決を企図して,両学会統合の動きがあるものの,いまだ実現していない。

 以上述べたような状況において,本書の編者たちがめざしている「神経精神薬理学と臨床精神科薬物療法の両方の視点から,両者を統合する」ことこそ必要不可欠であり,筆者が待望するものであったが,本書は見事な成功を収めている。また,本書は「ハンドブック」と銘打っているが,ハンドブックすなわち“A concise manual or reference book providing specific information or instruction about a subject[American Heritage Dictionary]”とは異なり,精神薬理分野の情報を網羅して,かなりのvolumeがある。しかしながら,文章も体裁も読みやすさに十分な配慮がなされており,実際に読んでみるとvolumeを感じさせない。「生物学的な話は苦手」と言っていた若手精神科医に本書をぜひ推薦してみようと思う。
今日の精神科医に求められる薬物療法の知識
書評者: 石郷岡 純 (東女医大教授・精神医学)
 好評だった『臨床精神薬理ハンドブック』が6年たち改訂され,第2版となり発行された。一つのまとまった書籍が6年後に改訂されることは一般的にはやや早い印象もあるが,臨床精神薬理の分野を網羅的に解説した教科書は多くはなく,またこの領域の進歩は速いので,この改訂は時宜を得たものであろう。

 さて,本書の構成はオーソドックスなもので,中枢神経の情報伝達,薬物動態,研究手法など基礎的事項の解説からなる第I編と,疾患ごとに章立てされ,各章の中でその主要な治療薬の薬理と治療の実際が解説される第II編からなっている。

 今日,精神疾患の単位とその治療薬の対応関係は一対一の関係ではなくなりつつあるので,次の改訂では実際の治療は別のパートとなることが求められることになろう。このように,精神薬理学の書籍の構成は簡単ではなく,すべての領域・階層を網羅的に解説しようとすると,生理学・生化学,研究手法,倫理学などの関連学問から,基礎的な精神薬理学,臨床精神薬理学,さらには疾患ごとの標準的薬物療法までの包括的な記述が必要となり,本書はB5判,448頁の標準的な教科書サイズであるが,おそらくはこの数倍のページ数となることが予想される。実際海外にはそのような大部の書物も存在する。

 したがって,本書に専門書としての精神薬理学のすべてを求めることは編者の意図とは異なることになり,本書の価値はまさに「ハンドブック」であることであり,その意味では最良のハンドブックに仕上がっているのである。すなわち,精神疾患の薬物療法の初学者がある疾患の治療法の概略を知りたいとき,臨床医が知識を再確認したいとき,本書は価値を発揮するであろう。

 本書は基礎医学的知識も得られるような構成がされているが,それはあくまでも臨床家が知識をもう一歩深めたいときに役立つように記述されているので,基本的な使い方としては,各疾患の標準的薬物療法をその周辺知識と合わせて理解したいときに,該当の章を通読することから始められるべきであろう。内容は一見するとやや専門的に感じるかもしれないが,今日の精神科医にはこのくらいのレベルの知識が要求されているのである。その上で,各臨床家の関心に従ってさらに専門的な書物・文献に当たっていくという利用法がされたとき,本書が極めて効率的で良質な情報を提供していることに気がつくであろう。

 執筆陣は精神薬理学の領域におけるわが国の気鋭の方々であり,各項目が過不足なくまとまりを持っているので,安心感を持って読み進めることができる。文献欄は,さらに読むべき優れた総説ないしは書物が参考文献としてまとめてあればより好ましかったが,あとは読者の努力次第という監修者・編者からのメッセージと受け止めたい。

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